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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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23/29

橿原で聴こえたオオカミの遠吠え

スナックは木目調の店内にカウンターが六つあり、年期の入った黒の皮のソファとテーブルが三つあった。


真っ暗な店に入りマリーは電気をつけた。暖色系のライトが店内を照らし長年染み付いたタバコの匂いが薄くかすかに匂った。


しばらく店で宏とマリーは二人っきりになった。


カウンターに宏が座るとマリーは内側から宏に


「加奈子はどうでしたか?」


と尋ねた。


宏は


「どうもこうも、腰が痛くて、ま、治まりましたが」


と答えた。


マリーは笑いながら


「そうですか、あの子はよその人、県外から来た人が好きで、あの手この手で捕まえては自慢したいのか、よく私に会わせるんです。


私はたいてい自分の客にしてしまって、最後は三人よくわからない関係になって男性が疲れて離れていくのです。

あなたもきっとそうなります。」


「ま、半年で終わりそうですね。神奈川に帰りますから、加奈子もあなたも」


「フフフ、いいますね。迷宮は深いかも知れませんよ」


「加奈子遅いな」


そういうと宏は様子を見に店を出た。


少し離れた場所に夕陽に照らされた橿原神宮の雑木林が見えた。


橿原神宮は創建は明治期とあたらしいが神武天皇を祀っていて由来は古い、宏は何度か行ったことがある。


しかし、あの鬱蒼とした雑木林は宏にとってどうも不穏な印象を与える、何かを祀っているというよりかはあの木々の下に何かを大きな磁場を封印しているような印象を受けるのだ。


しかし、そういう印象を受ける根拠は特に何もない。


宏は雑木林を眺めながら、それが何かを考えていた。


再び、宏の頭にワンピースのマリーのイメージがよぎった。

また以前の気分の高揚感を伴っていた。

何か催促されて、感情も操作されているようだ。


しばらくそれがつづくとまた鋭い目つきで睨むモノトーンの河童のイメージが浮かぶ。


宏は店に戻りつつ思った。


昼前に国道沿いでたまたま会ったのも、偶然ではなく、自分の思考をモニタして居場所を知った上で、たまたま通りがかった形にしているんだろうと。


カウンターに座ると、改めてマリーに尋ねた。


「大和西大寺駅前の事件で、あなた何か知ってる事はあるの?

あの少し前からおかしな事が一杯あってね。

記号の連想みたいに全部繋がってね。

その後はあなたに近寄ると妙なイメージが頭に浮かぶんだスライドショーみたいに」


マリーは少しキョトキョトしながら


「それはですね。何らかの縄張り争いの過程で誰かが起動させたシナリオかも知れませんね」


「どういうこと?」


マリーは再びインカムからの音声を確認する様な表情をした。

それから少し神経質そうに考えた。


「縄張り争いと、領域侵入の警告を一緒くたにしてシナリオを起動させたんじゃないかと思いますよ」


「どういうこと?」


「ま、そういう事です。」


宏は追加で質問しようと思ったが、何をどう尋ねたらいいか分からなくなって黙り込んだ。


マリーはチヂミとビールを宏の前に置いた。


宏はしばらく怪訝そうな表情でチヂミを眺めていた。


ドアが開き、鈴が当たり「カランカラン」と音がして加奈子がやってきた。


「遅くなってごめん、ちょっと片付けものをしてて」


と言った。


加奈子は勝手にカウンターに入りカルピスチューハイ作ると席に戻り飲み始めた。


燈花会(とうかえ)始まったね」


「麻莉は行くの?」


「うーん、忙しくて時間がないかも」


燈花会とはキャンドルイベントだ。

毎年八月前半に数万本のキャンドルが奈良公園の中で灯され、幻想的な光を放つ。


「宏くんは?」


「さぁ、どうかな?久しぶりに東大寺は行ってみたいけどね。」


「前に通ったじゃない?」


「中まで行ってないよ」


「そうだね」


会話が途切れてくると、宏はニヤつきながら切り出した。


「橿原神宮は不吉だな、何か封じ込めてるみたいな感じがするよ」


加奈子はまた宙を見ながら考えた。


「別に普通なんじゃないの?初詣とか行くよ、七五三もあそこだったし」


と長年見慣れた神社について考えながら答えた。


とりとめなく話は遅くまで続いた。


マリーはキッチンに腰をもたれて少しのライムとミントをたっぷり入れたモヒートを飲みながら、昼間の写真や動画を編集して投稿しながら二人の会話を聞いていた。


唐突に宏の耳にオオカミの遠吠えが聞こえた気がした。

宏は我に返ってマリーを振り返った。


マリーはスマートフォンの画面を見つめたまま特に顔は上げなかった。

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