繋がれた心
第5話で1部完結します。
ラミレシアの気持ちと、レネリスの行く末をお守りください
〜〜〜〜レネリスの一室〜〜〜〜
部屋中に黒いどろどろとした煙が蔓延している。
その中心にミクリーは私をかばうように、レネリス様はミクリーと
向かい合うように対峙していた。
(あれはやっぱりレネリス様本人・・・・)
私は吹き荒れる部屋の中、黒い化け者の右目を見て、レネリス様本人であると確信することができた。
「レネリス様!どうされたのですか!?」
レネリス様の右目は何かを訴えているように私には見えた。
(どうしよう・・・誰かよばなきゃ・・・)
私は何か役立ちそうな物がないか探しているうちに、
状況はさらに悪くなった。
ミクリーの魔法がかき消され、ミクリーは壁に叩きつけられた。
「ミクリ〜〜〜〜〜!!」
私はミクリーが吹き飛んだ場所へ行こうとしたが、黒い煙が私の両足を掴んで離さない。
「この!この!離せ!」
黒い煙に掴まれた事と、ミクリーの事で頭がいっぱいになっていた私は気付かなかった。
レネリス様を覆った黒い怪物が私の真後ろに来ていた事に。
黒い影で後ろを振り向くと怪物の手は私の喉元に来ていた。
そして喉を掴まれた私はゆっくりと持ち上げられる。
「離し・・・・て・・・・」
段々と強くなる力に、声は徐々に出なくなり、必死にもがく私の手足は虚しく空をきるだけだった。
薄れ行く意識の中で、レネリス様の右目を最後まで見つめ、
声がでなくなっても、名前を最後まで呼び続けた。
その時、私の腰に吊るしてあった袋から赤い水晶が輝きを放つと、化け物はたじろぎ、
手の力を一瞬緩めると、崩れ落ちるように落下した。
だが、下に叩きつけられることはなかった。
意識を失ったラミレシアはスラリとした男性に抱きかかえられていた。
入り口のドアからはスフォンの声が響く。
「グニス総隊長!間に合いましたか!?」
グニスは目の前にいる化け物から、胸の中で眠る彼女の顔に視線を移すと、口笛を吹いた。
「こりゃ。天使だな」
スフォンは無事にグニスの腕の中に眠る少女を見て安堵した。
「彼女が例の少女ですよ。」
「そうか」と小声で応えると、グニスは複雑な思いで、ラミレシアを見つめた。
冷静さを取り戻した黒い怪物に目を向けると、刀を構え対峙した。
「なあ。レネリスよ。意識がまだあるなら聞いてくれ。
お前を殺す約束はしたが、まさかこんなに早くくるとは思ってなかったぞ?
お前の精神力はこんなもんか?悪魔に屈っしたのかよ!!!」
グニスは叫び放つと、目にも留まらぬ速さで部屋の壁という壁を走り抜け、
完全に黒い煙に覆われたレネリス様の背後に一撃を放つが、ガードされた。
「ほお。見えるのか。じゃあ更にスピードあげるぜ!」
そういうと、壁を蹴る音ではなく、爆撃のように壁に穴があきそうな音が部屋中にこだました。
スフォンは、ラミレシアと壁際で意識を失っているミクリーを廊下まで連れ出すと、
怪我の状態をチェックした。
「ふむ、首に痣と足に擦り傷程度なら、安静にしてれば大丈夫だろう・・・」
ミクリーを見ると、妖精は範囲外らしく、包帯でぐるぐる巻いていた。
スフォンはラミレシアとミクリーの応急処置をすると、廊下への出入り口から戦況をうかがった。
そこでグニスと戦うレネリス様だった者は完全に黒い化け物へと変貌していた。
スフォンは腕時計を見ると、「残り時間後20分か」と自分への戒めのように呟いた。
「レネリス様・・・私は貴方を信じます。貴方が私を信じてくれたように・・・」
グニスは、スフォンがラミレシア達を連れて行った後、
変貌したレネリスの体力を奪いつつ、レネリスを覆う黒い塊りを正確に剥ぎ取っていった。
「レネリスよ!まだ意識あるんだろうな!?俺の努力無駄にしたら殺すぞ!」
そういうとグニスは更に刀を高速に動かした。
レネリスの体が少しずつ見えてきたが、意識が戻る様子はまだなかった。
私は気付くと、廊下で横になっていた。
部屋の中から響く喧騒ですぐに、さっきまでの事を思い出すと、体を起こした。
ゆっくり部屋の中を覗き見ると、知らない男性がレネリス様と戦っていた。
首が少し痛んだが部屋の中へゆっくり入っていくと、スフォン様が入り口で刀を構え待機していた。
「スフォン様・・・レネリス様は・・・」
「今グニス総隊長がなんとかしようとしてくれています。」
私は二人の戦いを見守りながら、スフォン様に聞いた。
「あの中にレネリス様がいます。でもあの黒いのは何なのかわかりません。」
スフォンの目は前を向いたまま口が動いた。
「あれは悪魔の塊りだよ。下級悪魔。でも中心にはでかい悪魔が住んでる。
君も治癒士なら聞いたことはあるだろ?
