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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
さいごの願い

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32:あれから……

 あれから二週間。

 ボクの新しい日常が始まっている。


「バレンタインどうする?」


 昼休み、女子だけで集まって相談会だ。

 男子はハブ。しょうがないね。

 発起人は緋翠である。


「うーん……クッキーとかなら大量に作った方が楽なんだよね」

「義理で手作りとか、なにそれこわい……」


 緋翠が大仰に驚いてみせる。

 ボクの事情を知っても、緋翠は態度を変えなかった。

 それは凄くありがたい事で、感極まって抱きついてしまった。


「いやだって、材料費とか考えたら、五円チョコ大量に買うより、大量に作れて安上がりだし……」


 原料高が騒がれてる昨今ではあるけれど、クッキーくらいの材料は買っておけば代替ボウル一杯分くらいの量を生産することは容易である。

 まあ、だからといって、手間暇の事を考えたら市販の安い物を適当に買ってばらまくという考えも悪くはない。

 むしろ、お金を使っている分褒めてもいいと思う。


「後ね、こう、ボクの体感的な問題なんだけど」

「問題なんだけど?」


 ボクの溜めに緋翠がオウム返しを挟み込んでくる。

 絶妙なタイミング過ぎて、狙ってるのかと何度も言いたくなったけど、これが緋翠の癖なんだと分かると面白い癖だなーっと流せるようになってしまった。


「うん。やっぱり、男子は市販品より手作りの方が好きだからねー」

「あ、そういえば、燈佳は元々男の子だった」

「いえーす、その通り」

「なるほど、元男子の意見、参考になるわね」


 メモを取りながら、緋翠はこれからのことを考えている。

 そんな中我関せずとお昼ご飯を食べていた桜華がぽつりと、


「義理であげるのはいいけれど、ひーちゃん、あげる本命、いるの?」

「うぐ……」

「振られた者同士仲良くする?」

「桜華はどうして、そうやって傷を抉るかなあ!?」

「お互い、いい人見つけようね」

「そーですねー」


 机に突っ伏す緋翠の姿にボクは乾いた笑いしか出ない。

 桜華は、ボクの事を完全では無いけれども諦めてくれたようで、前向きにいい人捜しをしている。

 正直、ボクなんかよりいい人はどこにでも転がっているけれど、桜華に必要なのは多分手を引っ張ってくれる人なんだろうなーって思う。

 高嶺の花みたいなものだから、一緒に歩こうとか、後ろについて行こうと考える人はいても、手を引っ張ってくれる人は滅多にいなさそうだ。


「はー……割って入るのは無理そうだもんねー……」

「正直な話をしたいと思います」


 パック飲料をじゅうっと吸いながら、ボクは二人に改めて話をするために向き直った。


「改まって何?」

「また、何か疚しいことでも……」


 疚しいことでは無いのだけれども。


「うーん……色々しがらみが無くなったから、ちゃんと告白したいなあって」


 ボクのその一言に、二人がほうと唸る。

 ぎらりと光る野獣の眼光のようなものが一瞬見えて、たじろいだ。

 この二人に話したのは失敗だったか……!


「まあ、やるならバレンタインですよね」

「わたしを食べてってやる?」

「流石にそれは引くわー……」

「えぇ……私は別にやっても問題無い」

「エロ女は黙って?」

「えー、やらないのー?」

「いひゃい!」


 心外そうに緋翠の頬を引っ張る桜華。

 いやー、でも、桜華ならやりかねないよね。


「桜華なら、自分の胸の型取ってそれにチョコ入れたら喜ぶ人いるでしょ」

「乳首はカラーチョコでデコレーションは必須ね」

「流石に、それはボクでも引きます……」

「姫ちゃん、なんで!?」

「そこまで想定してなかった……」


 というか、下世話な話題過ぎて、教室内が静まりかえってるし。

 まあでも、桜華のおっぱいチョコは確実に需要があると思います。

 あの胸で何人の男をたぶらかしたのか知りたいよ……。


「燈佳の殺意が恐い」

「どうせ、持たざる物の僻みですよ!」

「いつでも触ってくれていいのにー」

「ほう……もいでやろうか……」


 そんなここ最近のいつものやりとり。

 話が脱線に脱線を重ねて進まないのがいつものことである。

 ちゃんと、女性として生きるって決めてから、ボクの事を知っている人達に説明をした。

 緋翠も受け入れてくれたから、こうやって馬鹿な話を臆面も無く出来るようになった気がする。


「燈佳、片方はあたしにやらせて」

「片方は譲ってあげよう……」


 持たざる者であるボクと緋翠が、桜華にねっとりとした視線を向ける。

 巨乳の辛さを知ってはいるけれど、それはそれ。

 瑞貴の部屋に行って、見かけた巨乳系のエロ本の衝撃がここ最近のトレンドなのである。

 つまり――死ね。


「え、流石に冗談でしょ……」


 おののき、身を逸らす桜華に、流石にそれ以上はやめておいた。

 冗談の範疇を超えないのが頭のいい付き合い方なのです。


「冗談に決まってるじゃん。で、話戻していい?」


 ボクの相談事。

 どこかの折で、改めて瑞貴に告白をしたいことを伝える。

 やっと色々な事から解放されて、瑞貴とちゃんと後ろめたいこと無くつきあえるようになったのだから、今度はボクから告白をしたいと思った。


「やるなら、やっぱりバレンタインしかない」

「チョコと一緒にとか、ベタだけど、男ってベタシチュ好きでしょ?」


 二人して、バレンタインを推してくる。

 全くもってその通りだ。このべたべたなシチュエーションで女の子から告白してくると言う状況は、男の理想である。

 おなじ思いを瑞貴も描いているのかどうかは知らないけれど、ボクが男の頃はみんなこの時期そわついていたし。チョコと一緒に告白というのは憧れるシチュエーションだ。


「確かに、みんなそういうの好きだったかも」

「ほらー。元々付き合ってるとかな人にあげるならまだしも、普通付き合ってもいないのにチョコあげるとかあんまりやらないしね。義理チョコのお裾分けは誰彼構わずするけど」

