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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ひとつめの願い
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33:学校をやすんだ日

 朝が起きられなかったのはどれくらいぶりだろう。

 家に戻ってきて、泥のように眠っていたみたい。

 桜華ちゃんは病院に連れて行かれて、奇跡の異常無し宣言を受けて戻ってきた。良かった、本当に何の異常も残らずに治すことができて……。

 その報告を聞いてボクは崩れ落ちたようだった。


 目が覚めて、体を起こそうとして、何かにがっちりとホールドされてることに気付いた。

 やっぱり精神を病んだ人には拘束がお似合いなのかな。

 いや、そう言う冗談はやめよう。大体の原因は分かっている。


「桜華ちゃん、起きて。朝だよ、ボクを解放して」


 いつの間にか……ううん、ボクを部屋まで運んで服を着替えさせて、桜華ちゃんもボクの寝床に潜り込んだんだろう。

 なんか、その光景がありありと予想できる。


「んぅ……もうちょっと……」


 しょうが無いなあ……。

 どうせボクは今日から暫く学校に行けないんだから、だらけちゃおうかな。

 当日のうちにボクに下されたのは、カウンセリングに行き、カウンセラーの許可が出るまでの登校禁止措置。

 情緒不安定の異常さが露見してしまった結果だ。甘んじて受けないと。

 それと桜華ちゃんは大事を取っての休み。


 窓から差し込む日の光は多分十時くらいかな。今日は外に出かけると気持ちいいんだろうなあ。

 でも、うん、今日は夕方から出かけよう。


「しょうが無いなあ、ボクももうちょっと寝よう」


 抱きかかえられたまま、ボクはもう一度微睡みに落ちる。

 ああ、なんて気持ちいいんだろう。


「燈佳くん、起きて」


 体を揺すられてボクは微睡みから目覚めた。


「んー? どうしたのー?」


 まだ、ちょっと眠い。昨日の疲れが抜けていないようだ。

 そうじゃなくて、二度寝したことで余計に疲れたのかな。


「もうとっくにお昼回ってるよ。病院いかなきゃ」


 そういえば、そうだっけ。

 カウンセリングに行かないといけないんだっけ……?

 あー、忘れてた。


「うん、起きる」


 体を起こして、大きく欠伸をして、やっと目が覚めてきた。

 今日の予定は、カウンセリングに行くこと。うん、よし。大丈夫だ記憶もしっかりしている。


「うん、着替えるね」


 ベッドから抜け出して、パジャマを脱ぎ捨てて、はたと。

 そういや昨日お風呂に入ったっけ? 入ってないよね。


「先にお風呂に入らないと。昨日戻ってきてからそのまま寝ちゃったんだったね」

「うん。私は昨日のうちに入ったからいいけど、燈佳くんはまだだね。というか、もう私の前で服を脱いで恥ずかしがったりしないんだ……」

「あはは、うん。なんか不思議と恥ずかしいとかって気持ちは沸いてこないかな」

「そっか、そうだよね。もう女の子になって三週間だし慣れてくるよね」


 桜華ちゃんが残念そうに顔を曇らせた。何が残念なのかよく分からないけれど、まずはお風呂だ。

 ざっとシャワーを浴びて、髪の毛を洗って洗顔をして体を洗う。

 あ、着替え持ってくるの忘れてた。


「まあ、いっか」


 パンツ……じゃなくてショーツを穿いて、ブラをつけてその上からキャミソールを着て自室に戻る。


「燈佳くん……いくらなんでも、それは……」

「うう、ごめん。着替え持ってくるの忘れてたんだよー……」


 殆ど下着同然のボクの姿に桜華ちゃんが非難めいた視線を送ってくる。

 気が抜けてたよ。うん、本当にごめんなさい。


「うん、まあ、燈佳くん? がいいならいいんだけど。そのうちプールの授業でショーツ忘れるかも知れないね」

「ないよ!! それは絶対ないから!!」

「本当かなー? あ、そうだ、着替えたら私の部屋に着てね。今日はどうせだからおめかしして出かけよ。燈佳……くんに似合いそうな帽子買っておいたの」


 あれ、なんでボクの名前を呼ぶときに言い淀んだんだろう?

 まあいっか。

 帽子があるのはありがたいけど、今日はまだ袖を通してない服を着てみるつもりだったんだよね。フリルとかは抑えめだけど、パフスリーブに釣り鐘袖の縁のレース地が可愛い薄ピンクのブラウス。下は黒のティアードでいいかなあ。


