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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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27/29

シナリオへのカンバセーション

おおよそ樋口からのテキストに目を通して宏はショートメッセージを打った。


「大体これでいいとは思いますが、社内で確認して少し修正をお願いするかも知れません」


それから宏は、窓の外を見た。

灼熱の夏の太陽が通りには照りつけていてビルも木々も白飛びしたように見える。


先程までのマリーの話のせいか気分がまた妙に昂っていた。

あの話を聞いていると思考がこれまでの回路と違う所に繋がって覚醒したようになるのだ。


暑さにも関わらず宏は何故か体を動かしたくなった。


樋口からの返信は早く、すぐに


「かしこまりました」


と返ってきた。


ここまで樋口からのレスポンスは驚くほど速い。

このテキストも本来は盆明けに受け取れればいいようなものだった。


また、「飲みに行こう」の誘いも非常に多かった。

多分、電波の件に関して話したい事が多いんだろうと思う。


「発信元らしき場所を見てほしい」みたいな話をしていたので、そっちの件なんだろう。


宏はしばらく考えて


「今日三宮に行こうと思いますが、バッティングセンターに行きませんか?」


とメッセージを送ると


「いいですね、三宮に着いたらまた連絡下さい」


と返信があった。


宏が店を出ると急に「キーン」という耳鳴りを感じた、聴力検査で耳にするような音だ。


違和感を感じて耳の奥に神経を集中した。

どこからか自分に向けられた電波の周波数が切り替えられているかの様な印象で


自分の体に異常があるかの様には感じなかった。


三十秒ほどで耳鳴りは収まった。


ふと、前を見るとマリーとよく似た人物が上下ジャージのラフな格好で犬の散歩をさせていた。

一瞬マリーがまた戻って来たのかと顔を上げて確認したが別人だった。


繁華街の真ん中には違和感のある光景だった。

犬はトイプードルで長い紐で連れられていた。

宏をみると「キャンキャン」吠えた。


犬と飼い主をそれぞれ振り返り宏は地下に降りた、地下鉄で梅田に出るとそのまま地上のJRで三ノ宮に向かった。


向かう途中のエスカレーターで学生の時の知人とよく似た人物を見かけた。


彼の髪型、服装、所持品全て同じで、年齢も宏より若そうだった。


宏の記憶の中にある人物が年月を経ず、そのまま目の前にタイムスリップして現れてきたかの様な印象を受けた。


宏は懐かしさからなんともいえない感傷を感じたが、これもまた何か自分に去来している感情がおかしいと思った。


宏は懐かしいことでもその様な感じ方はしない。過度にドラマチック過ぎるのだ。

やはりそれは自分のものではなくどこかから送り込まれている感情の様に感じた。


記号の連想のような状況にいくつか遭遇して宏はこれがマリーが起動させたシナリオかそれとも他の誰かが起動させたシナリオか考えた。


結局マリーから話を聞いた事により、より一段深く領域に侵入してしまったようだった。


* * *


大阪から神戸までは阪神、阪急、JRの三本があってそれぞれ車窓が違う。

一番外側の下町から工業地帯を走る阪神、真ん中の郊外を走るJR、山の手側を走る阪急といった形だ。


時間ならJRが一番速い。


宏はJRで窓の外を見ながら、西宮を抜けたあたりから芦屋位までは関東の郊外の景色に近いなと、ふと思った。

出張はまだあと四ヶ月半あった。


三ノ宮で降りると、駅前には樋口が居た。

「少し離れているけど、バッティングセンターがある」と、案内してくれた。


マンションと宅地の谷間にグリーンのネットに覆われたバッティングセンターがあった。


樋口は宏に


「偶然に共通した所が多いですね、自分もよく昔バッティングセンターに友達と来ていましたよ」


とエージェント園田の話をした。


宏は


「そういう人もいるんですね」


と返した。


同じ打席に樋口、宏と順番に入った。


二人ともそれなりに打てるのは百三十キロ位までで百四十キロになると極端に打率が下がった。


実際のピッチャーの様に腕の動きがみえないので百四十キロになると、音が聞こえた次の瞬間には手元をボールが通り抜けてるといった感じでタイミングが取りにくかった。


「こんなところですかね?家にいきましょう」


一時間少しばかりボールを打ち続けて、樋口は言った。


「ここがおかしいんです。」


樋口に案内され、バッティングセンターを後にマンションの近くまで着いた時、その脇にあった民家に差し掛かった時樋口は言った。


一見なんの変哲もない普通の民家だった。

庭のないその民家は奥行きが長く、両脇は駐車場と雑木のある空き地に挟まれていた。

空き地は無造作に木が裁断され、草がぼうぼうに生えていた。


「見ていて下さいね」


樋口はスマートフォンから「電磁波計測機」を立ち上げると民家の下の駐車場からコンクリートの柵ごしにその民家の脇を歩いた。


民家の中にある駐車場付近では数値は20ミリガウスほどだったが、リビングの脇と思わしき窓の前では120ミリガウス程まで上り、リビングを通り抜け、次の部屋の窓前に差し掛かると80まで下がり、一番奥まで行くと40まで下がった。


