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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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25/28

朱雀門前での偶然の遭遇

-30-


来客の少ない午後、休憩室のイスに座り、加奈子はぼんやりと考えていた。


宏が自分になんでもあけすけに話をしてくるのは自分の情緒のバランスを保つ為のものだと思っていた。


恐らく、気の利いた答えなど返さなくても適当に「ウンウン」言ってあしらっておけばそれで宏はいいんだろうと思った。


宏は色々言ってくるけれど決して「理解しろ」とは言ってこないのだ。


こんな話聞いてくれるだけで十分という態度なのだ。


それに加奈子が仕事から趣味から食事の嗜好まで、特徴はありながらもほぼ全てオーソドックスな範囲に収まっている事が何より重要らしかった。


その点で自分は宏にとって重要な存在に違いない。


というのも、麻莉を宏にあててみたものの、宏は麻莉に対して金銭抜きの関係にしようとする意思が全く見えない、何か一線を引いておきたそうな感じなのだ。


これは加奈子の経験上、今までなかった。


しかし、この先に踏み込むにはもう少し宏の真意というか覚悟みたいなものがわからないとどうにも踏み切れない。

自分を一体どうしたいのだろうか?

解決策は簡単だ。


その日の夜、加奈子は宏に電話して、開口一番に告げた。


「あのね、私、妊娠したみたい」


宏はしばらく沈黙した後


「誰の子?」


「......」


「そんな、三日でわかるの?

それにこっちはそこまでの事はしていないと思うけど」


「......」


「体調は、大丈夫なの?」


「...あ、うん大丈夫、なんか間違えたかも知れない」


「そう?」


宏は少し混乱していたが、徐々に加奈子の真意を悟ったようで、あまりそのあたりに触れようとしてこなかった。


しかし、態度を硬化させる事もなく、しばらく世間話をした後に電話を切った。


加奈子は何か煮詰まってくるまで、重たい関係を避けたいのだろうと解釈した。


確かに自分にとってもその方がいいような気がした。


-31-


マリーは宏が連絡して来ない事に少し焦りを感じていた。

やはり、もう少し生身の自分の話をした方がいいのかと思ったが気乗りしない、多少相手から見てミステリアスな所を置いておきたいのが本音だった。


色々思い巡らせながら大阪から戻る途中、夕暮れの平城宮跡歴史公園を通る電車の窓から朱雀門を眺め、あのあたりに宏を連れてこようと思った。


意識を集中して宏の視界に入ってみたが、まだ会社にいるようだ。


駅を降り、タクシーで公園前に行き、朱雀門前に着くと、マリーはシナリオイメージを考えた。

シナリオが長い時はスマートフォンのアプリケーションから入力するのだが、短い時は頭からイメージして、送信すればいい。


頭でイメージを纏めると、指を「パチン」と鳴らし起動させた。


これでしばらく待てば宏は「自分の意思」でそうしたと思ってここに来るはずだ。


その後、しばらく考えて駅を降りて踏切を渡ったところで無音の消防車とすれ違い、公園に入るところでパトカーとすれ違う様に設定し、この辺りでシナリオに気づくように指定した。


