03:ボクとみんなの関係
なんかとんとん拍子でGWの予定が決まってびっくり。
くるにゃんと立川くんは用があって参加できないから、結局遊びに行くのは四人。
場所は、その日の気分次第って、大雑把だなあ……。
殆どノープランもいい所だよ。
そして今は放課後。教室内に人は疎らで出来上がったグループ内では一様にGWの事を話しているみたいだ。
それでボク達もこれからどうしようかって話なんだけど。
結局明日からGWでみんなと顔を合わせることが暫くはなくなるからね。
みんな暇なら一緒に遊びたいかな。
くるにゃんと立川くんは用事と部活でもう既にいないけど。
「ひーちゃん、今日はどうぞおつきあいよろしくお願いします」
「改まらなくてもいいんだけど……。というかあたしもそこまで詳しくない。瑞貴とか姫ちゃんの方がいいんじゃ」
「あの二人は多分私が理解できない言語を使うから」
桜華ちゃんがボク達二人を警戒してる。
だって、ノートパソコン新しいの買うって言ってたから、お勧め言っただけなのに。
CPUとかメモリとかHDDとか、GPUとか。
「買うならそこそこの値段で良い奴が欲しいよなあ」
「うん。ボクはお年玉貯金はたいて、最新の買ったけど」
「あのスペック聞いたときはびっくりしたわ。ただゲームするためだけに馬鹿じゃねとか思ったわー……」
「あの恨みはボク忘れてないからね」
マスタですら。ボクのPCを馬鹿にしたのだ。あれは許されざる事だ。
ゲームするためだけに高スペックとかって草生やされて馬鹿にされた事がある。
勿論レベルダウンの刑に処されてたけど。
「まじか。あれは何度も謝ったじゃん! しかも色々貢いだし!」
「ふーん、だ」
知りません。人の恨みはちょっとやそっとでは消えはしないのだ。
今日何度目か分からないマスタの愕然とした顔。
いい気味だ! ふはは!
「姫ちゃん、そろそろ許してあげたら……?」
「えー。もうちょっと虐めてあげたい」
「こ、小悪魔……! まさか一ヶ月やそこらで化けの皮が剥がれるなんて」
「みんな今日ボクの事変だって言うけど、そんなに違う?」
ボクのその問いに、三人が三人とも頷く。
桜華ちゃんがとても慈愛に満ちた優しい眼差しをしているのが気になるけど、一体何なんだろうか。
「元気なときの燈佳ちゃんに戻ったね」
素直な感想が桜華ちゃんの口から漏れてる。
そんなに違ったのかな。いつもと大して変わらないつもりだったけど。
「私を引っ張ってくれてた時みたい」
「え……姫ちゃんってどっちかっていうとぐいぐい引っ張るタイプなの……」
「うん、みんなの輪の中心で誰にも分け隔てなく接する優しい人」
「えー……、ちょっとにわかに信じられない」
緋翠ちゃんのボクの評価がひどい件。
流石に、色々不安だったけどさ。それでも心配してくれる友達がいてくれると、ボクだって心を開くのは当たり前じゃないかな。
「俺は取っつきやすくなって有りだけどな!」
「マスタはボクの髪をぐちゃぐちゃにするから嫌い」
「笹川さん……おたくの榊さんが酷いんですけど、俺なんか悪いことした……? 流石にいくら俺でも凹むぞ」
いやだって、しょうがないじゃん。ちょっと距離置かないとボクが友達として依存しちゃいそうになるんだもん。
距離間大事。
「照れ隠しじゃない?」
あっさりバラさないでくれないかなあ!?
