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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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急に呼び出された燈花会

宏は気を取り直してからマリーに尋ねた。


「さっきの話の続きだけど、あるネットワークの繋がりが、別のネットワーク組織の排除を目論んだってこと?」


マリーはグラスを持ったまま顔を上げると宏を向き答えた。


「そうです。あるネットワークの繋がりが、自分達のネットワークの拡大を狙ってシナリオを起動させました、随分前から練られていたものです」


宏は少し考えた。


「マルチだな」


と思った。


マリーは


「しかし、シナリオは領域侵入者に対しても反応するので、宏さんの様な人に対してもその様な不可解な現象が起きるのです。


恐らくは宏さんだけでなく、他にもそれなりの数の人が、似たような経験をしたはずです。


特定の現実の出来事が記号的に感じられて、連鎖して不穏ないら立ちを感じはじめて、しばらく後、事態が起きる」


宏は宙を見ながら考えた。


ふと後を向くと加奈子はソファで寝込んでいた。


宏は続けて


「あなたはなにか関係あるの?」


と尋ねた。


マリーは


「私は母親の手伝いをしているだけで、母親も色々押し付けられてるだけなので、関係はないですね。色々な話から想像できるだけです」


と答えた。


しかし、マリーは頭の中に聞こえてくる声を確認するかの様に時折宙を見ていた。


宏は立ち上がるとまた店の外に出た。


夜とはいえ、空調の外に出るとムッとした生暖かい夏の空気が宏を包んだ。


宏はしばらく混乱した頭を整理した。


また、店に戻るとカウンターに座り、普通の話をしようとマリーに尋ねた。


「最近はリユースショップはどんな感じですか?」


マリーは


「だいたい前に言った通りですよ、最近休みがちなんですけどね」


と答えた。


それからしばらく、宏を眺めると


「フフフ、宏さん私に興味津々ですね」


と微笑んだ。


宏は父親について聞こうか迷ったがやめておいた。


マリーはグラスを空けてしまうとカウンターに置いた。


宏もすっかり酔ってしまっていたのでソファに行くと寝転んだ。


「もう、今から帰れないんで泊まりますよ」


というとマリーは


「どうぞ」といった。


加奈子は完全に熟睡していた。


翌朝、始発からマンションに戻ると、宏はそこから出社した。


「広告を担当してもらう人がいるから」


と上司に言われ、ミーティングルームに行くと男が座っていた。


三十代後半位のポロシャツにスラックスを履き、髪をセンターパートにした少し精悍そうな中肉中背の男は


「樋口です」と名乗った。


宏もまた自己紹介すると広告の説明を始めた。


「システムバスの広告で、主にポスティングチラシに使う予定です」


というと写真を何枚か見せた。


「ここに使うキャッチコピーと利用する人が感想を述べる様な形で、製品の特徴を織り込んで、だいたい五百文字から一千文字で文章を考えて欲しいんですが」


と宏は依頼した。


樋口は写真と資料に目を通すと


「わかりました。一回作ってみます」


と答えた。


やり取りは比較的あっさり終わってしまった。


宏は樋口に自分に近い匂いを感じたので


「会社の施設の方に来てもらったら実際のものを利用してもらえます。入浴剤もありますよ」


とニヤっと笑っていうと、

同じように樋口はニヤっと笑い返し


「快適そうですね。一回入ってみようかな、そのまま寝込んでしまいそうだ」


と言った。


宏は施設の電話番号を伝えて


「いつでも予約の電話をして下さい」


と言った。


樋口は緊張していた態度を少し崩して


「わかりました」


と答えた。二人はしばらく歓談した。


樋口が去った後、宏は客先に工事の進捗状況を見に出かけた。


行き先の途中で交通事故があり、宏の運転する社用車は前後を挟まれ身動きがとれなくなった。


焼ける様なアスファルトに立ち、前方の様子を確認した。空にカラスが群れていた、宏は「やれやれまたマリーの仕業だ」と思いつつ、電波の発信元はどこか考えながら客先に詫びの電話を入れた。


