領域侵入の日
物質界の全てに実態がないといえば実態がないのかもしれない。しかし、その人が存在し続ける間、周囲の環境全ては実態であるかの様に存在する。
ある実態が消えても別の実態がまた生起してくる。少なくともあと5億年は続く
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ある若い男が祇園祭りの屋台で店の番をしていたところ、見覚えのある男を見つけた。
学生時代の同期で共通して映画好きなのだがまったく趣味が合わず。
仲が悪いわけではないが、会うと気まずい関係だった。
名前は確か幡山といった。
しかし、見かけるのは3年ぶりくらいで何故こんな所でといった印象だった。
彼は別の屋台で何かを買っていたもののこちらの屋台には来ることなく、男に気づくことなく去って行った。
彼に気をとられていると、ほろ酔い加減の3人組の30代なかば程のサラリーマンが寄ってきては、男の屋台でクジを引き始めた。
3人組の1人が上機嫌でクジを引いている小太りで、眼鏡をかけたやや童顔の男を指さし、店番の男に話しかけた。
「コイツのあだ名はハリーポツ夫と言うんですよ。」
そういうとさも可笑しくてたまらないといった風にゲラゲラ笑い出した。
何度かクジを引いた後、当たりは出ることはなかったものの3人組は上機嫌で帰って行った。
店を閉め、夜遅くにホテルで休んでいると、男にある女友達から電話がかかってきた。
いつもはメールなのにこの日に限って珍しく電話だ。
内容を聞くと妊娠したという。
言われても何かピンとこない。
色々確認に聞き返すと返答が段々おかしくなってくる。
しまいにはお茶を濁すような感じで電話を切られた。
どうもなんだか、何かの確認にカマをかけてきたような感じだった。
おまけに別の屋台の番をしていた顔馴染みは売り上げを多少くすねたらしく。
翌日以降顔を合わせることはなかった。
その後は何も起きる事なく過ぎたが、初日の事は後々まで奇妙に男の印象に残った。
まるで何かの領域に立ち入った事を知らせるかの様に妙にひっかかる出来事が次々と起きた一日だった。