「俺、なんかしたっけ……?」
「うわあ……」
うわあ……。桜華ちゃんじゃないけど、呆れるわあ……。
流石にね、色々と助けて貰ってるのにこっちだけ覚えてるなんて酷い。
自分がやったことを歯牙にも掛けないのは美徳でもあるけれど、覚えていないのは流石になんて言うか酷い。
あれだよね、ハーレムラノベの難聴主人公みたいだよね。その割にはえっちなこと大好き少年みたいだけど。
そう思ったら、なんか一気に落胆した。
気遣ったボクが馬鹿みたいじゃん。
「え、なにその白い目」
「二人とも諦めて……。瑞貴って基本こうだから」
緋翠ちゃんがやれやれと肩を竦めてる。難儀してるんだなあ。
「姫ちゃんも瑞貴狙ってるなら引いてちゃダメだよ……」
こっそりボクに耳打ちしてくる緋翠ちゃん。
うん、狙ってないよ? そもそもボクは男だからね……。お友達にはなりたいけど、おホモ達にはならないよ。
「緋翠ちゃんも大変だね」
いや、ほんとに。あんな朴念仁に惚れるなんて、大変だ。
同情の意味で返したんだけど、緋翠ちゃんはやっぱり……とかって含みのある事言ってるし。
いや、うん、ボクは狙ってないよ。友達になりたいだけだから。
「なんか俺の悪口言ってね?」
「言ってないわよ! ばーか!」
「それが暴言だ! 相月お前は!」
いやあ、これは照れ隠しだよね。緋翠ちゃんはツンデレさんだったかー。
「姫ちゃん、何か勘違いしてるようだけど、そのにやにや笑いやめてね?」
「えー、いいじゃん」
「もう姫ちゃんまで! 桜華、もう、行こう!」
あ、やり過ぎて拗ねちゃった。
でも、元々用事があったわけだし、そろそろ良い頃合いかな。
「引き留めてごめんね。今日は解散にしようか」
「そうね。あんまり遅くなったら燈佳ちゃんの料理が冷めちゃうから。あんまり遅くないうちに帰るね」
「うん、何か食べたいのある?」
「普通の。奇をてらったのじゃなくて、普通のが良いかな。あ、お魚食べたい」
「わかった、帰りに魚屋さん覗いて見るね。焼くのと煮るのどっちがいい?」
「うーん、そこはお任せで」
「はーい」
桜華ちゃん達を見送る。
教室から出て行くときに緋翠ちゃんがボク達に向かってあっかんべえをして行ったのは、最後の抵抗かな。
うーん、あそこまで思われてるならマスタも気付けば良いのに。
「ううむ……姫さまはいいお嫁さんになるよなあ……」
「料理くらいで何をいうんだかー。練習すれば誰だって出来るようになるよ」
「いや、ざっくりリクエストから献立を考えるのはしんどいだろ。お袋がいつもなんでもいいはやめてって言ってたし」
「まあ、なんでもは困るかな。選択肢が肉か魚かに絞られるだけでも全然違うよ」
「そんなもんかー」
そんなもんです。
正直一人で食べるなら、おにぎりと具無し味噌汁だけでも全然いいんだけど、人に食べて貰うなら美味しい物を食べて欲しい。
確か、今の旬は鰆だったかな。鰆なら西京焼きってイメージがあるけど、どうしよう。普通の塩焼きでも美味しいよなあ。
うーん、どうしよう?
「そいじゃ、俺らも帰るか。送る?」
「嫌って行ってもついてくるんでしょ?」
「まあな。荷物持ちでもなんでもしますぜ、お姫さま」
「ありがと。でもそろそろ姫さま呼ばわりやめて欲しいなあ……」
「呼び慣れてるからなあ。そんなに嫌なら変えるが」
出来れば名前で呼んで欲しいけど。そっちの方が友達っぽいし。
「それじゃ、俺も普通に呼ぶから、そっちもマスタとか瀬野くんとかやめよーぜ」
「えー……。じゃあ、瑞貴くん?」
「お、おう。そんじゃいこうか燈佳」
あれ、やばい。これはちょっとどころじゃないけど、めっちゃ恥ずかしくない……?
