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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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地球の磁場とソルフェジオ周波数

樋口宅から戻り、迎えた連休最終日の午後に加奈子が宏の家に来た。


「これあげる」


と加奈子は宏に小さな紙袋を渡した。


「うん?」


宏が手に取った袋から茶色い小箱をあけると中にはステンレス製の小さいピラミッド型のキーホルダーが入っていた。


キーホルダーのどの面にもエジプト風の不思議な文様が入っていた。


「ヒーリンググッズなの、地球そのものの磁場や大気中の電磁波を『ソルフェジオ周波数』っていう、癒しの周波数に変換するらしいのよ」


「ふーん」


宏は中の説明書きを見た。


「私も買ったのよ」


と言うと首のペンダントを見せてくれた。


「つけた周りの大気中の磁場をゼロに変換するペンダントらしいの」


加奈子はペンダントを取り外すと宏に渡した。

ペンダントは鏡面加工された二・五センチ程のシルバーの円形をしていた。


裏を返すと金色の箔の上に無数の銅線が渦巻き状にプリントされていた。

よく見ると左巻きと右巻きが一つの渦の中に組み込まれていた。


加奈子は


「その銅線に大気中の磁場を吸い寄せて、完全に磁場のない空間を作ってリラックス効果を出すらしいのよ」


と言った。


今度は宏が宙を見つめて何かを考える番だった。


加奈子は


「つけて三日目だけど疲れにくくなったわ」


と言った。


宏はペンダントを加奈子に返すと貰ったキーホルダーのリングを外して床に置いた。


説明書によると特殊な炭と左右両巻の銅線コイルが中に入っているようでそれで周波数を調整しているようだった。


そういう理屈ならリングを外して集める磁場の干渉を減らした方が効果は高そうだった。


「......」


宏は部屋の空気が何か変わったのか神経を

集中させてみたがよくわからなかった。


宏は加奈子に先日撮った怪しい家の電磁波を計測した動画を加奈子に見せた。


加奈子は首を傾げてそれを見ると


「よくわからない」と言った。


それから落ち着いた雰囲気で


「ちゃんと部屋片付けてるの?」


というと宏の部屋を掃除し始めた。

寝室からリビング、トイレに至るまで掃除した。


宏は急に眠たくなってきて寝た。


目を覚ますと加奈子は家中掃除し終わって

宏の部屋の黒のデスクチェアに座ると


「一昨日、母親が家の前で急に転んで骨折したのよ。救急車で病院に運ばれて二ヶ月ほど入院することになったの」


と言った。


宏は加奈子の母親を知らなかったが驚いて


「え?大丈夫なの?近くの病院?」と尋ねた。


「うん、近くは近くなんだけど、また色々持っていかないとダメなものがあって、またこれから病院に行くの」


と言った。


それから床に置かれたキーホルダーに目をやると「それどう?」と尋ねた。


宏は


「うーん、わかるようなわからないような、急に眠たくなったんだけど、それのリラックス効果のせいかな?」


と加奈子に尋ねた。


「うーん、しばらくしたらわかるかもね」


と加奈子は言うと


「そろそろ帰るね」


と言って上目に宏を見ると玄関を出て行った。


やがて階下から加奈子が車のエンジンをかける音が聞こえた。

車の音が遠ざかって行くのを聞きながら宏はさっきまで加奈子が座っていたチェアに座るとパソコンを開いて商品を検索した。


宏が貰ったものは、見た目こそファンシーで少し怪しげな雰囲気だったが、ニュージーランド製で安いものではなかった。


宏はそれをもって部屋の中で置き場所を変えたり、寝室に置いてリビングに行ってみたり、またベランダに置いて部屋に入ってみたり、ポケットに入れたり、体のあちこちに近づけてみた。