悪魔契約は巨大な力と引き換えに死と不幸を撒き散らす。」
私は母の言葉を思い出し、レネリス様のことが気になった。
「レネリス様はどうなるんですか?」
「このままでは同化してしまう、悪魔と。魂も肉体も食われてね。」
「なんとかならないんですか?」
スフォン様は私の方を見向きもせず、刀を構えた手を震わせていた。
私はグニス様とレネリス様の戦いを見守ることしかできなかった。
二人の戦いが長くなるにつれ、グニス様の体力が落ち動きが鈍くなる。
一方レネリス様は周りの黒い煙を吸収し、動きが早くなってきている。
「もう時間いっぱいだ。ほんとに殺すしかない。スフォン・・・いいな?」
グニス様とスフォン様のやり取りに私は息を呑んだ。
スフォン様の顔を見ると、険しい顔で額から汗を流して、黒い化け物を見つめていた。
スフォン様はゆっくりと覚悟を決めるように「わかりました」と返事をした。
スフォン様の答えが、「レネリス様の死」という現実を
私の胸へ突き刺し、動けなくした。
その時だった。
スフォン様とグニス様がレネリス様を諦めるという意思を確認したとき、誰も気付いていなかった。
私達三人の死角をついた一撃が、グニス様の胸を貫く。
私とスフォン様は、その光景に釘付けになった。
グニス様は自分の胸に氷の刃が刺さったことすら、しばらく気付かなかった程に・・・。
グニス様は吐血を漏らすと、ゆっくり刃を抜き、目の前の怪物を凝視し続けた。
スフォン様と私はグニス様の元へ駆け寄り、傷を見ると致命傷だけは避けていた。
「お前ら・・今すぐにここの空間から逃げろ・・・数分なら時間を稼げる。」
グニス様は私達にすぐ指示を出したが、スフォン様は指示を無視し、レネリス様と対峙すべく駆け出した。
「私が時間を稼ぎます。グニス様をおねがいします」
私達が止める暇もなく、スフォン様は行ってしまった。
「ったく、あいつは・・・冷静のスフォンとも言われる奴が・・・心乱しやがって」
グニス様はスフォン様の背中を見た後、私に向き直った。
「なあ、お嬢さんよ。スフォンも俺も、レネリスに言われてるんだわ。
何かあったときは殺してくれってな。
だから、俺達はレネリスを殺すまで此処を離れられないんだわ」
グニス様は口から血を流しながら作り笑顔で私に言葉をかけた。
「だから、俺達は此処に残る。あんたは此処から逃げてくれねーか?」
グニス様の言葉には決意があった。
私は胸の奥から激しい怒りを感じた。
(逃げるって何よ・・・私は!絶対に逃げない!)
「嫌です。私は・・・治癒士です!怪我人をおいていけません!