呼び方変わるだけでこうも気持ちが変わるなんて。
いや、それはマスタ……瑞貴くんも一緒か。そっぽ向いてるけど耳まで真っ赤だよ。
意識して呼び方変えるのはやっぱり恥ずかしいんだよね。うん、分かるよその気持ち。
「うん、行こっ」
スクールバッグを持って、既にボク達以外いなくなってる教室を出る。
気がつけばもう四時を回ってて、グラウンドからは部活に精を出している人達のかけ声が聞こえてくる。
廊下もすれ違うのは疎らで、みんなそれぞれの用事を済ませているのかな。
なんか、いいな。
普通の学生みたい。ボクが願っていた形とはちょっと違うけど。
友達が出来て、馬鹿な話が出来て、一緒に帰ったりして、買い食いとかして。
望んでいた普通の高校生。一昨日の出来事でぶち壊してしまったかとちょっと考えたけど、いつも通りだった。
先を行く瑞貴くんの背中を見ながら、ボクも誰かに恋をしたりするのかなって思う。
男の子を好きになるのか、女の子を好きになるのか分からないけど。
やっぱり普通の学生なら、恋とかしちゃう物だよね。緋翠ちゃんは大分歪んでるけど瑞貴くんの事が大好きだし、桜華ちゃんはもう人目を憚らないレベルでボクに好きだって言ってくるし。
ボクは、やっぱりまだそういうの分からないなあ。
「ひめ……、燈佳ー、どうしたー?」
「なんでもない! ええっと。学校楽しいなって」
――うん、瑞貴くんは、やっぱりボクにとっての大事な男友達かな。
「楽しいかあ? あー……まあ、うん。燈佳の境遇考えれば楽しいのか」
「うん」
「だから、今日はいつにもましてご機嫌だったのな。とばっちりで俺が理不尽な目に会うくらいには」
「いつもと変わらないと思うんだけどなあ……。そんなに違った?」
「おう」
そうか。そんなに違ったのか。意識してないだけで、やっぱり気持ちが変わって。それとも朝飲んできた薬のせいかな。でも効果はもう切れてるはずだし……。
まあいいっか。
「今ならボクなんでも出来る気がする」
「そうか、それじゃあ、瑞貴くんがんばってにゃんって言ってくれ」
「瑞貴くんがんばってにゃん!」
うむ、我ながら何をやってるんだろうか……。
つい調子に乗って可愛い子ぶってポーズまでつけてしまったけど。
まあなんか瑞貴くんが死にかかってるからいいかな? 特に誰が見てるわけでも無かったし。
「やべえ……。姫さま今日熱あるんじゃ……」
「ないよ!! そういう気分な事ってあるでしょ!」
ぎゃーぎゃー喚きながら下駄箱につく。
靴は消えてなかったけど、分かりやすい嫌がらせがしてあった。ゴミが入っていたわけでも無いんだけど、画鋲が見えやすいところに……。
ごめんね、渡辺さん。ボクはこんなしょうも無い嫌がらせで傷つくほどメンタル弱くないんだ。
「どしたん?」
「子どもの悪戯だよ」
「俺から言っておこうか?」
「んー、GW終わってからボクから言うよ。しょうが無いよ、渡辺さん瑞貴くんの事好きみたいだし」
「ほー、そうなのか。俺の事がねえ。ならいっそ告って来れば良いのに。ちゃんとごめんなさいするから」
そう言うところはハーレムラノベの難聴系主人公じゃないんだ。
でも、あんなあからさまな好意に気付かない辺り朴念仁の素質は十分にあるよ……。
緋翠ちゃんも先が思いやられるなあ。
……からからと画鋲を玄関にぶちまけて、念を入れて靴の中もしっかり確認して履く。
気を取り直して、下校。
瑞貴くんと雑談しながら、商店街で買い物を済ませて今や自宅となっている、笹川家へ戻ってきた。
「じゃ、またシェルシェリスで」
「うん、今日は桜華ちゃんのレベル上げだね」
「あー……、その為にパソコン買いに行ったのか」
「そうだよ。ここにあったの相当古かったから必要スペックギリギリアウトだったからね」
「まあ、プレイヤーが増えるのは良いことだけど、どんどん身内ギルドになっていくなあ」
「それはしょうがないって。ちゃんとサーバー対抗戦で勝っておけば問題無いんだから。ボクだって頑張るよ!」
「だな。そんじゃ、またな」
「うん、瑞貴くんも気をつけてね」
瑞貴くんはボクが玄関の中に入るまで絶対そこから動かない。
一度、桜華ちゃんも含めて三人で帰ったときがそうだったのだ。
ちゃんと家の中に入ったのを見届けてから帰る。紳士さもあるのがモテる秘訣なんだろうなあ。
人に取っての好意を当然とばかりに振りまいてるし。ずるいよなあ。
そりゃああんなこと簡単にできたら、女の子は普通に惚れちゃうよ。顔も良いし。ちょっとえっちな所は長所を引き立てるスパイスになってるし。本当にずるい。
ボクもああなれるのかな。なりたいな。
さて、夕飯の用意しよっと。
今日は鰆の塩焼きをメインに、冷蔵庫の中にある物でざっくりと合わせて五品。バランスのいいご飯を作らないとね!