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02:ご予定はいかが?

 驚きと戸惑いと、どうしたものかという様子見と。

 よくやった、見直した、頑張ってなんていう思惑が入り交じって、フシギ空間になった教室。

 謝られた渡辺さんは、ぽかんとしているし、その取り巻き達もどうすればいいのか分からない様子だ。


 ふふん、謝ったもん勝ちだもんね。


「勝ち誇った様子な所悪いんだけど、これどう収拾つけるつもり?」

「それはボクの関知するところではありません」

「えー……。まあいいけど。燈佳ちゃんお疲れ様、良く逃げずに頑張ったね」


 桜華ちゃんがボクの頭を優しく撫でる。

 それがくすぐったくて目を細めてると、


「姫さまよくがんばった!」


 それに瀬野くんが参加してきて、がしがしと頭を撫でる。

 せ、折角人がなおした寝癖が! ぐっちゃんぐっちゃんに!


「ちょ、ちょっとやめて! やーめーてー!」


 髪が乱れるからほんとやめて、手入れ大変なんだからこれ。

 手入れしないと桜華ちゃん怒るし。激おこ桜華ちゃん見た事無いからそんなこと軽々しくするんだから!!

 嫌な気はしないけど。ほら、桜華ちゃんが静かに怒ってるよ。


「頑張った姫さまにはご褒美あげないとな! うりうりー」

「だから、やめてってばー!」


 ぎゃーっと怒って手をはね除けてあげれば止むだろう!

 案の定止まったしね。

 うー、でも髪ぼさぼさじゃん……。


「マスタのばかー。髪ぐちゃぐちゃだよ……」

「お、おう、なんかすまんかった」


 鞄の中から折りたたみの櫛を出して梳く。

 別に触るのはいいんだけど、乱れた髪を直すことも考えて欲しいよ全く。


「マスタには今日のお弁当あげない」

「え、ちょ、まじで……そんなご立腹案件だったのこれ……」


 マスターが困惑顔で、桜華ちゃんを見ている。

 桜華ちゃんは静かに頷く。まるでさあっていう音が聞こえたかのようにマスターが青ざめる。これはこれで面白い。


「ぷっ、ふふ……冗談だよ」


 あまりにも可笑しくて吹き出してしまった。

 それだけなのに、何なの珍獣を見たようなその目付きは。

 ボクだって怒るよ!?


「おー、姫さまが珍しく朝からご機嫌だ」


 ボクはいつだって機嫌いいけど!?

 特にここ最近はずっと。機嫌悪いというか頭にきたのはあの時だけだし、それ以外は分かるように機嫌良かったと思うんだけど!?


「いや、どういうことなの!?」

「燈佳ちゃんが笑うのが珍しいから?」

「あれ、ボクそんなに笑ってなかったっけ……」


 いや、自分では笑ってるつもりだったんだけど。

 あっれー?


「吹き出して大げさに笑うのが珍しいかな」

「燈佳ちゃんがやっと心を開いてくれたのね。いいこといいこと」


 まあいいや。腑に落ちないけど。ボクがちょっと笑うだけでみんなが喜ぶなら笑顔くらいいくらでも振りまいてあげるし。


「一体全体あんた達何やってるのよ……」

「おはよ、緋翠ちゃん」

「姫ちゃんおはよ。今日機嫌いいね?」

「緋翠ちゃんまでそんなことを! ボクはいつだって機嫌いいよ!!」

「目に見える形で機嫌いいのは珍しいから。えーとバスの中で瑞貴に寄っかかって寝てた時くらいに機嫌良さそう」

「え、なにそれ、ちょっとまって、今そこでその話蒸し返すの、ねえ緋翠ちゃん教えて。これは交換条件だよ。このお弁当と引き替えにあのバスの中でボクは一体マスタに何をしたの!?」


 勢いよく立ち上がって、ボクは緋翠ちゃんの肩を前後に揺する。

 一体全体ボクはあのバスの中で何をしたって言うんだよ!!

 マスタはなんか真っ赤になってるし。ホントボクは一体何したの!?


「いや、あれされたら、男子は普通に落ちると思う。うん。姫ちゃんくらい可愛い子にされたらあたしだって嬉しい、し?」

「何で曖昧なのー!?」

「ちょっと、あたしの口から言うには憚られるから、かな……。とりあえず瑞貴は男子生徒を敵に回したらしいと言うことだけは分かったかな」

「ホントボクは一体何したの!!」


 ボクの絶叫が響く。もう恥とか外聞とかとりあえずそういうのは脇に置いとくとして、バスの中でボクはマスタにしたことを知りたい。


「いや、あれは、もうなんていうかだな……幸せだったわ……俺死ぬんじゃねえのって思ったわ」

「そこは、頬染めてしなをつくらない、気持ち悪い!」

「姫さま、なんか今日俺に酷くね!?」

「うるさーい、髪をぼさぼさにした罰だー!」


 むがー!

