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クロスライセンス

目の前に1枚の光ディスクカードがある。


今、このカードを利用して、1000億円のビジネスを創造しようと、社内の専門家が経営企画室の会議室に集められた。


この事業は、3つの戦略を同時に展開させなければうまくいかない。


まず一つ目は、特許戦略。


  さっき紹介された3人が、訴訟、ライセンス、商標のノウハウを投入して、この光ディスクカードに「特許収入」と言う権利ビジネスの種を吹き込む。


そして二つ目は、開発戦略。


  光ディスクカードの開発は、大野さん。それを記録・再生する機器の開発は、桜井さん。

  二人とも、50歳を過ぎた職人気質の技術者で、数え切れないほどたくさんの特許を持っている。


  それから、それらをコンピューターや非接触ICチップと連携させてセキュリティを強化させるためのソフトウエアを開発するのは、SS社の社長の田中さん。


そして三つ目は、販売戦略。


  政府系の物件に強いコネクションを持つ早川さんと、音楽、出版、映像系の販売に強い宮田さん。


 「すごい顔ぶれですね^^」


僕は、ちゃっかり美人の中井さんの隣に座って、話しかけた。


 「まさにドリームチームですね。」


中井さんが美しい笑顔でにっこり微笑んだ。


 (ドリームチームか~~)


中井さんのそんな言葉を聞いて、昨日までの自分とまったく違う自分がここにいるような不思議な気持ちになった。



僕の仕事は、このプロジェクトの進行管理と高田専務の代行業務。簡単に言うと雑用だ。

会議を開いたり、資料を作ったり、何でもやる仕事だ。


 「小林くん、じゃあ、まず手始めに、全世界にプレス発表してくれ。」

 「え?全世界にですか?」

 「そうだ。JOK社が、光ディスクカード事業に参入!将来は1000億円事業に!という内容だ」

 「ひ~~いきなり全世界ですか?」

 「そうだ。どうしてか、わかるか?」

 「さあ?....」

 「JOKが光ディスクカード事業に参入すると聞けば、関連する特許を持っている世界中の人間が、これをビジネスチャンスと見て必ず食いついてくる。」

 「はあ...それで、どうするんですか?」


僕は、専務の言っている意味が理解できなかった。 


 「食いついて来た相手を一気に調べて、良い権利は買う。邪魔な権利は潰す。良い相手なら協業する。」

 「おおお~~~~!!確かに一件ずつ権利関係を調べるより100倍早いですね!」


 (専務は、すごすぎる!!!!)


早速、僕は広報室と相談してプレス発表をした。


結果は予想通り。


ものすごい数の問い合わせが、アメリカ、ヨーロッパ、アジアから舞い込んできた。そして、僕たちは、スイスのM社、イギリスのO社、シンガポールのS社と会うことになったんだ。



彼らは、それぞれの地域で、光ディスクカードの「形状にまつわる特許」を保有していた。


これについて特許担当の遠藤さんは、淡々と"事実"を説明してくれた。


 「まず、この中で一番強い特許はイギリスのO社のものです。欧州、米国と最大市場を押さえています。それから、スイスのM社はアジアとオセアニア。ただし、シンガポールと中国と日本は、シンガポールのS社が押さえてます。」

 「すると、我々はまず、日本を押さえているシンガポールのS社をどうするかを考えなければいけないわけだな?」


専務が特許戦略の優先順位を慎重に検討している。


 「はい、ところが、これがちょっと複雑でして...」

 「何が複雑なんだ?」

 「我々の開発パートナーであるSS社とシンガポールのS社は、実は現在裁判係争中なんです」

 「裁判?」

 「はい、実は、SS社の田中社長は、日本における独占販売権をスイスのM社から購入しているんです」

 「ちょっと待て。変だぞ。日本での権利を持っているのはS社だろう?どうして、M社がSS社に日本の権利を販売できるんだ?」

 「はい。つまり、S社とM社も、日本での権利を係争中なわけです」

 「う~ん、ややこしいな。どいつもこいつも自分の権利が正しいと信じているわけだ」

 「はい。」

 「遠藤さんから見て、裁判所の判断はどう出ると思う?」

 「おそらく、S社の権利が強いでしょう。」

 「すると、SS社は立場が悪くなるな...」

 「ただ、我々としては、SS社のソフト開発力がなければこのビジネスを立ち上げることができませんし、権利は権利としてきっちり分けて考えていかなければいかないと思います」

 「それはそうだな。まあ、Hybrid技術が完成すれば、後は、コンソーシアムを作って、その傘下で権利収入をどう分け合うかを考えればいいし、あわてることはないか」



--数日後--


光ディスクカードの形状の権利を保有する三社が、本社を訪れてきた。

彼らの目的は、JOKのビジネススキームを確認することと、自分たちの特許がどうお金に変わるのかを確かめることの二つだった。


JOKがこのビジネスを展開するために避けて通ることができないこと、それがすなわち彼らの保有する「形状の権利」なのだ。


彼らはそれぞれ弁護士を連れてきている。


そして、これに対し、彼らに真正面から対峙するのは、訴訟担当でニューヨーク帰りのハーマン高橋さん。



 「OK。皆さんの主張はよくわかりました。」


高橋さんは、落ち着いた態度でそう言った。


 「じゃあ、特許料の件は理解していただいたわけですね」


彼らが答えを急ぐように高橋さんを覗き込んだ。


高橋さんは、それに対し、顔色ひとつ変えずにきっぱりと言った。


 「特許料は払いません。」


一瞬、会議室の雰囲気が殺気立った。


 「なに言ってるんですか?意味がわからない!」相手の弁護士が、声を荒げて立ち上がった。


 「特許料は払いません。その代わりに、我が社が保有するHybrid技術を皆さんに提供します。」


 「Hybrid技術???」


 「クロスライセンスです。皆さんは"形状の権利"をJOKに提供し、JOKは皆さんにHybrid技術の権利を提供します。」


 (....すげ~~~~~~!!!!なんだこれ!!)


まさか、こんな隠し技があったとは夢にも思わなかった!

僕は、特許の交渉というのはこんな風に行われるのか!と妙に感動した!


その後、Hybrid技術の概要説明が行われ、彼らは期待と困惑が入り乱れたような目をして帰って行った。




「高橋さん!さっき、かっこよかったですね!」

「ははは、そうか?アメリカにいた頃はしょっちゅうこんな感じだったよ」

「でも、Hybrid技術ってすごいですね!」

「ああ、実はまだ完成してないけどね」

「え??」

「大野さんが、今、必死でやってるよ。そのうちに完成するさ」


新しい事業と言うのはこうやって生まれていくのか。。。。


僕は、この人たちについていけるのか少し心配になってきた。。。

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