確かに何か雰囲気が変わった。

なんと表現していいかわからないが体の巡りというのが変わってじんわり体の温まる感じがした。


「地球の磁場とか電化製品、その他の電磁波を癒しの周波数に変換するか、ふーん、なるほどそんなものがあるのか」


宏は妙に感心した。


更にネットで検索すると『ソルフェジオ周波数』のBGMは動画投稿サイトにも沢山公開されていた。


宏は小さい音でそれを再生してみた。

また眠たくなってきた。試しにボリュームをゼロにしてみたが、理屈は不明なものの周波数そのものはそれでも発されているようで、色々見ているうちにまたうたた寝した。


-39-


また仕事が始まり、宏はそのキーホルダーをポケットに入れて持ち歩いた。


樋口からのテキストは多少の修正だけでOKとなり、後は社内でレイアウトを調整して印刷するだけとなった。

宏も樋口も安堵した。


宏はあれやこれや、キーホルダーの効果を検証してみた。

体感的な把握しかできないが確かに疲れにくくなった、特に車を運転した後の疲労感は明らかに軽減された。


恐らく運転席周辺に計器類が密集していたり、エンジンもそれなりの磁場を発するので、この辺りの電磁波が大幅に変換されているのだろうと思った。


しかし、そのキーホルダーは一方でどこかから別の電波を寄せてくるところもあった。


たまに体に張りを感じる事があって何かと思って注意してみると、凝りの溜まっている所に変な圧がかかるのだ、しかし、しばらくしたらそれは凝りごと消える。

すると宏の体は以前より軽くなるのだった。


妙な現象に宏は首を傾げた、どこかからの電波がこのキーホルダーの働きに違和感を持って、確認の為に強い電波を送ってきているようなのだが、それは宏にとってある種の磁界を体感化し可視化する事になり、結果としてデトックスになった。


何はともあれ、このメカニズムの為に宏は更に電波の発信元でありそうなマンションと民家を数軒発見した。


しかし、マンションはオートロックで近づきにくいし、民家にも特に近づかなかったそしてそれは特定の地域に集中があった。


八月の終わり頃、加奈子はまた宏の家に遊びにきた。


「二週間ですぐ散らかるのね」というと

また掃除すると加奈子は父親が鶴橋で買ってきたと肉を炒めるとカルビ丼を作った。


宏は「ありがとう、けど別にそこまでしてくれなくていいよ」というと



淡々としたまま


「まぁ、いいじゃない」


と言った。


宏は「母親は大丈夫?」と尋ねた。


加奈子は


「特にその後は大丈夫よ」と答えた。


「キミのくれたキーホルダーね。

確かに結構なヒーリング効果あるよ。

疲れにくくなるし、よく寝られるよ、地球にこんな磁場があって、それを応用したグッズがあるとは思わなかったよ」


「そうなの、よかったね」


「ただ飛び交ってる謎の変な電波も呼び寄せるんだ。体の凝りとか張りのある所が締め付けられるみたいになって、しばらくしたらそこの凝りも張りも消えるんだ」


「ふーん」


加奈子は不思議そうに少し笑うと目を細めた


「そんなこんなで、その電波の出どころらしい所を、もう何ヶ所か見つけたんだ」


「ふーん、でどうするの?」


「どうしたらいいと思う?」


「さぁ?」


「でね、その電波とともに傘帽子をかぶった男のイメージも送られて来るんだ」


「傘帽子って何?」


「朝鮮の伝統的な帽子だよ」


「なんなのそれ?」


「さぁ?」


加奈子が帰った後、宏はまた樋口にそれらの出来事を連絡した。


樋口からは


「自分の感じていること、友山から聞いた話と照らし合わせて整合性はとれるし、言いたい事はわかります」


と返信があった。


宏は


「あの樋口のマンション下の家だけ確かめられたらなぁ」


多分発信器はあると思う。


射程そのものはかなり広いと思うが、あの家から離れると電波はやはり減衰するのだ。


しかし、何か別の方法で人体から直接電波を発信していたとしたら即座に確認のしようがない。


あれこれ思案して、どう確認したらいいか方法が思い浮かばなかった。

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