胡散臭い民家〜電波の発信元の特定
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樋口と友山は二軒目の店を出た。坂を下りながら友山は樋口に
「まぁ、そんなすぐ帰るっていうな、正直に行こう」
というと、樋口の肩を叩くと、通りに立っているガールズバーのキャッチの女に声をかけた。
「キミ、どこの店?」
デニムミニのスカートにサンダルを履き、腹部がややのぞく丈の、胸元を強調したタイトな白のTシャツを着た二十歳ほどの女は、ハイトーンのブロンドをなびかせ、愛想よく振り向くと
ややしゃがれた声で
「この近く、あっち」
と路地裏の方を指した。
友山は
「いつもこの辺でキャッチしてるの?」
と尋ねると女は
「いっつもこの辺でやってるよ、今日は暑くない?」
と返した。
妹ヤンキー感漂うこの女としばらく友山は話すと、セット料金の交渉をしていた。
その間、樋口はメッセンジャーアプリの着信に返信していた。
画面から目を上げると、どこかで見たような女が目の前を通り過ぎた。
ブランドの黒スーツにブランドのバッグ2つ、盛りすぎたゴールドブラウンの髪、女は坂を下ると「コツコツ」とヒールの音をたて路地裏の方へ消えて行った。
「あれ、前に奈良で見かけた人じゃ?」
特徴的な出で立ちなので見間違いもなさそうだ。
樋口がその方向を見上げるとホテル街のネオン看板が光っていた。
樋口に今日の夜は一際深く感じられたが、以前の様な不穏さやシグナルの様な雰囲気はなかった。
「行こうか」
と友山は樋口を振り返った。
樋口は友山の勢いに驚きつつ「あぁ」と彼のテンポに合わせて歩き始めた。
路地裏の細い雑居ビルの二階に上がると、青い照明にカウンターは六席ほどの店だった。
一人先客が居て、カウンターにはこの女と同じ様な雰囲気のキャストがもう一人居た。
酒類の置かれたバックバーは鏡張りになっていて左端に「BAR」と書かれたピンクのネオンボードがあった。
背もたれのない高いイスに座ると樋口と友山はモスコミュールを頼んだ。
先程の女はカウンターに入ると「アリサです」と名乗り
「私も頼んでいいですか?」
というとファジーネーブルを頼んだ。
友山はアリサに
「キミは酒に強いの?」
と尋ねた。
アリサは
「まぁまぁ、ですかねぇ」
と答えると手慣れた様子でカクテルを作ると二人の前に出した。
友山はアリサに
「キミ、歳いくつ?」と尋ねると
「二十歳です」と返ってきた。
友山は鼻に手を当て、無精ヒゲをこすると
「いいね、若いね」
と返してから樋口の方を向いた。
樋口が
「学生?フリーター?」
と尋ねると、一流大の名前が返ってきて少し驚いた。
友山が樋口の方を向くと唐突に
「お前、電波に関してなんか見つけたろ?」
と聞いてきた。
樋口は驚いた。
友山は目を細めると
「なんか、いいたくないから誤魔化してるだろ?」
とストレートに聞いてきた。
友山はなかなか鋭かった。
樋口はこんなところで長くなりそうな話を振らずにアリサと喋ってればいいのにと思いながら
「強い電波の出ている家を何軒か見つけた」
と答えた。
友山は
「どういうこと?」
と質問した。
樋口はスマートフォンから「電磁波測定器」のアプリを開いた。
「家でも外でも、電波の届かない所はない、これはその強さを測るアプリだ」
「うん」
「コンパス用の磁気センサーを使ってるから本物の計測器の100倍位の数値が出るんだけど、逆にいえばすごく敏感だ。
このアプリで計測すると住宅街だったら20ミリガウス位が平均だな、30位まではあるけれど。
街中になるとこれが20から100位になる」
「うん」
「街中は室外機やら車やら電線、その他色んな機械類が動いてるんで数値はどうしても高くなるんだ。
100を遥かに超える事も珍しくない、磁力の強い所も数値は大きくなる。
ただ極端に高くなる所は見回せば原因になるような設備はだいたい目に付く」
友山も同じアプリをダウンロードした。
店のなかは50ミリガウスで計測された。
友山は
「電波も電磁波なんだな?」
と尋ねてきた。
樋口は
「そうだ」
と答えた。
「スマートフォンも電磁波が出てるんじゃないか?これはあてになるのか?」
「スマートフォン自体は10から12くらいの電磁波をだしてるな。
アプリで検出できるのは低周波磁場だけだな、地球本体の磁場、電力設備、家電製品、電車、車とかだ。ま、なんらかの異常を検出するには、十分だよ」
「そうか?」
「で、宅地の中なんか歩いている時に測るとさっき言った通りだいたい平均の20前後なんだけど、たまに高い時は周囲を見れば理由がわかる、室外機とか、なんらかのモーター、電気設備とかあるからね。」
「うん」
「だけどホントにたまにだけど周りに100から140計測する所があって、たいてい普通の民家なんだ。近くまで行くんだけど、特定の一室から出てるよ」
「そうか」
「で、驚く事に、計測してるとその数値がどんどん下がってくんだ、最初140だったものが一気に20位まで下がるんだ」
「ふん、そんな普通の家に近づいてお前何も言われないのか?」
「あぁ、窓の脇まで行っても何も言われないな、ただ数値が下がるだけだ。
たまに電波の来る方向が急に変わるんだ。部屋から出てたものがなんか急に自分の背後からくるんだ。
数値が下がるんで後を向いて、測るとまた高い数値になったりな、なんか計測されるのを避けてるみたいな感じなんだ。
それに、そういう家に近づくと体の圧が上がって体の凝ってる場所が、締め付けられるみたいな感じになるんだ」
「ん?なんだそれは?」
そういうと友山はアリサの方を向きしばらく考えていた。
アリサは友山の方を向き、少しはにかんでグラスを拭いていた。
それから友山は振り返ると
「その家はマルチだな」
と言った。