三往復ほどしてみたが大体同じ数値だった。


次に本物の計測機を使ってみたが低周波磁場は0.1から1.3までの間で触れた。

数値そのものは普通かも知れないが反応の仕方がおかしいように思えた。


特に目に付く電気設備もなかった。

樋口は「体に圧迫感がある、体の凝った部分が締め付けられるみたいだ」と言った。宏も同様の感覚があった。


家人は二人に気付いたようでゆっくりとリビンクのカーテンを閉めた。


それは不審者を警戒する締め方というよりかは何かを隠すような締め方で、二人はその後もそこにとどまり続けたが特に何か言われる事もなかった。


樋口に言われ、宏は計測の様子をスマートフォンで撮影した。


「行きましょうか?」


樋口に案内され、マンションに入り10階の樋口の部屋に入った。

オーソドックスなタイプのマンションだがベランダから神戸の海がよく見えた。


二人はベランダから先程の民家をしばらく眺めていた。


「なんかあると思うんだけどどうかな?」


樋口が尋ねると宏は


「そうですね。脇の空き地の荒れ方が気になりますね」


と言った。


「そうでしょう?」


付近は他にも民家が立ち並んでいたが、その家の周囲に限って空き地が多かった。

全くの更地もあった。


樋口は


「実はあの家から今と違う変な直線的な電波が三本が出ていた時があって。


何故分かるかというと、その前を通ると体感で感じるほどの圧が体の部分部分にかかるからなんですが、周囲を歩いたらそれが三本あって、その内の一本が斜め向かいの家に向かってたんですよ」


と言った。


宏は


「ええ」


と答えた。


「一週間ほど、それを感じ続けていたらその斜め向かいの家で電気系統の故障したようなボヤがあったのか、警察と消防がきていて、


それから程なくあの家の脇でバイク事故が起こり、その後は近くのカーブミラーも割れたんですよ」


「ええ」


「それだけ起きたらその電波は消えました」


「怪しいですね」


「これが私の中で知っているもっとも身近な電波の発信元ですね」


「で、どうします?」


樋口と宏は顔を見合わせた。


「近所の話だと、あの家はマルチに関わっているみたいで、話を聞かされた人がいるんですが、犬の散歩中とかに世間話をよくするようになったと思ったらそこから段々と美容とか健康の話にスライドしていって. . .」


「うーん。よく聞く話ですね。大体わかります。それはそうとどういう所から電波は出ているんですかね?」


「恐らく発信機みたいなものでしょう?

家のどこかにある」


「確認する方法はありますかね?」


「うーん」


核心には近づいているものの決定打がなかった。


-36-


とりとめのない話はなお続いた。

話はマイクロチップに移った。


樋口は


「最近は脳に埋め込んだマイクロチップから思考を文字起こしするといった研究も進んでいるみたいですね」


と言った。


宏は


「そうですね。しかし、要りますかねマイクロチップ?直接に電波で脳に繋いでもいいわけですよね?」


樋口は


「チップを使った方が可視化しやすいし、管理もしやすいでしょう。

チップを販売したり、埋め込んだりすることで新しい経済圏が産まれます。

そこが重要ですね」


「ええ」


「回り回ってあなたや私の仕事にも繋がります。儲かるかも知れませんよ、良かったですね」


「マンションの鍵も考えるだけで開く、風呂も冷暖房も考えるだけで沸かせるし、スイッチも入れられる」


「便利なサービスは無料か格安、個人情報は筒抜け」


「そうですね、それにこれからは誰も彼も思考まで丸裸ですね」


二人はそう言って自嘲気味に笑い始めた。


樋口は「少し外に出ましょうか、斜に構えずポジティブにいきましょう」と言った。


宏は「そうですね、ウェーバーのいう所の末人になりましょう。我々は人間性のかつてない高みに達した。信条のない享楽人です」


樋口は

「そうですね、何もかもシステムのオートポイエーシス(自己生産)です」


というとベランダから中に入り、二十時過ぎに再び三宮にでかけた。

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