鉄槌が下るのを待つ汚れた存在
「バレなきゃ何やったっていいんだよ。人生なんて楽勝だ」
西嶋敦司は、そうせせら笑って、携帯を切った。
西嶋敦司に久々に同級生から電話があったのだ。百年に一度の不況と言われるなか、西嶋は就職を難なく勝ち取った。
「適当に話を合わせてりゃいいんだよ。そしたら奴らは、納得するんだから」
面接を担当した者は西嶋の思いつめた雰囲気を見て、それを寡黙であると評価したのだった。そんな理由であるとはつゆ知らず、自分の処世術に長けたことを同級生にひけらかしていた。
「みんな、どうなんだよ」
「ああ、パッとしないよ。地元就職組が殆どだな。義夫と、加奈と、美並は結婚したよ。子供もいる。高橋達、大学組は殆ど浪人だな。あと海外に行った奴がいるな、約一名」
「誰?」
「鎬花子」
「あいつが? へえ、どうにもならねえで死んだかと思ってたけど」
「青年海外協力隊で、国境無き医師団のサポートメンバーなんだってさ」
「凄いじゃん」
「まさかあんな小さな町から、そんな奴が出るなんてな。考えもしなかったよ」
「お前、相当いじめてたもんな。死ななくて良かったって思ってんじゃないの」
「いじめてねえし。そんなことするわけ無いだろ。人聞きの悪いことを言うんじゃないよ」
「あいつ、よく学校休んでたよな。お前に酷いことされて」
「証拠があんのか? 俺があいつをいじめてた証拠が。そんなもんどこにも無いだろ。だから俺はいじめなんてしてない。俺はあいつを教育してやっただけなんだよ」
「教育ってあれがかよ。。お前はいっつも殴りすぎなんだよ。呼吸止まっちゃうだろ」
「あと河童な」
「ああ、河童な。やったやった」
「ついに、認めたな」
「俺がやったのは顔を蹴っただけじゃないか」
「よく言うよ。何回も何回も河童っていってノートで殴ってたじゃないか」
「あいつ、湯気出てただろ頭から」
「そうそう、叩き過ぎて」
「河童がおるでっ」
「懐かしいな、でも今考えたらゾッとするな」「しょうがないじゃないか、あの頃俺たち子どもだったんだから」
「お湯かけたり、水かけたり、面白かったな。今思うとゾッとするけど」
「お前、田中の服を脱がせて、プールに蹴り落としただろう。パカヤロー、パカヤローって。あがってこようと必死になってる田中に顔面に蹴り入れて、あいつ失神してやんの」
「ああ、ゾッとする……」
「俺さ、大学で倫理社会の授業受けてて、ナチスだとか、哲学だとか、人権を勉強してるんだけど、お前完璧ヒットラーだよな」
「日本人はいいんだよ、やっても。テレビでやってたら真似するでしょ」
「まあな。それは仕方ないな」
「まあ、楽勝ってことだよ。余裕」
「俺たちが教育した奴は、海外か。感謝してもらわないとな。『西嶋君! あなたのおかげで人生切り開けたわ!』ってね」
そんな話をして西嶋は、電話を切ったのだった。