うしがえる
げろげろ、げろげろ、けろけろ、げ。
眠い目をこすり、うしがえるはあたりをみまわした。
けろけろ。
アマガエル、アマガエル、アマガエル……。
うしがえるは、茶色い体をゆらして、まっかな空のおとす、きれいな影の中にいる。
きたない赤に旋回する、黒い影ぼうし、カーァッと鳴いて、あの飛ぶカラスが帰るころ、カエルたちは合唱をはじめる。
うしがえるは、カラスの羽より黒い影から、空に大きく口を開けてみる。
ウォーッ ボゥォーッ。
カラスに声は届かない。
アマガエルは飛び跳ね飛び跳ね、背の高い草につかまった。
「泥の色の、そんななきごえのヤツ、ゲッ、ゲッ、ゲ」
目をつぶって思い切り舌をのばした。
イヤなヤツはおいしいのだ、とうしがえるは思った。
ウォーッ ボゥォーッ。
やっぱり、やっぱり。
おいしいけれども、ちっとも声はよくならない。
ケロケロ、ケロケロ。
探す声。恋人を呼ぶ声。
「あら、おっきな子ね。そんなになるには、どのくらいご飯を食べるのかしら」
鳴かないカエルは、メスガエル。
鳴き声をさがして、目当ての恋人をさがして、さがすカエル。
メスガエルは、オスよりも大きい。大きいと、いいのかな。
「大きいと、いいのだわ。卵を産んでも、死んじゃわないもの。あなたは、すてきね」
うしがえるは、うれしくなって目をつぶった。そうして優しく舌をのばした。
イイヤツもおいしいのだ、とうしがえるは味わった。
ウォーッ ボゥォーッ。
それでも、それでも。
おいしいけれども、ちっとも声はよくならない。
ケロケロ、ケロケロ、ケロケ。
跳ばないカエルなんて、いたんだな。うしがえるは不思議に思った。
カエルを咥えて、チョロリ、チョロリ。
「おまえは、カエルか」
ウォーッ ボゥォーッ。
「うわっ、これはちがうな。この声は、おれの子分じゃないか。こんなところに、隠れてどうしたんだ」
うしがえるは、子分ってなんだろう、と思った。
「おれさまだよ、ねずみさまだ。うしの子分は、三びきいるんだ。一ぴきどこかへ消えたと思ったら、こんなところにいたんだな」
ねずみ、なんていうカエルは初めてみた。
「しかし、ずいぶん小さくなったな。おれさまのいすになれるのか?」
うしがえるは、怒って目をつぶった。そうしてせいいっぱいせいいっぱい舌をのばした。
いてっ。
すばしこいやつは、口の中であばれる。ごっくん。ううう、おなかが痛い。
ヴォッ ヴォッ。
だめだ、だめだ。
おなかが痛くて、声がだせない。
ヴォッ ヴォッ。
ヴォーッ ヴォッ。
ケロケロ、ケ、声が止む。
がさごそ、ごそがさ、茂みを歩く。
「きみ、きみ、うるさいよ。食べちゃうぞ」
うしがえるは、自分よりおおきなカエルを見たことが無かったから、どかんと跳び上がった。
「わっ!」
おおきなカエルはひっくり返って、うごかない。
うごかないことを、「しんじゃった」というのは、うしがえるもよく知っている。
ケロケロ、ケロケロ、夜にひびく。
「うるさいなあ」
おおきなカエルは「しんじゃった」のに、起き上がった。
おおきなカエルは、うしがえるの顔をみて、胸をそらした。
「たぬきはね、生き返るんだよ」
びっくり仰天! そんなカエルは見たこと無い。
だから、目をつぶった。そうしてわくわくして舌をのばした。
「きたないなあ! きみ、はじめましてなのに、しつれいだよ」
たぬき、というカエルは、くしくし顔をこする。
「そんな子は、食べてあげません」
たぬきは怒って、帰っていった。
ウォーッ ボゥォーッ。
もどった、もどった。
食べてないのに、声がもどった。
ケロケロ、ケロケロ。
大合唱。
つきの光の、柔らかい影に、いっそうふかい影に、うしがえるは茶色い体をゆらしてゆらして。
風がびゅんと、駆け抜ける。
ホ、ホ、ホ。
無音が鳴る。無音。
「ずっとみてたけど」
うしがえるは、驚いて、ドカンと跳びあがった。
今日、また自分よりおおきなカエルがあらわれた。
「きみ、うしがえるだろ」
おおきなカエルは、空を飛ぶ。
「わたしはフクロウ、森のことは全部しっているよ。きみのことも」
くりくりの目は、カラスの黒。茶色い体を映している。
「きみをたべないよ、たべても、仕方ないからね。わたしも、ひとりぼっちだから」
うしがえるは、不思議に思う。
このカエルは何を言っているのだろう。
「ひとりぼっちは、寂しいよ」
ヴォッ ヴォッ。
ホ、ホ。
うしがえるも、しっている。
大きいカエルは、食べられない!
フクロウは無音を鳴らして月に消える。
ブォー ブォッ。
なんていい声!




