バルタシア王国の太陽と月
毎回読んでいただいてありがとうございます。
最近少しずつですが、読者様が増えてきて、ますますやる気になっていると
勘違いしている私ですが!
今回もがんばって書きました。では本編をご覧くださいませ
〜〜〜〜〜レネリスの部屋〜〜〜〜〜
バルタシア王家に伝わる本に書かれる文章の一節。
「バルタシア王国には、太陽の国王と月の国王がいる。
太陽の王は、国民の信頼を集め、国民を正しき道へ導く。
月の王は、太陽の王を支え、あるべき国の形を築く。
二人の王はお互いに信頼関係を築かねばならない。」
レネリスは本を閉じると、窓の外に浮かぶ月を見つめた。
「ゲニムの奴・・・俺の忠告通り、何もしなければいいんだがな・・・」
〜〜〜ラミレシアの部屋〜〜〜〜
「という伝説が語り継がれ、それが末永く続きますように。
という事を願うお祭りが今日なんです。」
ルルカの熱弁を椅子に座りながら聞いて、私はバルタシア王家に伝わる歴史の一端を見た。
「そうなんだ〜。で、月の王がレネリス様で、太陽の王がゲニス陛下なのね」
「そういうことです。」
私とルルカは、先生と生徒のような会話を向き合ってしていた。
ミーナ様とミクリーは、飽きたのかベットで眠ってしまっている。
「前にゲニム様に私が襲われた所を、レネリス様が助けてくれた話をしてくれたじゃない?
二人は仲がよくないの?」
ルルカはティーポットから手を離し、人差し指を顎に当てながら、唸っている。
「どうなんでしょうか。ゲニム陛下も変わった人と聞いてますし、
あんまり人と接するのがお好きではないのかもしれませんね」
私は、食事会の時のゲニム陛下を思い出していた。
「仲良くすればいいのにね。原因がわかれば仲良くなれるとおもうのに」
ルルカは困った顔をすると、「大人の事情かもしれません」と苦笑した。
私は考えた挙句一つの結論に至った。
(今日がお祭りなら、仲良くなるきっかけになるかもしれないよね)
「私ゲニム様の所へ行ってくる。」
私が急に立ち上がって、ルルカに言うと、
目を丸くして、頭に「?」マークを付けていた。
「え!?ラミレシア様!いきなりなんですか!?」
ルルカはあまりの動揺にカップからお茶をこぼしていた。
「だって、こんなお祭りの日に、仲違いしてるなんておかしいよ」
私はルルカの目を見て真剣に応えた。
ルルカはこぼしたお茶を拭きながら、困った顔をしている。
「ラミレシア様、さっき言ったのはあくまで、噂で・・・」
「噂だったら、それでいいじゃない。真実だったら、この国が悪い方向へ行っちゃうよ。
お祭りの時間まであんまり時間ないから、ゲニム陛下の所へ行ってくる。」
私はルルカにミーナ様をお願いすると、なんとかしないといけない気持ちで、後先考えずに部屋をでた。
部屋に残されたルルカは、ミーナ様を置いていくこともできず、途方にくれていた。
〜〜〜〜ゲニム陛下の部屋〜〜〜〜〜
ゲニムは一人、部屋の中を歩きまわり、
テーブルを蹴飛ばすなどし、怒りと困惑した表情をしていた。
「くそ!リンの奴め・・・・こんな事をしたら・・・俺はもう王では無くなる。
だが、やらなければ殺される・・・」
ゲニムは、今日お祭りで着る洋服を投げつけた。
「くそくそくそ!
どうしてこうなっちまった!
