エスプレッソジャム
朝の冷気が指を痛めつけた。
暖炉の火は落ちている。ペアガラスを通しても外の温度が感じられた。
畑は真っ白だった。夜の間に落ちた霜が粉雪のように散っていた。食べ出があるガトーショコラだ。
エスプレッソマシンが震えた。
小さなカップから湯気が立ち上る。苦い香りが天井を濡らす。カップに浮かんだクレマはきめが細かく美しい。
触れると、やわらかかった。
指についた泡を舐める。
吐き出した。
溜め息も出た。
心配してくれる人はもういない。ダブルベッドは広く、ペアガラスも寒さから守ってくれない。
あいつの誕生日にプレゼントしたカップが冷たくなり始めた。クレマが消えて茶色の汚れになる。エスプレッソは苦みが立って香りが歪んだ。
もう、飲めない。
冷めてしまったから。
私は大嫌いだったエスプレッソを捨てた。
床の上に広がっていた赤いジャムと混じる。
あいつを捨てたのは私だ。
捨てられたんじゃない。
ジャムを作ったナイフを暖炉に投げ込んだ。
寒かったから灯油を撒いて火をつけた。
服を着て家を出た。
指の傷に効く薬が欲しい。美味しいスイーツも食べたい。
エスプレッソは抜きで。