だから怪我を治療させてください。」
そういうと、私はグニス様の傷を確認し、治癒魔法をかけた。
グニス様は私の顔をじっと見ると、もう何も言い返してこなかった。
私は治癒魔法に専念し、グニス様はいつでも対応できるように、動ける体勢のまま待機した。
スフォン様とレネリス様の戦いはスフォン様の仕草や動きをみて、
明らかに劣勢にたたされている事が素人の私でもわかった。
(私には治癒以外の力がない・・・何かこの場を乗り切る方法・・・)
私は出来る限り脳みそを回転させたが、自分の無力さに叩きのめされ顔を歪めた。
その時、何かが壁にぶつかる音がした。
私達は大きな音が鳴った方に向き直ると、スフォン様が横倒れになり、呼吸を荒くしていた。
スフォン様が壁に叩きつけられ、動けなくなった事を確認したレネリス様は
私達に狙いを定め突っ込んできた。
グニス様は私を庇うように立つと、大きな声をあげ、刀を握る拳に力を込める。
直後、目の前で激しいスパーク音が鳴り響く。
何が起こったのか前をみると、ミクリーとレネリス様が激しく衝突していた。
私達は衝突の爆風に飛ばされないように耐えるのに精一杯だった。
「こ、これは・・・・」
グニス様は目の前の光景に目を奪われていた。
私は目の前で起こる衝突にこう思った。私達はミクリーがこなければ間違いなく死んでいた事を。
すぐに頭を切り替え、壁に叩きつけられたスフォン様の所へ走った。
「スフォン様!大丈夫ですか!」
表情を見ると、命は取り留めているが、意識がない。
声をかけながら怪我の場所を確認すると、背中を強く打っていて、いくつか骨が折れている可能性があった。
ゆっくり引きずりながらグニス様の下へ連れて行くと、
怪我の箇所にすぐ治癒魔法をかけながらミクリーの様子をうかがった。
(ミクリーも・・・・もうボロボロ・・・)
私はミクリーの痛々しさに目から涙が溢れてきた。
グニス様は目の前で起こる衝突を見ていると、何かを思いついたように私に声をかけてきた。
「次が最後のチャンスだ。レネリスはあのちっこいのに目がいってる。
だから譲ちゃんは、ちっこいのに治癒をかけ、さらに注意をひいてくれ。
スフォンはもう動けないだろうからな・・・譲ちゃんだけが頼りだ。」
グニス様の必死さが胸に響く。皆を守ろうと必死なのだ。
私はこの作戦を聞いて、レネリス様を倒さないと、全員が確実に死ぬことを自覚した。
「レネリス様を助けることは・・・・」
「あきらめろ。もう無理だ。」
グニス様の言葉が私の胸の奥を締め付けた。
刀を手に取り動く準備をしたグニス様は私に目配せをすると、ゆっくり私から距離をとった。
グニス様との合図を終えた私は、目の前で戦うミクリーの側にかけよると、ミクリーの体は右腕は無くなり、
右目は削れて無くなって、壊れそうな程痛々しい姿になっていた。
(ミクリーごめんね。無茶させてごめんね・・・)
私の涙は止まらない。
すぐに治癒魔法をミクリーにかけると、レネリス様は私に目を向け、牙をむき出しにした。
今のレネリス様を見て、胸がチクリとした。
(レネリス様の顔すごく怖い。でもなんでだろう・・・レネリス様の辛そうな表情がみえる・・・・)
その時私の心の中に、どこからか声が響いてきた。
「結局自分の運命に逆らえなかった。人を食い、殺し、周りを不幸にしてきただけだ。
この運命の連鎖は止まらない・・・・・俺を・・・殺してくれ・・・・」
胸の中に響いた声が、レネリス様の声だと認識したのも束の間、レネリス様の背後には
グニス様が刀を持って突進してきた。
それに気付いたレネリス様は、グニス様の攻撃を避けようとしたが、意識を取り戻していたスフォン様に、
足を魔法で拘束され一瞬動きを止めた。
私の五感は未だかつてない程に、研ぎ澄まされ、
目まぐるしく動く光景を捉え、体はすでに動いていた。
レネリス様はまだ人間であると、まだ悪魔になんかなっていないと、
心と体が叫ぶように・・・・・・。
グニス様の刀はまっすぐレネリス様の心臓めがけて伸びていた
レネリス様をかばうように、一瞬にしてグニス様の前に立ちはだかる。
グニス様は突然現れた私に目を見開いた。
だが、剣の勢いは止まらない。