俺は・・・この国の為に・・・・・」
ゲニムは悪態をついたあと、ベットに腰を降ろすと顔を落とし黙り込んだ。
その時、ドアの前の衛兵が声をかけてきた。
「ゲニム陛下。ラミレシア様がお見えですが、いかがいたしましょうか?」
「なんだ、こんな忙しい時に・・・・え・・?」
ゲニムは、ほおけた顔で小さくつぶやいた。
「なんでラミレシアが此処に・・・?」
ゲニムはとりあえず、入室許可を出し、ラミレシアの様子を伺う事にした。
部屋に入ってきたラミレシアは、ゲニムの部屋の散らかり様に動揺した。
ゲニムは咳払いをした後、何の用事か訪ねた。
ラミレシアは、緊張を押し殺した声ではっきりと言った。
「ゲニム様、今日はお祭りなので、レネリス様と仲良くしてください」
ゲニムは何を言われたのか理解するのに、時間を要した。
ゲニムとラミレシアの間でわずかな沈黙の後、ゲニムが口を開いた。
「まあ、散らかってるが、座ってくれ」
そういうと、空いている椅子を指差し、ラミレシアは緊張した面持ちで腰掛けた。
ゲニムは窓の傍にある、仕事用の椅子に座った。
「一人で来たのか?」
ゲニムは真剣な眼差しでラミレシアを見つめた。
ラミレシアは「はい」と真っ直ぐに答えた。
ゲニムは顎に手を当て考える素振りをした後、又しばらく沈黙が続いた。
「さっきの質問に戻るが、別に仲が悪いわけじゃない。」
「それならいいんです。急に押しかけてすみませんでした」
ゲニムの返答に、安堵の表情でラミレシアはお辞儀をした。
「今度は俺からの質問いいか?」
急にゲニムに問いかけられ、体がびくりと反応した。
「なぜ一人で此処へ来た?俺がお前を拉致したのは聞いただろ?」
「う〜ん何故って言われましても・・・」
ラミレシアは困った表情をしたが、しばらくし、言葉をつむいだ。
「ただ太陽の王がゲニム様、月の王がレネリス様って聞いた時に、
きっとゲニム様には、事情があったんじゃないかって思ったのです。」
ラミレシアが言い終わった瞬間に、ゲニスは椅子から立ち上がり、震えていた。
「事情だ?お前に何がわかる?俺の事情なんてわかるわけがない!
知った風な口を聞くな!」
ゲニムは、拳を強く握り、目の前にあるテーブルを叩き、ラミレシアを睨めつけた。
そしてゆっくりと、ラミレシアに近づいていって、手を上げた時、
ミクリーは宙に浮き、目を大きく開け、ゲニムの右手に向けて、光のムチみたいな物が飛び出した。
ラミレシアは咄嗟に、ゲニムを庇うように動き、背中でミクリーのムチを受け止めると、二人は折り重なるように倒れた。
「ミクリーだめだよ。ゲニム様に手を出さないで。」
苦痛に歪んだ表情でミクリーを振り返ると、唖然としていた。
ミクリーは地面にゆっくりと着地すると、ドレスの背中が裂けた所から見える傷を見つめながら、
下を向きそれから動かなくなった。
ラミレシアがすぐにゲニムから離れ、抱き起こしてる間、ゲニムは反撃されたショックからか、
目を大きく開け、突然の出来事に動揺していた。
「ゲニム様大丈夫ですか?」
ラミレシアはゲニムに駆け寄り、「失礼します」と告げると、怪我がないことを手で触れて確認する事ができた。
心配そうな表情で下から見上げるラミレシアに、
ゲニムは突然大きな声をだした。
「なんで俺を庇ったんだ!?
俺はお前を叩こうとしたんだぞ!
俺なんかを庇う価値ないだろうが!
お前は何もわかっちゃいない!」
その時、ゲニムの部屋に、頬を叩く音が響いた。
ゲニムはラミレシアに叩かれた事に驚いたが、
目の前で自分を睨みつける少女に目を奪われていた。
「私は何にも知らない、田舎者よ!
でもね、誰かを助けるのに理由なんていらないでしょ!
それに、ゲニム様のあんな表情みたら・・・苦しんでるのくらいわかります!」
ラミレシアは、自分よりも背が高い、ゲニムを強い意志と表情で、じっと見つめ、
相手が王様である事も、背中の傷の痛みも忘れ声を張り上げていた。
「ちゃんと話てみてください!話すまで私此処を動きませんよ!」
目の前まで近寄ってきて、強い意志を感じさせる少女にゲニムは強い衝撃を覚えた。
「俺だって・・・」
ゲニムは、拳を強く握り締め、ラミレシアに自分の思いをぶつける様に、睨みつけた。
「俺だって国民の為に何かしようって必死だったさ!
