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これまで。(1)

宇垣(うがき) 夏生(なつき)

 …理屈っぽい主人公。


小里(こさと) 琴子(ことこ)

 …文学少女系。しっかりさん。


井土(いづち) 文人(ふみと)

 …お調子者風。夏生とは親友。


松木(まつき) (かなえ)

 …琴子の親友。髪はゆるふわ。

『──あのさ』


 受話器越しの彼女の声がくぐもっていたのは、果たして何の所為だったのだろうか。


『もう、別れない?』








 宇垣(うがき)夏生(なつき)という少年が小里(こさと)琴子(ことこ)という少女と出会ったのは、もう大分と前のことになる。


 最初の最初、お互いがお互いを初めて知ることとなったのは、小学5年生の時。1クラス36人の教室で、6席の夏生、琴子は12席、そうして隣の席になった時だった。2人の会話は多くもなく少なくもなく、また、どちらかが悪戯をしかけたり揉めたりということには特になかった。「昨日のテレビが〜」、「うちの犬が〜」、それらしいことを話して1ヶ月が過ぎた。それから何度か席替えがあって、その内の何度か隣同士になった。


 その翌年、6年の時の夏生の最初の隣の席は、家も近所の気の合う男友達だった。特に意識もせず、琴子は夏生の日常から消えていった。


 そうして他地域の顔ぶれも増えた中学。最初の2年間で、同じクラスの名簿に小里の苗字が書かれることはなかった。しかしそれを別段気にしたり、まして寂しいと感じる夏生もいなかった。

 だが、3年になった年、再び琴子と同じ組になった。しかも30人のクラスで5席と10席、つまりまた隣同士。「あ、久しぶり」「ああ、久しぶり」と驚いたようなそうでもないような会話をしたのは、新しい席に荷物を降ろしたちょうどその時だった。

 それからの何がキッカケとなったのか、2人は距離を縮めていくこととなった。







 僕の机に振り向き頬杖をつく井土(いづち)が、窓の外を見つめながら深く溜め息をついた。


「彼女が欲しい……」


 季節は秋。と言っても暦の上での話で、9月のあたまは残暑厳しく、流れる汗の鬱陶しさはしばらく健在し続けるだろう時期。


松木(まつき)と、縁日行ったんだろ?」


 教室の後ろの黒板を振り返って時間割を確認しながら、僕は溜め息をつく。次は社会科の確認テストだ。


「おう、かき氷食べ比べしたし、線香花火したし!もうな、めっちゃくちゃ楽しかったぜ!」


 イジケた様な表情から一転、ぱぁぁ、というオノマトペが見えそうなくらい顔を輝かせる井土。


「進展は?」


「……ない」


 しかし、僕の一言にあえなく撃沈され、今度は勢い良く机に突っ伏した。忙しい奴である。そんでもって邪魔である。


「まあ、まだまだ時間はあるからねー。文化祭も終わってないし、クリスマスやバレンタインも大分先の話だしー?」


「俺ら受験生!そんなイベント楽しむ暇ねえわ!!」


 がばぁ、と跳ね起きた井土と、危うく頭をぶつけそうになる。起きあがってきた顔は、両手を添えていればムンクの叫びもかくや。


「分かってるならいいよ」


 あー、とうなだれる井土との間に、開いたノートでバリケードを作る。


「夏生はさー、小里とはどうなわけよ」


 そのノートを引き倒して、不機嫌顔の井土が口を尖らせた。


「なんとも」


 選挙制の違いの項からすっと目線を動かし教室の対岸を見やると、件の松木の席で彼女の席を占領する小里と目が合った。ような気がしたのだが、彼女の視線はそのまま僕との交錯点を通り過ぎ、教室の後ろを通って机上の教科書に戻った。


「ふーん」


 何か言いたげな井土を無視してそのまま教室の時計に目をやる。もうチャイムが鳴る時間だ。


「労働三権」


「団結権と団体交渉権と団体行動権」


「よくできました。ほらチャイム鳴るぞ」


 あっち向いた、しっしっと追い払うように手を振ると、ちょうど担任がやってきた。

 立ち歩いていた人たちが慌ただしく席に戻る。教科書を鞄に滑り込ませて、窓の外に目をやる。別に意味なんてない。






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