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17:芽生えたこころ

 夕飯を食べて、二人に美味しいって言ってもらうのがとても嬉しかった。

 もうそれだけで、顔が緩む。

 桜華ちゃんに変って突っ込まれるけど、嬉しいんだから仕方がない。


「ここまで機嫌のいい燈佳は初めて見る」

「安心して、私もだから」


 そんなに変かな……? ボクにとってはいつも通りなのに。


「燈佳ちゃん、お風呂はいってきたら?」

「え、あ、うん、そうだね」


 洗い物ももうすぐ終わるし、お言葉に甘えて最初に入ろうかな。

 というか、お風呂はなぜかボクが一番最初なんだけどね。桜華ちゃんがあれをやるせいで。

 でも本来だったら、お客様である瑞貴くんに先に入って貰った方がいい気がするけど。


「で、俺はどうすりゃいいんだ……」

「燈佳ちゃんがお風呂に入ってる間に寝具の準備手伝って」

「……は?」

「今日は、泊まって行ってくれると燈佳ちゃんが喜ぶから」


 うん。ボクはそうしてくれると嬉しい。


「まて……待て待て待て! マジでまって!?」

「何?」

「イヤ、いいの? 俺が泊まって。一応これでも男なんだけど。というか健全男子を女子二人しかいない空間に入れないで。若いリビドーが暴走する」

「すれば……?」

「いいのかよ!!」

「あー……うん、今日はダメだと思うけど。時期的に危ないし、ゴムとかないし……」

「お、おう……」

「するなら、お風呂場で一人でしてね。トイレとかでしたら許さないから」

「いや、風呂場もどうかと思うぞ……」

「そうなの?」

「ああ……。最悪、配水管が詰まる」

「……そうなの?」

「お湯で固まるからな。ってちげえよ! 何いわせんだよ!?」

「勝手に言ったのはそっちじゃない。でもそれは知らなかったから。ありがたい情報ね。私はいっつもお風呂場だから」

「お、おう……」


 なんか盛り上がってる。ずるい。いいなあ。

 後なんか瑞貴くんの顔が赤い。桜華ちゃん一体何を言ったの?


「ねえ、何の話してるの?」

「燈佳(ちゃん)にははやい話(だ)」

「えー……ボクも一応同い年なんだけど……」


 ぴしゃりと話を打ち切られた。ちょっと悲しい。

 ボクだって一緒に話に加わりたかったのに。


「それで瑞貴くん、泊まって行ってくれるよね?」

「いいのか……? そりゃ、燈佳が寝るまでは居るって約束したから居るけれど」

「いいよね、桜華ちゃん」


 ボクは桜華ちゃんに確認を取る。

 家主は桜華ちゃんだ。ボクはただの居候でしかない。最終決定権は桜華ちゃんが持ってるから、本人が断ったら帰って貰うことになる。

 けれど、断らないのは分かってる。瑞貴くんが居ないときに泊まって貰おうかって言ったのは桜華ちゃんだし。


「うん、だって私から言い出したし。燈佳ちゃんの為だから」

「ふむ……まあ、今日くらいは信用出来る男がいた方が安心だろう。後布団はいいよ。俺そこで寝るし」


 指したのはソファーだ。それは、ダメだと思う。

 お客さんをそう言うところで寝かせるのはいけない。


「ボクのベッド使ってもいいよ」

「それはダメだわ……いくらなんでも、ダメ過ぎる……。燈佳お前、俺誘ってんの……?」

「え、ど、どういうこと!?」


 誘ってるって何に? 意味が分からないんだけど。

 いや、え、えー?


「……部屋は勝手に決めておくから燈佳ちゃんはお風呂に入ってくる! 長風呂して来てくれた方がありがたいけど、逆上せないようにね」

「え、あ、うん。じゃあ、入ってくる」


 体よく追い出されたのは分かった。でも、ボク何か変なこと言った?

 思い返しても、どこも変なことは言ってないはず。

 だって、この家って和室無いからフローリングに布団の直引きなんて、結構辛いと思うんだ。

 だから、親切心で言ったのに……。えー……。


 一度部屋に戻って着替えを取ってお風呂に。

 長風呂をしてもいいって言われたけど、うーん……。普通に髪を洗って体を洗って洗顔しても、三十分くらいだし……。湯船に浸かっても四十分。うーん……?

 まあ、いっか……。


 服を脱いで、浴室に入って、浴槽にお湯を貯め始める。その間に体を洗ってしまおう。

 一度櫛を通して、お湯を目一杯被って、しっかりと汚れを取る。シャンプーを泡立てて、毛先を撫でるように洗って。

 いつものように、髪を洗って体を洗って……。

 そして、教わったとおりに性器を洗おうとして、ふと……。


「そんなにいいものなのかな……」


 桜華ちゃんが言ってた慰めるという言葉に行き当たった。

 ううん、前から興味は少しだけあった。でもその一線だけは越えちゃ行けない気がして。

 洗うときにぞわりとする事はあったけれど、もしかしてそれがあれだったのかな……。

 男の時でもしたことの無かった行為。


「んっ……」


 義務的に洗っていたときは違って、意識を切り替えるとそれだけで背筋に甘い刺激が走った。

 これはボクには刺激が強すぎる……!

 でも、その甘美なしびれは、どうしても抗えない。

 もっともっとと、体が、心がほしがってくる……。


 「洗わな……ひぅ!」


 今……ボクはどこに触れたの……。

 お湯に濡れた手で優しく触る。ぴりぴりともどかしい刺激がお腹の奥に届いて、胸が締め付けられる様な甘い切なさが返ってくる。

 それをもっと味わいたくて。刺激の強い所をずっと、ずっと探し続けて……。


「あっ……いや……なにか……んんっ!」


 体が震える。何かがキた。

 だけどその何かが分からない。

 甘く痺れて、蕩けるような感覚をまた味わいたい。


「はぁ……はぁ……」


 けど、もう続きをするような気力は無くて。

 体には気怠さだけが残った。 


「ん……はあ……」


 うう……なんてことをしてしまったんだボクは。

 一頻り行為に耽って、自己嫌悪に陥る。

 でも、気持ちよかった……。最初に桜華ちゃんに体中を弄られた時みたいだった……。

 あ……、ボクあの時感じてたのか……。


 体を丁寧に洗い流して。

 お湯に浸かって、今日あったことを思い返す。

 怖いことがあった、けれどもそれ以上に瑞貴くんが助けに来てくれたことが嬉しかった。

 離れたくないと思ったし、できることならずっと一緒に居て欲しかった。

 だから、お願いした。

 だけど、考えてみればこれって、ボク、やっぱり瑞貴くんの事好きってことなのかな……。


「好き……なのかな……」


 その言葉を発して、瑞貴くんのことを考えると胸が締め付けられる様な感じがした。

 でも、この感じは嫌じゃ無い。それこそ今やってしまった自慰みたいで。

 だめだ……。それ関連づけたらボク、瑞貴くんの顔を見られなくなる。

 頬が熱い……。逆上せないうちに早く上がっちゃおう。

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