 部屋のクローゼットから服を引っ張り出す。まだまだ服は少ない。

 それでも、男の子だったときよりも、服のバリエーションが多い。

 選んだ服に袖を通して、靴下は縁取りがフリルになっているショッキングピンクと黒のボーダーニーハイにしてみた。

 割とちぐはぐに見えて、合ってるあたり、桜華ちゃんのセンスは凄いなっていつも思う。


「着替えたよー」


 桜華ちゃんの部屋に行くと、丁度着替え中だったようだ。


「うん、すぐ着替えるから待ってて」


 相変わらずの女の子らしい部屋。

 そろそろボクも部屋の模様替えを考えようかな。

 敷物を敷くだけでも全然変わってきそう。


「どうしたの?」

「うん、女の子らしい部屋だなって思って。ボクも模様替えしようかな」

「春もすぐ終わって、夏が来るからね、涼しい感じにしたいね」

「それもいいかも。水色ボク好きだし」

「今度見に行こっか」

「うん!」


 大きく頷いて、桜華ちゃんが着替え終わるのを待った。

 そういえば一番最初は桜華ちゃんの下着姿を見るのすら躊躇してたけど、今はもう視界に入っても動揺しなくなった。

 慣れって怖いね。


 まだ自分で化粧は出来ないから、桜華ちゃんにやって貰って、気分を変えるために髪型も少し弄ってみた。まあ自分で出来ないから桜華ちゃん任せなんだけど。

 準備が整って、


「はい、これ」


 桜華ちゃんから帽子を借りる。

 この前のつば広帽と形は一緒だけど、色が夏用の白に青じゃなくて、白を基調に赤とピンクの飾りが付いた物になってる。


「前の気に入ってくれてたみたいだから、同じデザインの買ってみたの」

「うわあ、いいの?」

「うん、燈佳、ちゃん、の為に買ったから、貰って欲しいかも」

「桜華ちゃん、ありがとう!」


 嬉しい。あの夏っぽい感じの帽子も良かったけど、飾りの色が違うだけでもやっぱりイメージが変わる。春先ならやっぱり赤とかピンクだよね。若草色とかもいいけどね。


「なんか、吹っ切れてる……?」

「何か言った?」

「ううん、何も。それじゃあ行こっか」


 桜華ちゃんに促される形で、家を出て、指定された病院に向かった。

 近くの総合病院だ。受付を済ませ、呼ばれるまで待つだけ。


「榊さん、榊燈佳さーん」


 看護師の人がボクの名前を呼んで、ボクは桜華ちゃんに言ってくると一言言って診察室に入る。


「やあ、燈佳くん、久しぶり」


 診察室にいたのは、ボクが最初カウンセリングを受けた白川先生だった。

 もう四十に近いというのに、老いを感じさせない背の高い格好いい先生だ。

 病院も違うのにどうしているんだろう?


「おっと、その顔は、なんで僕がいるのか不思議がっているね」

「えっと、はい」

「確か聞いてるよね、僕が鈴音蓮理や渡瀬睡瑠の兄だって」

「あっ、忘れてました。というよりそうでした、ボク姿が変わってるんでした」

「そうそう、可愛くなったね、燈佳くん。その服は自分で選んだの?」


 ボクの今の姿に驚きもしない白川先生。

 にこやかに、椅子に座るように促してくれた。


「はい。服自体は桜華ちゃん……あ、えっと、今居候してる家の人なんですけど」

「うん、知ってるよ。蓮理たちから話は聞いてるからね。そっかそっか。元気にしてるようで安心したよ」


 先生は、話ながらボクのカルテらしき物に書き込みをしていく。

 相変わらずだ。何を書いてるのか読めないけど、読み取れる範囲だと、He……Wae……Frauって書いてある。どこの言葉だろ。


「そういえば、またやらかしたんだって?」

「えっと、はい……」


 苦笑気味に先生は、昨日の出来事を蒸し返してきた。

 本当なら今日はみんな昼で解散していた頃だったのだ。ボクのせいで昨日で解散になってしまったけれど。


「でも、前回より顔付きがいいね。好きな人でもできた? あ、異性とかじゃなくて、心の中に思い浮かぶ人ね。一緒に遊ぶと楽しいなとか、そんな軽い感じでいいよ」

「いちおう?」

「名前を聞いてもいいかな」

「瀬野くん、桜華ちゃん、緋翠ちゃん、立川くん、あとくるみちゃんも、かな?」

「はは、まさかそこでくるみの名前を聞くことになるとはなあ。あの子、ホント悪戯好きでしょ」

「まあ、おかげさまでこんな事になってるわけですが」


 ボクも先生につられて苦笑して答えていた。

 それから、暫く一年半の間に起きたことを話した。度々カルテに書き加えながら、和やかに話が進んでいく。


「うん、少しだけ薬出しておこうか。毎日飲むようなのじゃ無くて、心がざわついたときに飲む感じの奴をね。最後に一個だけ聞いてもいいかな?」

「なんですか?」

「今日は、外怖かったかい?」


 あ……。そういえば、気にしてなかった。


「えっと、そんなに怖くなかったです。多分帽子は無くても歩いて回れるくらいには」

「そっか、いい傾向だね。環境が変わったからなのか分からないけど、良い方向に向かってるよ。また、何かあったらおいで。一応保健室に詰めるようにはしておくけど、僕のカウンセリングが必要な人も居ることは確かだから、こっちにいる事も多いからね」


 養護教諭とカウンセラーの二足のわらじを履いていたなんて、想像も付かなかった。

 凄い人だ。


「そうだ、学校は、いつからでも行って大丈夫だよ。カウンセリングを受けて欲しいってのは、僕が今のきみに会ってみたかったからなんだ。女の子として過ごしている燈佳くんが見たくてね。楽しそうにしててよかったよ」


 先生は笑って、ボクを送り出してくれた。

 いつの間にか、良くなってた。

 切欠はよく分からないけれど。よかったのかな?


 うん、たぶん良かったんだ。

 診察室をでて、桜華ちゃんと合流して、支払いなんか色々済ませてボク達は病院を出た。

 夕方までまだ時間がある、これからどうしよう?

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