一時間ほど遅れたものの無事に客先に着いた。工事は順調だった。


そこからまた一時間ほど談笑し、会社に戻る途中に加奈子からまたショートメッセージが届いていた。


内容は


「今日、燈花会(とうかえ)に行くから来ない?」


といったものだった。


宏は


「仕事が終わって時間があったら行く」


と返した。


宏は会社に戻るとまた何軒か電話をかけて、営業用の資料を作った。


特に仕事は問題なく終わり、宏は加奈子に連絡を入れると奈良公園に向かった。


猿沢池で加奈子に会った。

辺りは無数のキャンドルが灯り、興福寺の五重の塔が水面に映し出されていた。


影絵の様な景色の中歩きだし、浮見堂に向かった。


宏は


「この時間は東大寺に入れないね」


というと加奈子は


「最終日なら入れるんだけど、今日はムリね、ま、いいじゃない、いつでも行けるし」


と答えた。


「平日中の方が空いてるしね」


「二日酔いとかない?」


「あぁ、大丈夫だよキミは?」


「私は大丈夫よ、麻莉の所に泊まるのは久しぶりだった」


キャンドルの灯る階段を登り、鳥居を抜けると古木と竹林が広がり、その一面にもまた数え切れないほどのキャンドルが立ち並び、光が揺らいでいた。


それら無数のキャンドルの中を歩きながら加奈子は所々で足を止め、シャッターを切っていた。


平坦な高台をその様な調子で歩きながらしばらく進むと、暗い下り坂にさしかかる、下ってしまうと鷺池(さぎいけ)にでる。


無数のキャンドルと共に浮見堂がライトアップされ、実に幻想的な風景だ。


池には舟も浮かび灯火を点けている。


2人は列の中、橋を渡り、浮見堂に立った。水面を渡ってくる風は涼しく、池の周りの無数の灯籠の灯りの向こうに先程通ってきた道の無数のキャンドルの灯りが見える。


水面にもまた数え切れないほどの灯りが映りこんでいる。

2人はしばらく言葉を飲んでその光景を眺めていた。


それからまた加奈子は写真を撮り始めた。

宏もスマートフォンから何枚か撮影した。


また橋を渡り池の端をしばらくゆっくり歩き回って、元きた道を戻った。


帰りに目についた焼き鳥屋に入った。


引き戸を開け暖簾をくぐり、木の匂いのする店に入り、木のテーブルの席に座りあれこれ注文すると


「良かったね」


と言い合い、キャンドルの余韻の中で宏はチーズのついた地鶏の串を食べながら


「このあたりは地鶏とネギはコクがあって美味い」


と言った。


加奈子はキョトンとした顔で


「珍しく奈良を褒めるのね、逆になんか説得力あるわ」


と言った。


宏は「地酒もいい」と言った。


「今日昼間、広告関係で面白い人が来てね」


と宏は樋口の話をした。


「神戸の人でね。打ち合わせは上手く行ったんだけど、打ち解けてくると、街中の電磁波をあちこち測ってるって話をするんだ」


加奈子は「ふーん」と言った。


「スマートフォンから簡単に測れるらしいよ、低周波磁場だけらしいけど、普通の計測器の百倍位の感度と数値で計測できるらしいんだ」


「そうなの」


「僕も測ってみようかな」


「やってみれば」


「キミは?」


「あんま、興味ないな」


「そう」


言い終わると宏はスマートフォンから「電磁波測定器」のアプリを立ち上げると加奈子に見せた、数値は50ミリガウスから70ミリガウスでランダムに振れていた、


それから宏は背後の壁周辺にスマートフォンを向けると数値は80ミリガウス前後で落ち着いた。


それを加奈子に見せてからテーブルの真ん中に持ってくると45ミリガウス位まで下がった。


「クックック」と宏は笑い始めた。


加奈子は


「何が可笑しいの?変な人」


と言った。


「これでマリーの周りも測ってみようか?腕にマイクロチップ入れてたらどうしようか?」


「『そこまで私に興味あるんですか?』って言われるんじゃない?好きにしたら」


加奈子は少し困惑したような言い方をした。


宏は


「キミとマリーは複雑な関係らしいね」


と言った。


加奈子は肩をモソっとさせ、少し赤面した。


宏と加奈子の間には、何の宣言もなされていなかった。

意図的に二人ともそれを避けていた。

余り変な空気にもしたくなかったので宏もまた普通の話をした。


「燈花会も吉野と一緒でかなり撮り溜めてるんじゃないの?」


「そうね」


「たまに写真展みたいな所に出すけどね」


「SNSは?」


「うーん、投稿しないこともないけど、管理がなかなか」


「そうなの」


「うん、まぁね」


二人は、何種類かあった地酒の飲み比べセットを全部飲み干すとどちらからともなく「そろそろ帰ろうか」といい店を後にした。

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