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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ひとつめの願い
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12:ヒーローは思惑を先回りで潰す

 下着を買って、そのままの流れで近くの服屋さんに。

 ボクの身長に合うサイズの服が無くて、桜華ちゃんにキッズサイズのでいいんじゃないのと言われたが、断固拒否した。

 地味目のがあればいいんだけど、最近の子供らしからぬ派手目なものばっかりだったし。

 それなら、まだ白と黒のツートンカラーのふりふりを着ていた方がマシです。

 カラフルなのは嫌。

 後、なんかタイトなのがおおいよね。ぴっちりしてるのかゆったりしてるのか二極で、その中間がない感じ。

 できればボク的にはゆったり目のが欲しいんだけど、サイズ的に桜華ちゃんくらいの身長が無いと入らない物ばっかりで、今のボクが着ても服に着られてる感じになってしまう。

 服選びはとても難航していた。


 それでもなんとか、当面休みの日に着る分を選び終えて、ついでにパジャマと靴を選んだ。パジャマは無駄に三着も買ったよ。曰く絶対必要になるからって。意味が分からない。

 通学用の靴は特に指定されていないけれど、高校生になったらあこがれのローファーがいいと桜華ちゃんが言うから合わせてみた。

 確かにローファーは高校生って感じがする。

 他にも今履いているような感じの少しヒールのあるストラップシューズに普通のスニーカー、ぺたんこ靴を一足ずつ。靴だけでもこんなにかうなんて……。

 最後に靴下専門店によって、なんとか買い物は終わった。


 早く帰ろうと思ったけれど、お店を巡るのに疲れてしまって、ボクが休憩を提案した。

 ショッピングモールをでて近くにある喫茶店に入る。


「疲れた……」

「今日は一杯買い物したもんね。帰り、タクシー使う?」

「いいよ、お金勿体ないから歩く」


 荷物はボクが三割、桜華ちゃんが七割の割合で持っている。

 これはボクがこの体になれてないせいもあって、よく転びそうになるからだ。

 最初は折半だったけれども、途中から桜華ちゃんが気を利かせてくれた。

 自分が思っているよりも体力は少ないみたい。本当にこの体つきから想像できるくらいの体力しかないのかなあ。


「足辛くない? ヒールの靴初めてでしょ」

「流石にちょっときついけど、休めばなんとかなるよ」


 ボクが休憩を申し出た理由はこれだ。

 割と平気かなって思っていたけれど、時間が経つにつれどんどんと辛くなってきた。

 そりゃあそうだ。ヒールのある靴を履くなんて、つまり常に背伸びをし続けているようなものだ。ふくらはぎがとても痛い。幸い靴のサイズが大きかったから靴擦れはしてないけれど、ずっと背伸び状態はきついよね。


 そして、疲れたときには甘い物。それが鉄則だ。

 まさか喫茶店にパフェがあるとは思わなくて、ついつい注文してしまった。

 甘い物は昔からずっと大好きだったし、変な目で見られる事無く食べられるのは女の子の役得かなー?


「美味しい!」

「美味しそう」

「桜華ちゃんもたべる? 一口いいよー」

「あ、うん。ありがとう!」

「はい、あーん」


 対面に座る桜華ちゃんにスプーンですくった一口分を差し出す。

 身を乗り出して、売れしそうに口を開けて、ぱくり。


「ふあっ! ボクは一体なにを……!」

「んー、美味しい……。燈佳くんが食べさせてくれたから余計美味しい。こっちも一口。はい」


 切り分けられたパンケーキがボクの目の前で揺れている。

 うう、たべたい。でもボクは気付いてしまった。

 甘い物のあまりの美味しさに、我を忘れて、桜華ちゃんと関節キスをしてしまった。

 うう、なんか意識したら途端に恥ずかしくなってきた!!