会う前に種明かしをしておくのだ。


空を確認すると朱色の夕焼けが綿の様に千切れた雲の向こうに浮かんでいる。

このままでもいいのだが、空のトーンを補正して、平安京の羅城門っぽいトーンに修正した。


その後マリーはしばらく考えた。

今自分が飛ばしたこの電波はどこから飛んできているのだろうかと、日頃使いながら発信元は自分でも把握できていなかった。


どこかの家に据え置かれた発信機から飛ばしているはずなのだが、いまいちわからない。


シナリオを起動する際、ニュースにもなるような大きな事を起こす権限は胴元だけに限られている。


マリーの母親のような末端のメンバーはこの様なニュースにならない些末な事象を起こすまでしか電波装置の使用は許可されていない。


マリーはこれを母親から教えてもらったのだが当の本人である母親は「扱いが難しい」といってほぼ使っていなかった。


何故ならシナリオは設定した所まで展開すると元の現実に戻る。

するとその後の展開は対象となった人達の裁量で進む。


それがどういう結果をもたらすか、やる方にもわからない。

起動させたシナリオの最終的な帰結がどうなるか事前に完全に想定できないのだ。


宏はその日定刻で仕事を終え、奈良駅に着いた。

ふと空を見ると朱色の夕暮れの太陽が綿を千切ったような雲の向こうに怪しく燃えていた。

しばらく見ていると強いデジャヴを感じた。


何故か非常に朱雀門に行きたくなった。


宏は一駅先で降りると、踏切を渡った。

目の前を一台の消防車が通り過ぎた。

一瞥したが、特に気にしなかった。


そのまましばらく歩いて公園に着いた。

入り口の手前でパトカーが通り過ぎた。

宏は少し驚いた。

空を見ると夕陽を受け、異様なほど朱色がかった雲が結構な速度で南から北に流れていた。


「またマリーが何かやってるな」


とその時思った。


広い芝生の中に通る舗装された道を朱雀門に向けて進んだ。

人影はまばらなものの、犬の散歩をさせる人、ジョギングする人、自転車で過ぎる人

色々な人が居た。


マリーは宏が来るまで公園内で在庫の山をどう捌くか考えていた。


いっそ、自分がスポンサーになってディストリビューターを募ろうかと考えた。


そういうものを作って、在庫を買い込ませた方が手っ取り早い、売れなかったら売れなかったで、ダメ出ししてさらにセールストークやら自己研鑽の教材を定期的に押し付ければいいし、セミナーにも誘導できる。一石二鳥だ。


何人かカモになりそうな人間を思い浮かべて、それぞれ幾ら位までなら押し付けられそうか考えた。


何人か思いついたが、すぐに潰れそうな者ばかりだった。

宏と加奈子が使い物になるかどうかも考えたがあまりいいアイデアには思えなかった。


販売は手間がかかるだけで行き詰まっている訳ではない、当面このままやるのがいいようだ。


そうこう考えているうちに朱雀門前に宏が来た。


宏はマリーを見ると


「あれ、こんなところで」と言った。


マリーは


「あれ?偶然ですね」と返した。


「いや、夕陽があまりに綺麗なんでもっと広いところに行きたいと思って」


「そうですか、私もたまたま通りがかって少し考え事をしていました。

その後、加奈子とはどうですか?」


「前に燈花会に行きましたよ、浮見堂の周りは特に良かったですよ。マリーさんも行ったらどうですか、SNSの更新に使えそうな写真、いくらでも撮れそうですよ」


「そうですねぇ...」


「それから、加奈子から昨日夜に電話があってなんか妊娠したとかいってました」


「妊娠?」


「ええ、そんな三日で妊娠しますか?

なんか勘違いみたいでしたけど」


マリーは「あぁ」といった顔をすると


「それは加奈子のいつものパターンです。

何かあるとそういって相手の真意を確かめようとするのです。

これまで、何回もそういう事がありました。

なので宏さんはあまり気にしなくても大丈夫です」


「そうですか」


と返すとマリーの座る横の石段に腰掛けた。


「前に撮ったSNSの写真はどうでしたか」


と宏が尋ねるとマリーは


「評判はまずまずでした。色々アポが取れたので今度また何人かと打ち合わせします」


と答えた。


宏はなんの打ち合わせかよくわからなかったが「それは良かったですね」と答えた。


「人に会うのが私の仕事ですから」


とマリーは答えた。

宏にはもはやマリーの本業がなんなのかよくわからなくなっていた。


少し沈黙した後、宏はスマートフォンから「電磁波計測機」立ち上げ、周囲を測定しはじめた。


マリーの周りにも近づけ特に腕のタトゥーのある辺りには何度も近づけた。

だいたい15から20ミリガウスの間で期待したような数値の変化は見られなかった。


「何をしているんですか?」


マリーは尋ねた。


宏は


「電波の強度を調べてるんです」


と答えた。


「この辺りは電波悪いんですか?」


とマリーは自分のスマートフォンを見た。


「特に問題なさそうですが」


というと宏は


「僕のだけかも知れません」


とはぐらかした。


それから完全に日が暮れて辺りは真っ暗になった。


生暖かい夜風が穏やかに吹く中、宏とマリーは別れて別々の方向に帰った。


宏はまた公園を出る所で消防車に、駅前では救急車に遭遇した。

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