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これまで。(2)

 小里琴子は普通の女の子だ。

 背は低すぎず高すぎず、髪は少し明るい色だが癖の少ない肩先ほどの長さ。容姿も雰囲気も目立つ方ではないが、はっきりとした形のいい目元が印象的。小学生の頃は髪も短く活発だった記憶があったから、久々にクラス替えで再会した時には少し驚いた。ただ、これらはあくまでも僕の勝手な認識。


「宇垣くんはさ、鹿川受けるんだよね?」


「うん。小里は立嶺だった?」


 歩きながら、隣に目をやる。小里は前を向いたまま頷いた。

 鹿川高校は県立の、立嶺学園は私立の学校だ。


「かなちゃんは陽盟。井土くんもだったよね?」


「ああ。井土は松木追いかけるつもりだからな」


 信号で止まって、横を見たら小里と目があって、なんとなく2人してくすくすと笑った。そのあとで、小里が遠くを見つめるように呟いた。


「かなちゃんは余裕だろうけど……井土くん、大丈夫かな?」


 目は自然と彼女に倣う形になった。視線を上げて呟いた。


「相当頑張ってるみたいだし、このままならどうにかなりそうだけどな」


 中学3年の秋は、少し繊細で感傷的になり易い。

 高校が別れるとなると、小里と会うことも完全になくなるんだろう。いつかみたいに彼女が日常からフェードアウトしていくのかと考えるが、あまり現実味がない。小里がいなくなる?


「あーあ。なんか、ずっと今のままがいいなぁー」


 みんなとバラバラはヤだなと溜め息を吐きながら、小里は人気の少ない住宅地の横断歩道の白線を、何かのリズムに乗るように渡っていった。その少し後ろを、僕は何の規則もなしにゆっくりついていく。

 夏休みが明けて1月程。受験も進学もまだ先の話のように思える。それでも直視できない、直視したくない問題には違いなかった。

 残りの半年がどれだけの時間なのかなど、僕には判らない。


「勉強に追われる毎日が続くけど?」


 判らないから、僕は笑っておいた。不安となって覆い被さるそれを、払いのけたかったから。

 そして笑って、小里の揚げ足を取っておいた。面白がるような、そんな調子で。


「……なっちゃん野郎め」


 つまらんこと言うな、と横断歩道を渡り終えた彼女は、振り返って僕を睨みつけた。


「なっちゃん言うな」


 そもそもどんな罵倒の仕方だよ、と付け足しながら、斜めなご機嫌の彼女を通り過ぎる。この歳でなっちゃんと呼ばれるのは気恥ずかしい。







 その頃の僕らは、たぶん曖昧だった。

 お互いがいる日常が当然で、たとえば僕なんか、彼女が学校を休むと落ち着かなくて、不安だった。


 新学期に僕と小里の間に交流が生まれ始めると、席の近い井土も小里と親しくなった。好きな漫画が被っていたのが、たぶん一番大きい。そうして、井土文人(ふみと)と、もともと小里と仲の良かった松木(かなえ)の4人で行動することが増えていった。やはり、だいたいの原因は漫画だった。

 放課後は4人で帰った。それぞれの都合があったから毎日とはいかなかったけど。家の方向的に、道半ばで小里と2人っきりになった。若干の回り道にはなれば井土と松木の家の方から帰れなくもなかったが、野暮だという意見が僕と小里の間で一致した。井土が松木に好意を寄せていることは、早くから2人ともなんとなく感づいていたし、夏休み前に本人から相談をされたこともあった。

 僕と小里は、松木を追いかける井土を見守った。

 一方で、僕は小里と2人だけでいられることに安心を感じていた。あの頃僕は、惚れた腫れたの類はさっぱり分からなかったのだが、ただ友人以上の何かである気はしていた。

 隣に彼女がいることに、当然で特別な何かを感じていた。


 そして、その感覚が、お互いの距離が変化していくのには、そう時間はかからなかった。




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