予想外の人事異動
この小説は、Lang-8という外国語学習サイトで中国語で連載をしています。
はじめてロンドンに行ったのは、2000年の冬だと思っていた。
この話を書くにあたって、改めて、期限切れになった古いパスポートを確認すると、そこには2002年2月5日の印が押してある。
(ああ、あれは2002年の出来事だったんだ~^^)
頭の中で、2000年のシドニーオリンピックと2002年の日韓ワールドカップがごちゃ混ぜになってる。
記憶というものは、時々確認しないと、どんどんずれていくのかもしれない。
-- 2000年4月 --
東京の日比谷線神谷町駅から、歩いて三分の茶色いビル。
1998年4月から2年間の約束で、僕はこの会社に出向させられ、デジタルコンテンツの投資ビジネスをやらされていた。
「人事部長~!2年経ったら絶対、本社に戻してくださいね!」
「わかったわかった!帰ってきたら好きな仕事やらせてあげるから、がんばって仕事しろ!」
すがりつく僕を、人事部長は突き放して、僕の苦しい2年間が始まった。
右も左もわからないような素人に、何億円というお金を預けて投資させるんだから、あの頃の会社は確かに余裕があった。映画やアニメ、ゲームや音楽、おもしろそうなものには何でも手を出して、そのたびに騙されそうになったり、失敗しながら、真っ青になって過ごした2年間だった。
(辛い思い出がいっぱいのこの会社とも、もうすぐお別れだ~)
まだ誰も出社していない会社の鍵を開けて中に入り、カーテンをサッと開くと、青い空に真っ赤な東京タワーが真っ直ぐ伸びて、何か新しい出来事の予感を感じさせてくれた。
「あ~やっと本社に戻れるんだ~~」
その日僕は、誰よりも早く出社して、身の回りを整理しながら、新しい仕事のことをいろいろ考えていた。
実は、数日前、本社から正式に人事異動の知らせを聞いていたんだ。
「小林さん?よかったね、今度はソフト事業部で映画関係の仕事をしてもらうことになったよ」
「ありがとうございます!!がんばります!!」
約束どおり希望通りの職場に配属してくれた人事部長の言葉に、僕は飛び上がりたいくらい舞い上がっていた。
2年前、この会社に出向が決まった時は、それはそれでやりがいのある仕事だと思っていた。
だけど、投資ビジネスとは名ばかりで、まるで銀行の融資担当みたいに根掘り葉掘り相手の身辺調査をしたり、投資回収ができなければ取り立てみたいにして待ち伏せしたりと、何となくやりきれない日々を過ごしていた。
いつか映画の仕事がしたい。。。
いつの日からか、そんな風に思い始めて、その夢がいよいよかなう時が近づいてきた。
そんな時、机の上の電話が鳴った。
「はい、小林です~^^」
人事部長だった。僕は、飼い犬がご主人様に飛びつくみたいにうれしい声を上げた。
「あ、人事部長~~~!!!」
人事部長は少し戸惑った様子で、何か言いにくそうに小さな声で切り出した。
「あのね、小林くん。」
「はいはい~なんですか~」
僕は呑気な声を出して答えた。
「実はね、急な話で申し訳ないんだけど、ソフト事業部の仕事、だめになっちゃったんだよ」
「え??」
僕は、訳がわからなかった。
「どうしてですか?事業部長のOKも取れたって言ってたじゃないですか!」
「いや、ごめん、高田専務がね、いきなり君を経営企画室に配属させるように言い出して」
「経営企画室?」
「そうなんだ。新規事業担当らしいんだ。こっちも本当に困ってるんだけど、専務には逆らえないしね。」
僕は一瞬目の前が真っ暗になった。
高田専務なんて雲の上の人が、どうしていきなり平社員の僕を指名したのかが理解できなかった。
ついさっきまで、青山の表参道沿いのオフィスで映画の仕事をすることを楽しみにしていたのに、一瞬にして人生が大きく変わってしまった。
「とりあえず、荷物まとめたら明日にでも専務のところに行ってくれ」
人事部長は、申し訳なさそうにそう言って電話を切った。
(な....何なんだよ.....。)
その時はまだ、これから起こる出来事がどんなものなんかなんて想像もつかず、
ただ深いため息をついて、青い空にそびえ立つ東京タワーを見上げていた。
さっきとは打って変わって、こわいほど味気なく希望のカケラもない景色に見えた。