18:番宣のお時間です
真ん中に瑞貴を置いて、左右にボクと緋翠。
その形で校内を練り歩く。正直なところ父兄の居ない文化祭を楽しんでいるのとなんら代わりはないのである。
なんか気を利かせてくれたのか、本当に宣伝に行ってこいってことなのかわかりかねるけれど、まあいっか。楽しいし。
「あ、姫ちゃんだー。これ上げるー」
見知らぬ上級生からお菓子を貰った。えーと……なぜ……!? 接点全くないんだけれど。
「あ、ありがとうございます」
流石にちょっと怖かったから瑞貴の後ろに隠れたら、上級生の人はやーんやっぱり可愛いとかいって身もだえしていた、えっとなにこれ。ほんとなんなの!?
「ほら、やっぱり一年の姫ちゃんは小動物系だって言ったでしょ!」
「えー、でももしかしたらがっつり肉食系かもだよ?」
「こんなに可愛いのに!」
「可愛いのは認める。それより怯えてるんだけど、かわいー!」
いやもうなに、どうなってるの?
「すんません、とりあえず解放して貰っていいですか? 怯えてるんで」
瑞貴が助け船を出してくれた。
「ごめんね。こういう機会じゃないと噂になってる下級生に遭遇できないから」
「そうそう! だからこうやって私たち、一年棟にお菓子を持って待っているの」
なるほど、理解したくないけど、理解できてしまう。
所謂好奇心だ。
普段接点のない上級生と交流ができるのが文化祭の強みか。
体育祭は結局の所、日本人気質的な、上下関係が災いして、殆ど接点を持つことができるイベントではなかったし。
「えっと、それはわかりました。あの、ボク達の劇よろしくお願いしますね?」
警戒は解かなかったけど、とりあえず宣伝はしておいた!
それにわかったーなんて言ってくれた上級生達と別れて、ボク達はまた校内を練り歩く。
そのたびに、いろんな人に声を掛けられる。
主にボクか瑞貴が。
立ち止まって、適当に宣伝して、また練り歩く感じ。
「燈佳と瑞貴ばっかり目立ってる……」
「なんでだろうね……。ボクそんなに目立つことしてないはずなのに」
「見た目が得してる子はずーるーいー!!」
「えっと、なんかごめんね?」
「謝られるのが腹立つ! それって自分が可愛いって認めてるってことじゃん!」
「多分普通よりかは、いいと思う、うん」
それにむきーっと怒って見せる緋翠だけど、本気で怒ってるわけがないのはわかっている。ボクだって、自分が人様から見られて可愛い人間だって思うようにしたのはつい最近だもん。事実は事実としてありのままに受け止めなきゃ。
「まあ、宣伝になってるからいいんじゃないか……?」
「はいはい、いいですよーっと。どうせ私は本編じゃ顔も見えないしね!!」
拗ねた。でも、緋翠が一番多い台詞をやってくれてるからみんなが助かってるって所もあるんだよね。
本番に弱いって聞いてたけどそんなことはなかったし。
「拗ねるなよ。お前が一番台詞の多い役やってくれるからすげえ助かってんだよ」
「そう? それならいいけど」
あ、機嫌直した。さすが惚れた弱み。
それから、グラウンドまで足を伸ばして、屋台で買い物したりなんだりして、戻ってきた。
本当に色々な人に声を掛けられた。
明日開催予定のミスコンにエントリーさせられそうになったりとか、カップルコンテストにエントリーさせられそうになったりとか、もうとりあえず、宣伝よりも勧誘の嵐だった。
いや、十分宣伝はできたと思うんだけど、へとへとだ。楽しむ余裕がなかった!
「つ、疲れた!!」
教室に戻ってきて、瑞貴が大の字に寝っ転がる。汚い! 衣装が汚れる!
「瑞貴、明日も着るんだから行儀悪いよ」
「そうはいってもなあ! なんであんなに取り囲まれたんだよ! 取り囲むくらいだったらステージ見に来いよなあ!!」
教室で悠々と過ごしていたクラスメイトが何事かと聞いてきた。
それに逐一事細かに説明すると、それは大変だったなあなんていう声が返ってきて、もう本当に大変だったんだよって言うしか無い。
嫌ではなかったし、宣伝できたってのもある。
それに劇の最後の方に人が増えたのって、口コミで見に来てくれた人が多かったみたい。それはとても嬉しいことだ。
明日は席が全部埋まってたらいいなあ。
それで、明後日は立ち見まで出てたらもっといいよね。
野望はでっかく持たないと!
「みんな、明日も頑張ろうね」
ボクが教室にいる人たちに向かって、声を掛ける。
やっぱり、きょとんとした様な表情をされるのが心外だ。
それでも少し遅れたテンポで口々に頑張ろうって答えてくれるのはいいんだけれど、ボクがリーダーシップ取るのってそんなに変かなあ……?




