続・領域侵入の日
大爆発とともに宇宙が始まったとしたら、その空間は未来の領域ではなく、過去に通った場所に過ぎない。だが、その記憶を人類は持たない。
よって現代は新たな大航海時代の幕開けと呼んで差し支えないだろう。
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ある男はフリーランスの広告ライターだった。
とある代理店の依頼を受け、
客先の教会に関係した仕事をしていた時の事だ。
ある地方都市に頻繁に行き来するようになっていた。
そこに行くつど自分が奇妙なシナリオの中で動いている様な気になった。
駅を降りて階段を登るといつでも同じ女に出会う。
全身なんらかのブランドの黒のタイトなスーツを着てパンツは若干ベルボトム気味、髪はエクステで盛り盛り、肩からもブランドのバックを2つ下げ、必ずいつもスマホで誰かと話をしていた。
田舎街の雰囲気にそぐわず、
奇妙に殺伐とした印象があった。
そして、階段を登り国道沿いに
歩くといつも同じ、40代後半のスキンヘッドの男性サラリーマンがにこやかに自転車で全力疾走していく。
朝の会議に出席するため行くつど同じ時間とはいえ、行くたびに雰囲気の対照的なこの2人には必ず出会った。
学生時代もサラリーマン時代もいつも同じ時間の電車であったが、見知らぬ人がここまで目に付いたことはなかった。
そしてこの2人と連続して遭遇していると、何故か妙に次に別の何かが展開しそうな気がしてくる。
すると帰りに商店街を歩いているとなんと自分の従兄弟に遭遇した。
その後も前述の2名に遭遇し続け、一定の圧やテンションを感じると必ず次に何かが起きる。
ノートパソコンが急に壊れたり、帰りの電車の中で空いているとはいえ、膝上10cm程のスカートの女子高生が延々スマホで話をしているのに遭遇し、その内容も友人や学校の悪口ばかりで、「死ね」やら「クソ」やら朝遭遇する女以上に奇妙に殺伐とした雰囲気を漂わせている。
そうするとやはりしばらく後、妙な事が起きてくる。
出入りしていた教会がウェブサイトの運営の委託先を変更する際、前の業者から契約違反を指摘され、訴訟を起こすぞど脅されたのだ。
代理店が間に入り事なきを得たが男はやはり自分がなんらかの領域に侵入したぞと知らされて居るような気分になった。
それからも前述の2名には必ず行くつどに遭遇し続けた。
そして気分がざわついてくると
次の展開が起きる。
代理店の担当者が急に体調を崩し入院したのだ。
1ヶ月程で退院したものの、何故か以降ずっとマスクをつけて誰と会う時も、何処に行く時もそれを外す事はなかった。コロナより前の事だ。
そしてしばらく後に、幸いすぐに復旧したものの担当者のSNSアカウントがハックされたのだ。
奇妙な出来事の中、全ての仕事が終わり、男はその代理店に行く事もなくなり、前述の2人にも遭遇することはなくなった。
小さなイタリア料理店で打ち上げを終え、久しぶりにマスクを外した担当者の顔を見て「エクソダス」と男は呟いた。
確かにそう言うだけの奇妙な実感があった。
一部始終を雲の上から見ていた河童は特殊電波装置のスイッチをオフにした。
「世界はただの舞台装置の様なものに過ぎない。どうにでも演出できる。しかし、あんましやると世間にバレるからね。いや、もうめんどくさいから知られてもいいんだけどね。」