そして私の胸を刀が突き刺した。
一瞬みんなの動きが止まった。
私の胸を突き抜けた刀は、レネリス様に届く前にとまり、
私は吐血し、背中からは大量の赤い羽根が飛び散った。
「皆、まだ・・・レネリス・・・様は・・悪魔じゃ・・・ないよ」
私は震える体に力を篭め、声を振り絞った。
グニス様は何が起こったのかわからず、ゆっくり私の胸から刀を引き抜いた。
部屋の中は赤い羽根がちらちら舞っている。
その赤い羽根はレネリス様の体を覆う黒い煙と混ざって少しずつ消えていく。
私は傷口を手で押さえながら、ゆっくりレネリス様に振り向くと、
レネリス様の右手を両手で握り、顔を見る。
レネリス様の目には涙が溜まっていた。
「よか・・・・た」」
私はもう声がでなかった。口だけがゆっくり動き、
そしてゆっくりと膝から崩れ落ち、赤い羽根が宙に舞った。
ミクリーも同時に抜け殻になったように、崩れ落ち、動かなくなった。
部屋中に漂っていたどんよりとした空気は消え、ボロボロの部屋だけが、
ここで起こった事を物語っている。
レネリスは小刻みに震えながら、目の前で胸から血を流し、倒れている少女を凝視していた。
スフォンは、ラミレシアとレネリスが動きを止めた事を確認すると、
ゆっくりと足を引きずりながら、部屋を出て、廊下で助けをよんだ。
グニスは、ラミレシアを抱き起こし、息を確認すると、
止血をするために、部屋にあるタオルを探し出し、胸を押さえた。
グニスがラミレシアの胸傷の応急処置をしている姿をみて、レネリスは、叫び声と嗚咽を漏らし、
その場にしゃがみこみ、地面に伏すと、涙を流した。
それからすぐに、人が駆けつけ、
レネリスは封印の部屋へ、ラミレシアとスフォン、ミクリー、グニスは治療室へ運ばれた。
〜〜〜ゲニム陛下の一室〜〜〜
ゲニムは一人、部屋で悪態をついていた。
「くそくそくそ!!!レネリスが生きていただと!
あいつが死ななければ俺の時代はこない・・・・。
俺はこのままじゃただの飾りだ。」
ゲニムはテーブルの上に置いてあった、花瓶を壁に投げつけ、
そして椅子に座ると頭を抱えた。
「くふふ。ゲニム〜お怒り〜?」
部屋の中には誰もいないはずだが、どこからか笑い声が聞こえてきた。
ゲニムは部屋の片隅に小さな黒い影をみると、そこからゆっくりと少女が顔を出した。
「リンじゃないか。どうしたんだ?俺を助けにきてくれたのか?!」
ゲニムは嬉しそうに駆け寄ったが、リンの目が冷たく光っていた。
「そんなわけないじゃ〜ん。貴方はもう用済みだって言いに来たの〜。
貴方は結局マスターとの約束を破った。だからマスターは貴方との約束を破棄する事にしたの」
リンは飴を取り出すと、口に入れ妖艶な姿でテーブルの上に座った。
「約束を破ったわけじゃない。邪魔がはいったんだ。」
「言い訳する男は、見てて気持ち悪いです」
リンは目を細めてゲニムを嫌そうな目で見た。
ゲニムの額には汗が浮き出ていた。
「ねえ、私の頼み一つ聞いてくれたら、命は取らないであげる。
どうかな?」
ゲニムはゆっくりとうなずくと、リンは楽しそうに闇夜に浮かぶ月を見た。
〜〜〜治療室〜〜〜〜〜
スフォンは窓から入る朝日で目が覚めた。
「ここは・・・・どこだ・・」
ゆっくりと体を起こし、まわりを見回すと、グニスが隣のベットで眠っていた。
ベットから起き上がろうとすると、体中がきしむように痛みが走る。
この傷が、起きた事の事実を証明していた。
丁度とおりかかった人に声をかけると、驚いた表情で、慌てて駆け出していった。
それからすぐに、サクンがベットに走ってきた。
「隊長心配しましたよ!一体何があったんですか?レネリス様も総隊長もボロボロで・・・それに・・・
ラミレシア様は重症で・・・」
サクンは一気にまくし立てたが、起きたばかりで頭の整理がついていなかった。
「レネリス様はどうしてる?どんな状態だ?」
「レネリス様はいつも通り、お仕事なさってます」
「そ・・・そうか・・」
スフォンは安堵と共に、顎に手を置くと、考えにふけった。
そんなスフォンを見て、サクンは思い切って口にした。
「隊長、一昨日の晩、あの部屋で何が起こったんですか?