 みんながみんなしてだんまり決め込むから、ボクだって怒るんだよ!


「なんだそりゃ。まあ、姫さま程度が怒っても怖くないけどな! それよか、みんなGWの予定決まってんの?」

「瑞貴は明日から実家帰るんでしょ?」

「そうだけど、四日には帰ってくるよ」

「そうなんだ、あたしはどうしようかな。実家遠いから……」


 驚いた。緋翠ちゃんが一人暮らしなのは知ってたけど、マスタもだなんて。

 というか、そっか。もうGWの時期なんだ。すっかり忘れてたや。


「姫ちゃんはどうするの?」

「ボクは……」


 どうしようかな。この状態じゃ家にも帰れないし。

 多分帰ったところで、ボクって信用されないだろうし。

 それにまだボク、家追い出された事許してないし。


「燈佳ちゃんは私と一緒にいちゃいちゃ爛れた生活をするの」

「しないよ!?」

「あ、うん。がんばって……」


 真面目腐って言う桜華ちゃんに緋翠ちゃんがどん引きしてる。

 まああの夜の悪夢を体験した緋翠ちゃんは、距離を取るしか内だろう。

 コイツは本物だ、触ったら殺られると思ってる目だ。


「ひ、姫ちゃん強く、強く生きるんだよ……?」

「ひーちゃん」


 桜華ちゃんが緋翠ちゃんの肩を叩く。

 恐怖に怯えた目をしながら、なあにと答えると。


「もし良かったら泊まりに来る? ご飯は燈佳ちゃんが作るから」

「……へ?」

「どうせ、暇だからいいじゃない。私、ひーちゃんに教えて貰いたいことあるし」

「いいの?」

「うん。食費だけ払ってくれれば。いいよね?」


 確認をボクにする。家主の桜華ちゃんがいいなら、ボクは文句ないけど。

 ご飯作るの楽しいし。もしあれなら二人に料理のお稽古をつけるのもいいかもしれない。

 緋翠ちゃんは料理したそうだったし。


「ボクはいいよ? それなら料理の勉強もする?」

「いいの!?」

「いいよー」


 珍しくGWに予定が出来た。

 前までは父さん達と桜華ちゃん達一家とどこかに出かけていたけど、それも中学に上がったことには自然と無くなった。

 去年は引き籠もっていたしね。


「ずるい……俺もそこに加わりたい。ハーレム暮らし満喫したい。女子の香り盛りだくさんのお家に住みたい!」

「死ねば?」

「死ね。エロ魔神」

「二人してひでえ! まあ冗談はさておき、それなら五日はみんなであそばね? にゃんにゃんと健ちゃんには後で聞くとして」


 マスタの変態発言はなんか悪化してない? ボクの気のせいかな。

 でも、みんなで遊ぶのはいいね。ちょっと楽しみ。


「行きたい」


 素直にボクはそう答えておいた。

 だって、やっぱりみんなと一緒に遊ぶなんて憧れだし。


「じゃあ、私も行く。最悪この際瀬野くんがハーレムになるのは我慢する」

「え、じゃ、じゃああたしも!」

「その心は」

「別にいいじゃない! 桜華には関係無いから!」

「分かってるから。頑張ろう?」

「煩いなあ、もう!」


 何か二人だけで通じ合ってる。

 ボクは単純にみんなとあそべるのが嬉しいだけなんだけどなあ。

 ちょっと疎外感を感じる。


「よし、それじゃあ詳しい日程は昼の時にでも決めようぜ。姫さまのお弁当楽しみ」

「マスタにはあげないもーん。あと緋翠ちゃんにも」


 ボクがバスの中でしでかした失態を教えてくれなかった罰だもん。

 頬を膨らませて、わざとらしく怒った振りをする。


「と、とばっちりだ! 瑞貴のせいであたしまで姫ちゃんのお弁当食べれないじゃない!」

「お、俺のせいかよ!? くっそう、いや、あの、姫さま、ホントすんませんでした。許してください。バスの中の事は話せないけど、許してください、何でもしますからあ!!」


 うわあ、みっともないほどの土下座だあ。

 この四月の三週間あまりで、マスタの餌付けは完了だ。くっくっく、これでボクの思い通りに動く駒が一つ出来た……!

 とまあ、そういうのは内心に留めておくとして、お昼にはちゃんと渡すつもりだし。

 折角作ったのに渡さなかったから残飯行きなんて食べ物への冒涜だ。


「もう、冗談だってば。ちゃんと用意してるから安心してよ。緋翠ちゃんの分も」


 ボクがそう言うと露骨に二人は胸をなで下ろした。

 そんなにボクのお弁当が食べたかったか。そっかー。それならやっぱり重箱も検討しないといけないかな。

 やっぱり美味しいと思って貰えるのは作り手冥利に尽きるよね。

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