太陽の王だって人間さ!出来ないことだってある!
王の孤独は誰がわかる?家来か?国民か?
わかるわけねーよ!
俺は誰も導けねーよ!」
ゲニムの声は大きく部屋中に響き渡った。
ラミレシアもまた、自分の胸に手を当て、言い返した。
「私に王様の気持ちなんてわからないよ!でもね!貴方の叫びは届いたよ!」
「知った風な口を聞くなって言ったろ!」
「わるかったね!私は王族じゃないし、ただの田舎娘よ!」
お互いに一歩も引かなかった。
目と目を合わせたまま、しばらくの間、二人は対峙していた。
ゲニムは、ふと表情を緩めた。
「お前はなんでそんなに必死なんだ」
「知らないよ。でも貴方が何も言わないから。皆と壁を作るから。
なんか腹が立ったの。
一人じゃできない事も、仲間がいればできるかもしれない。
あんまり一人で悩まないで。
それとも、こんな田舎娘じゃ相談できないって?」
ラミレシアの見つめる瞳を、ゲニムは真正面から受け止めていた。
「じゃあ一つ聞くが、もし、もうじき俺が死ぬって言ったら、どうする?」
「言ってる意味がわからないよ?」
ラミレシアはいきなり何を言われたのかわからなかった。
「理由はよくわからないけど、死ぬ前に生きる事選択しなさいよ。
もしその選択がすでに失われていたとしたら、私が助ける」
「田舎娘のお前に何が出来る?」
ゲニムが鼻で笑ったように言うと、ラミレシアは胸を張って言った。
「なんだってできるよ。だって、私は私を信じてるから」
ゲニムは自分の心の変化を、わずかながら感じ取っていた。
二人が、部屋の真ん中で向き合っていると、ドアがノックされる音がした。
「陛下、お食事の用意ができました。」
ドア越しから衛兵の声が聞こえた。
「今行く。先に行っててくれ」
ゲニムはさっきとは裏腹に、冷静に応えた。
「そういうことだから。俺はもういく。
お前ももう帰れ。レネリスがここに飛び込んできたら、どっち道俺の命はないかもしれん」
そういうと、ゲニムは落ち着いた表情で部屋を出て行った。
部屋に残された、ラミレシアは冷静さを取り戻すと、とんでもない事をしたという後悔にさいなまれた。
「はあ・・・私なんか色々まずいこと言っちゃった気が・・・」
と言いつつ、部屋の隅で動かなくなっているミクリーを抱きあげると部屋を出た。
〜〜〜〜バルタシア城の回廊〜〜〜〜〜
私は考え込みながら、自分の部屋へ向けて歩いていた。
「なんか大事な用があって、ゲニム様の部屋へ行ったはずなんだけど・・・」
その時、前からサクン様とミーナ様を背負ったルルカが血相を変えて走ってきた。
「皆どうしたの?」
「ラミレシア様、ご無事で・・・」
サクン様とルルカは、どうやら私を心配して走ってきたらしく、
ルルカにいたっては、息切れで言葉がでないらしい。
「ルルカさんから聞きましたよ。ゲニム陛下の所へ行ったらしいと」
サクン様は私の横に並び立つと、私と歩幅を合わせるように歩きはじめた。
ルルカは私の前方で息を整えている。
「ゲニム陛下の所へ行ったんだけど、なんか怒らせてしまって・・・。
喧嘩になっちゃった」
サクンは驚いた表情をし、私は下を向きながら、重い足取りで部屋へ向かう。
やっと息が整ったのか、ルルカも私の横に並び立つ。
「ラミレシア様・・・ご無事で。それでどうなりました?
仲良くさせる事できたんですか?
「あ・・・・そうだった!仲良くさせる為に行ったんだ!」
私が一人納得してると、ルルカは目を丸くさせていた。
「もう一回ゲニム陛下の所へ行ってくる!」
そう言って、向きを変えたが、サクン様に急に腕を掴まれた。
「ラミレシア様、洋服の背中破けてますよ!何があったんですか!?