グニス様とスフォン様、それにラミレシア様までもが重症・・・、
何もなかったってことはないですよね?」
「今は何も話せない」
スフォンは窓の外を見るように、サクンから目を逸らした。
「サクンよ、それくらいにしといてやれ。まだ起きたばかりで、
質問攻めは体に応えるぜ?」
「も・・・申し訳ございません」
サクンは取り乱していたことに、素直に謝った。
いつの間にか起きていたグニスは、サクンを呼ぶと耳元で囁いた。
「ちょっとお願いがある。この部屋でスフォンと話があるから、
この部屋で二人だけにしてくれねーか?」
サクンは怪しい目でグニスを見たが、割り切った気持ちで了承した。
サクンは「わかりました」と言い、スフォンとグニスにお辞儀をすると、
すぐにその場を立ち去った。
グニスは周りに誰もいないことを感じ取ると、横に寝転びながら、
真面目な顔でスフォンに声をかけた。
「なあ、率直に聞くが、あのお譲さんは何者だ?
天使のかけらを持っているようだが、ただの天使のかけらじゃない」
スフォンは自分のベットの布団を握り締めながら、神妙な面持ちで口をつむいだ。
「私とレネリス様は、フリノア村で起こった事とリシア=ガーネット
の消息について、ラミレシア様が何か知っていると思い、動いていました。
なので、天使のかけらを持っているとは、まったく予想外でしたよ」
グニスとスフォンの頭には疑問が駆け巡っていた。
「じゃあ、あの妖精は何者だ?」
「ん?ああ、ミクリーの事ですね。あれは、
まったく検討がつきません。ミクリーはラミレシア様にとって守護者と捕らえるのが一番いいですね。
なのであんまり無理に引き剥がすと怖いですよ。」
結局二人はわからない事だらけということがわかっただけだった。
スフォンは窓から見える空を眺めながら口を開いた。
「フリノア村の一件は今カムイが調べてくれているかもしれません。
なので、グニス総隊長は早く怪我なおして、アーザブルクの方頼みます。
あっちも厄介事で大変ですよ」
聞いてか聞かずかグニスは、
話題を変えるように、後でラミレシアの部屋へ訪れることをスフォンに告げた。
スフォンは、呆れたように「ご一緒します」と告げた。
〜〜〜レネリスの部屋〜〜〜〜
レネリスは部屋で、兵士から報告を受けていた。
「わかった。シーリアスには現状維持で一部を除き撤退させろ。
それとジェニス3世に会談日延長の使者をだせ。日取りは後日と言ってな」
「わかりました」
レネリスはいつもと同じように、少し不機嫌な顔で兵士に指示をだし、
一礼をすると、逃げるように部屋からでていった。
部屋に一人になったレネリスは、窓から遠くの景色をみつめた。
「本当はあの兵士みたいに俺を恐がるはずなんだが・・・・。
俺に近寄る奴は、俺を利用する人間しかいない。
まあ、利用しようとして、火傷するけどな」
レネリスは一人事を言うと、一人部屋をでた。
〜〜〜〜ラミレシアの部屋〜〜〜〜
ルルカはベットで眠るラミレシアの横で、タオルの交換をしていた。
「ラミレシア様・・・・」
彼女を心配な眼差しで見つめてる。
「私が・・・部屋にいなかったばっかりに・・・・」
自分の無力さを感じ、涙が溢れてはこぼれる。
目を閉じれば、あの日の事を思い出す。
手を触ると、少し熱を帯びていた。
ラミレシアの横で眠るミクリーもまた深手を負い、いたるところに痣があった。
ミクリーを、赤ちゃんを抱くように、ベットから持ち上げ、腕と顔を確認すると、
千切れていた腕も、削れていた顔も、元に戻っていた。
ルルカは少し驚いたが、妖精はこんな感じなのかなと、自分で納得することにした。
ルルカに抱かれているミクリーは、身じろぎ一つしない。
ラミレシアとミクリーを見るたびに涙が溢れる。
その時、ドアをノックする音が鳴った。
「入ってもいいか?」
ドアごしだがレネリス様だとわかった。
「はい。開いてます」
すぐにミクリーをラミレシアの横に寝かせると、ベットの横に立ち、
レネリス王子を出迎えた。
部屋に入ってくると、ラミレシアを見つめ、ゆっくりとベットの横に立った。
ルルカはベットから離れ、すぐにテーブルの上にお茶の仕度をし、レネリス様に差し出すと、
レネリスは神妙な面持ちでルルカに視線を移した。
「少し席をはずしてもらえないか?」