 でも、目の前のパンケーキは食べてみたい。

 抗いきれませんでした。ぱくり。


「うん、美味しい。しっとりしてるし、生地がほんのり甘くてバターと合うね。これだとちょっとビターなチョコラテとか合いそう!」


 ついつい、分析をしてしまった。でも美味しいんだもん。より美味しく合う物を探すのは悪くないよね。だって、美味しいんだもん。


「お、美味しそうなの食べてるなー。俺にも食べさせてよ」


 急な声にボクも桜華ちゃんも警戒心を露わにする。

 どっちも知らない男の人だ。

 金髪に、サングラスをかけた人。パーカーを着崩してジーンズ姿。どこかにいそうなお兄さんって感じの人だ。

 でも、知らない人だ。

 桜華ちゃんをみても、小さく首を振るだけ。ボクも同じように首を振って返した。


「ごめんな、待たせて」


 男の人はよいしょっと、ボクの方の席に座ってきた。

 なんて図々しい人だろう。

 それにサングラスのせいで彼がどこを見ているのか分からないし。

 警戒心を解かずに、固まっていると、男の人が小声で、


「悪いな、質の悪いナンパ師みたいな話が外で聞こえたから先に潰しておいた。君たち可愛いんだから、窓際の席で無防備に食べさせっこは止めた方がいいよ」


 そういって、窓の外を指差す。

 蜘蛛の子を散らすように逃げる男の人が二人。どちらもチャラい系だ。

 彼はどうやらボク達を悪い男の人から護ってくれた人みたいだ。


「そう、それは助かったわ。でも、折角の時間邪魔しないでくれる?」


 桜華ちゃんの声音が絶対零度だ。極寒だ。聞いてるボクですら震えてくるんですけれど。


「まあまあ、そう言わずに少しだけ世間話に付き合ってよ。ねえ、妹ちゃんもそう思うよね?」

「いや、ボク、彼女と同い年だから……」

「まじで!? ごめん、それは悪かった! 背小っちゃいから妹かと思ったよ!」


 そっぽを向いてボクはオレンジジュースを吸った。あ、たぶんこれ自家製だ。酸味が強くて美味しい。

 このお店いいな。名前覚えておこう。


「で、あなたは何者なの?」

「えー、それきいちゃう? まあ、しょうが無いじゃん、俺も君たちのこと可愛いなって思ってたから、変な人に声かけられて困惑させるよりって思ってね。あ、すみませーんコーヒーください、ホットで!」


 うわあ……居座る気だ。嫌だなあ。知らない人が近くにいるのって怖いし。

 そんなことを考えてると、スマホがなった。

 着信を見ると桜華ちゃんからメッセージが一件。


『たぶん、いい人だと思うけど、強引だね』


 ああ、桜華ちゃんも人見知りしてるんだ。

 そういえばそうだ。忘れていた。桜華ちゃんは知らない人と応対するときすこぶる冷たい対応をとってしまうんだった。

 だから、ボクの隣にいる男の人にあんな絶対零度の言葉を投げかけてきたんだ。


『この人が桜華ちゃんの隣に座らなくて良かった。じろじろ見られるのは嫌だし』


 後、なんか桜華ちゃんの隣に誰かが座ってるのを見るのは嫌だったから。それは付け足さないことにした。


「ちょっと、さっきから俺抜きでこそこそやってるのは関心しないなあ」

「べ、別にいいじゃないですか」


 ボクがスマホをぽちぽち打ってるのを見てしまったのか男の人が笑いながら言ってくる。

 少し大人びた印象を受ける彼は、年上なのかな? ついつい敬語を使ってしまう。


「別にいいけどなー。そういや、君たち歳いくつなの? 俺明日高校の入学式」

「えっと、ボクも同じ」

「へー、じゃあ、そっちの子も一緒かー。連絡先交換しねー?」


 うう、なんてぐいぐい来る人なんだ。ちょっと気分が悪くなってきたよ。

 しかもなんでボク素直に答えちゃってるんだろう。なんか反射的に答えちゃうんだよね、この人の言葉。悪意が無いからかな。


「嫌よ。なんで見ず知らずの男に連絡先教えないと行けないの。そりゃあ変なナンパを未然に防いでくれたことは感謝してるけど。絶対嫌。名前も教えたくないし、もし学校まで聞いてきたら玉潰すから」


 お股がひゅんってなりました。怖いです。

 金的はダメだよ。あれは軽々しく狙っちゃ行けない急所だから!


「威勢のいいことで。ま、俺も端から期待はしてないさ。ガードが堅いことくらいはね。上手く行けばラッキー程度だからさ」


 うははと豪快に笑った彼は、ふと窓の外を見てみるみる顔を青ざめさせた。


「うげえ……」


 つられてボクも外を見る。

 悪鬼羅刹がそこにいた。

 鬼の形相をした顔立ちの整った女の子が窓におでこを貼り付けて何か言っている。

 声は聞こえないけど、つり上がった眉とか表情とか見れば怒っているのは一目瞭然だ。


「やっべえ……。あいつ置いてきたの忘れてた……。ごめん、これコーヒー代! おつりはいらないから! じゃあな!」


 結局頼んだコーヒーに手もつけず、ボク達をナンパから未然に助けた男の人はお金を置いて店から出て行った。

 それから、目一杯お洒落している女の子に両手を合わせて平謝りをしている。

 女の子もどうやら機嫌を直したようで、すぐに喫茶店から離れて行った。

 そして、一番哀れなのはコーヒーを配膳してきた店員さんだった。


「これ、どうしましょう……?」

「あ、いただきます」


 折角だしもらっておくことにした。これだけ美味しい品物の数々だもん。きっとコーヒーも美味しいはず。


「燈佳くんは現金だね」


 桜華ちゃんがくすりと笑った。それがボクにはたまらなく嬉しい。

 ちょっと気分が悪くなってきてたけど、その小さな笑みを見られただけで少しはマシになった。


「美味しいと思ったから仕方ないよ。ボクだって美味しい味の研究は怠らないんだから」

「そう、それじゃあ、食べ終わったら制服受け取って帰ろっか」

「そうだね。今日は一杯歩いて疲れたよ。あ、夕御飯は期待しててね。とびきり美味しいのつくるから!」


 うん、今日は頑張って作ろう。品数はどれくらいがいいかな。

 そんな感じで、コーヒーを一口。


「にがっ!」


 とても苦かったから、慌てて砂糖とミルクを一杯入れた。

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