それに、血が着いた痕跡もあります!」
ゲニム様とのやり取りに夢中ですっかり忘れていた。
「こ・・これはちょっと背中ぶつけちゃって・・・気にしないで」
「気にしない方が無理ですよ!」
サクン様は、明らかに怒った表情をしていた。
「とりあえず、すぐに部屋へ参りましょう。そこで治療を。」
そういうと、背中に負担がないように私を抱きかかえ、
私の言葉も聞かず、私の部屋へ足早に歩き出した。
そんな二人に、ミーナ様を背負ったルルカは到底ついていけるわけもなかった。
「え?何??待って〜」
ルルカの声は虚しく廊下に響き渡った。
〜〜〜〜ラミレシアの部屋〜〜〜〜
部屋に戻ると、サクン様は私を椅子に座らせ、やや焦りながら私の背中を見た。
「あの・・・私一応女の子なので・・・心配してくれるのはうれしいんだけど、
そんなにジロジロと見られるとはずかしいのですが・・・」
私が言いにくそうに言うと、状況を把握したサクン様は、顔を真っ赤にして動揺した。
「す・・・すみません!部屋の外で待っています!」
そういうとサクン様は慌てて部屋を出て行った。
頭の上で動かないミクリーをテーブルの上に置き、
私はゆっくり、洋服を脱ぎ、下着姿で今着ていたドレスを見た。
「もうあんまり傷口痛くないから、あんまり気にしてなかったけど、
思ったより洋服破けちゃってるな・・・・」
私は色々な角度から洋服を眺めてみたが、洋服の破れ方は割りと酷かった。
「弁償代・・・高いだろうな・・・」
私はため息をこぼすと、今度は自分の背中の傷に触れてみたが、
もう瘡蓋になっていた。
「これなら、傷の方はいいか、問題は洋服よね・・・」
どうしようか考えていると、ドアがノックされ、ルルカだとわかると、入室を許可した。
ルルカは入ってくると同時に目を見開き私を見た。
「ラミレシア様・・・・下着姿で何を・・・」
「いや・・・その・・・」
私は破れた洋服を咄嗟に背後に隠してしまった。
ルルカはミーナ様をベットに寝かせると、私の元へやってきて、
背後に隠した洋服を見つけると目を見開いた。
「ラミレシア様。これ一体どこで・・・・。
まさか、ゲニス様に何かされたんじゃ・・・・」
「そんなことないよ。転んでひっかいただけ・・・ごめんね」
私は素直に謝った。
「とりあえず、これを着てください。下着姿でずっといては風邪ひいちゃいますよ」
「うん。ありがとう。ルルカ」
ルルカはタンスから、青色のドレスを出してくれた。
「ところで、ミクリー様はなんで顔を強張らせたまま動かないんでしょうか?」
ルルカはラミレシアの破れた洋服の程度を確認しながら聞いてきた。
私はミクリーを手のひらに乗せ、じっと見つめた。
私が頭を撫でると、涙を溜め小さな声で鳴き始めた。
心当たりはあった。
「ミクリーごめんね。私を守ろうとしてくれたんだよね。あんな言い方してごめんね」
ミクリーは私の手の平で泣き続けた。
「聞いてミクリー。私はミクリーも大事だし、ゲニス様も大事なの。
だから、いつもミクリーが私を守ってくれるように、私もゲニス様を守ったの」
ミクリーの涙はさらに溢れ、零れ落ちた。
ゆっくりと動き出したミクリーは背中の傘の先を使い、紙に字をかきはじめた。
「ごめんなさい」と。
ミクリーは子供なのだ。自分に正直で、優しい子。
そんなミクリーが愛おしく思えている。
私はミクリーの小さな顔を、頬に近づけると、
小さな声で再度「ありがとう」と言った。
自然と目から涙が溢れミクリーの髪の毛を少しだけ濡らした。
そんな二人を、ルルカは遠くから優しく見つめていた。
読んでいただいてありがとうございました。
個人的には、ミクリーが大好きです。皆さんは好きなキャラクターができましたでしょうか?よかったら教えてくださいね。
では次回弟8章でお会いしましょう