「え・・・・で・・でも・・・・私はラミレシア様の側を離れたくありません」
ルルカはラミレシアの側を離れる事に恐怖を感じている。
レネリスはルルカに頭を下げた。
「頼む。俺は・・・何もしない。」
ルルカはレネリスの目を見て、じっと考えた末、「廊下でまっています。何かあれば呼んでください」
と告げると、重い足取りで部屋からでていった。
レネリスはベットの横に立ち、再度ラミレシアを見つめた。
「なんで俺を助けた?俺が生きていれば・・・また誰かが死ぬ。
お前は助けたことを後悔するぞ」
ベットで眠ってるラミレシアに言葉をかけるが返事はもちろんない。
レネリスはそれでも独り言をしゃべり続けた。
「俺は、両親を食い、近寄ってきた兵士も食った。
そして・・・親友をも食ったんだ。
俺の目は世界を救う為に、必要な目らしい。
笑えるだろ。どこが世界を救うんだって思うだろ。
人を傷つけるだけの道具だよ。
それをお前は救っちまった。
俺はお前を一生恨むぞ。それでも後悔しないか?」
レネリスは歯を食いしばり、眠る彼女を見た。
「話はそれだけだ。」
そう告げてレネリスがゆっくり向きを変えようとしたとき、
手を握られた。
振り返ると、ラミレシアはレネリスの手を握っていた。
「私は後悔しないよ」
ラミレシアは笑顔でレネリスを見ている。
「話どこから聞いてた?」
「レネリス様が部屋に入ってきたときに、起きたから、全部かな」
ラミレシアはレネリスの手を少し引っ張り、伝えたい思いがあるように力いっぱい握った。
「私は絶対後悔しない。だって貴方の命を助けたのは、私だけじゃないもの。
私の母はね、悪魔契約っていうのをしてまでも、貴方の命を繋ぎとめたのよ。
だから、母の命の一部は貴方の胸の中で生きずいてる。
母は言ってた。レネリス様は悪い人じゃないって。」
レネリスの手を握るラミレシアの手は暖かかった。
「もし、貴方が本当に悪い人なら、生かした私が責任を取るよ。
そんなこと絶対ないけどね。」
ラミレシアの言葉と、その力強い笑顔にレネリスは、見とれてしまい気を許していた。
とっさにラミレシアが強く手を引いたので、体が前のめりになると、
ラミレシアに抱きしめられていた。
「私気付いたの。私も人間じゃないみたい。だって、普通こんなに傷の治り早いわけない。
貴方は悪魔なんでしょ?私も悪魔かもしれない。
だったら、一緒にずっといようよ。私が貴方を止めてあげる」
レネリスの目から涙が溢れていた。
レネリスの中のこみ上げる思いが、涙を溢れさせた。
「お前は・・本当に・・・・ありがとう・・・」
「陛下に眠らされたとき、私を助けてくれてありがとう」
「知ってたのか。」
「ルルカに聞いたの。」
レネリスは「そうか」と小さく言うと、
ラミレシアもレネリスも少しだけ笑った。
ベットの上でいつの間にか起きていたミクリーもまた、
何か言おうとして悶絶し、転がっていた。
〜〜〜〜〜ラミレシアの部屋の前の廊下〜〜〜〜〜〜
スフォンとグニスはラミレシアの様子を見に行くと、
廊下でルルカが立っていた。
「おい、ルルカ。そこで何してるんだ?」
グニスが手を上げながら、ルルカに声をかけた。
ルルカが身振り手振りして、何かを伝えようとしているが何もわからない。
「一体なん・・・」
「静かにしてください。」
ルルカは口に手を当て、静かにのポーズを取った。
「一体全体、お前はここで何を・・・・」
ドアが少し開いていたので、覗いてみると、ラミレシアとレネリスが抱き合っていた。
「お・・・おい!こりゃなんだ!?何がどうなってんだ!」
「だから静かにしてくださいって言ってるじゃないですか!」
グニスとルルカは廊下で言い合っている。
スフォンは「元も子もないな」とボソリと言った。
ドアが急に開くと、そこに怒り心頭のレネリスが立っていた。
「お前らなにしてんだ!元気になったなら働けよ!
仕事溜まってるんだ」
レネリスは3人の横を通りすぎると、自分の部屋へ入っていった。
部屋の中を3人が覗くと、顔を真っ赤にしたラミレシアがベットに包まって、
身を隠した。
その行動が3人の変な妄想を掻き立てたのは言うまでもなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。
弟2部編に次回から突入します。
ぜひとも今後とも応援よろしくおねがいします