「はえー……そうなんだー」

「後、流石に本命チョコを好きな人にあげるのは、勇気が要るし、断られた時が恐い」

「なるほど……」


 緋翠の言い分は尤もで、とても共感を得るものだった。

 だからこそ、バレンタインの時期に女の子から好きな男の子にチョコレートをあげるというのは、空想の産物なのであろうということも理解できる。

 それなら、やっぱり、やらなきゃいけない気がする。

 瑞貴も真っ当な男の子だし。こういうのに憧れがあるんじゃないかなって思うからだ。


「探り、入れてこようか?」

「気持ちは嬉しいけど、ボクがちゃんと聞くよ」


 桜華のありがたい申し出を断って、ボクは作戦を練ることにした。

 別に真っ向勝負に出てもいいとは思うのだけれど。


「そっか、頑張ってね」

「がんばれ、姫ちゃん」


 二人の激励を受けて昼休みが終わった。

 それから、その日の放課後……。

 帰り道が真逆だから、どうしてもボクと瑞貴が一緒に帰ることは少ないのだけれども、たまに瑞貴が気を利かせて遠回りをしてくれる。

 そんな日が今日だった。


「今日も寒いねー」

「そうだなあ」


 マフラーをぐるぐるに巻いてるのに、手袋はしていない。

 手袋をしてたら、手を繋いだときに体温を感じられないから、それがちょっと寂しい。

 だから、今日も寒い中手袋はせずに指先の冷たさをありがたがるのであった。


「そういや、鈴音のこと本当になにもしらねーの?」

「知らないって言ってるじゃん。ボクだって、どこ行ったのか聞きたいくらいだよ」


 あの日、“さいごの願い”を聞き届けたくるにゃんは以降姿を現していない。

 深く関わったボク達以外誰も覚えていないようだった。


「そうなのか」

「そうだよ。それより、瑞貴、そろそろバレンタインだけど、チョコの甘さとかどれくらいがいいとかある? というか、チョコいる?」

「は……? いきなりなんで」

「いいからー」


 繋いだ手をぎゅうっと握りしめて、ボクはなんてこと無い、さも当たり前の事のように聞く。

 これでいらないとか言われたら寝込む自信があるけれども。


「そ、そりゃあくれるなら欲しいけど……」


 見上げると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた瑞貴が見えた。

 その仕草がたまらなく可愛くて、そして、求めてくれたことがとても嬉しくて。


「やった!」

「そんなに喜ぶことなのか」

「んー……、まあ他にも色々あるし」

「ついでってことかー」

「違うよー。瑞貴にあげるチョコが主で、後はその他大勢」

「どういうことだ?」

「瑞貴がチョコいらないなら、義理チョコ作って配る意味もないなーって」


 ボクの大本命の作戦はバレていないから大丈夫だ。


「義理チョコまで作るのか、女子って大変だなあ……」

「ほら、モテない男子の僻みは恐いから……。誰か一人より、とりあえずみんなに渡しておけば、万事丸く収るじゃん?」

「あー……なるほどなあ。やっぱり女子って大変だなあ」


 大変じゃ無いんだけどね。クッキーの二枚三枚を個包装したものをホームルーム前に配ればいいだけだし。

 作る事自体は大した手間じゃない。

 桜華と緋翠のお菓子作りの練習にすればいいのだから。


「ボク、監修だから」

「うわ、それえげつなくないか?」

「絶対美味しい物を提供する自信があるので」


 ふふんと、胸を張ってみせる。

 そもそも、お菓子なんて分量さえ間違わなければ失敗することの方が稀なのである。

 だいたい、オーブンから目を離した隙に焦げるとか、そう言うレベル。

 注意不足による失敗が大半だ。


「それはそれで、羨ましいな。笹川さんと緋翠と燈佳が作ったってなら欲しい人間も山ほどいるだろ。緋翠はおまけだろうけどな」

「流石にその言い草は緋翠に失礼だから……」

「いや、まあ、燈佳と笹川さんに比べたら……」

「ボクはもう関係ないですー。瑞貴の物だし」

「お、おう……」


 素直な好意を向けると、途端にこれだ!

 そろそろ慣れて欲しい物である。

 照れてる瑞貴は可愛いからいいんだけども、いい加減その先に進みたい気持ちもあるボクとしては、慣れて欲しい思いが強い。


「えっと、とりあえず話を戻して、甘さはどれくらいがいい?」

「甘すぎなければ割と何でも食えるぞー」

「そか。わかった。じゃあ、当日楽しみにしててね!」


 それから、他愛の無い話……新しいネットゲームの話とか、本の話とか。

 大凡恋人同士とは思えない話をしながら帰路に着く。

 家の前で瑞貴と別れて、後から帰ってきた桜華に詳細を伝えて、後は当日まで密やかな特訓の日々となった。


 とりあえず、結果だけ言うと……クッキー……食べ飽きた……。

次回更新で本編最終話。同日中にエピローグの更新予定です。

どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。

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