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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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18/28

鷲家口のニホンオオカミ〜やるせない動物園

-26-


「吉野って日本で一番最後にニホンオオカミが目撃された場所だよね?」


宏は言った。


加奈子は「そうなの?」と返した。


鷲家口わしかぐちって所らしい。1905年に地元の猟師が捕獲したもので、アメリカの調査隊が買取って、今も剥製が大英博物館にあるらしいよ。」


「ここから少し離れてるわね」


「日本のオオカミはニホンオオカミとエゾオオカミの二種類が居たんだけれどどっちも絶滅したんだ。


明治時代に北海道で牧場が作られて畜産が推奨されてた時に牛や馬を襲うエゾオオカミは懸賞金がかけられて駆除の対象になったんだ。


牧場経営が広がる中で更に鹿の肉にストリキニーネって毒を仕込んでばら撒いたりして警戒心の強い個体もこれでやられたりね。」


「ふーん」


「更に豪雪で餌のエゾジカが減って、鹿も人間が乱獲していたからエゾオオカミは食べるものがなくなって、益々家畜を襲うようになって、これの対策で益々駆除が強化されて絶滅したらしい。


本土から持ち込まれた犬から狂犬病やジステンパーが広がってそれも影響したんじゃないかっていわれてるね」


「そう」


「北海道の生態系の頂点に君臨して、数千頭は居たんじゃないかと言われているけど1890年代後半にわずか二十年足らずで居なくなった。」


加奈子はまたミルクキャラメルを宏にわたした。宏は暑さで柔らかくなったキャラメルをガムのようにクチャクチャ噛んだ。


宏は


「ニホンオオカミはエゾオオカミより小さかったし、全国に居たんだけれど、江戸時代に狂犬病がオオカミの間で流行って、凶暴化して人やら家畜を襲う様になって、それまでの山の神の使いと言ったイメージから害獣といったものにイメージが変わってしまった。」


と言った。

加奈子はうなずいた。


「で、各地の藩が懸賞金をかけて駆除を勧めた、吉野でもね。

で、明治時代に山林の開発が進むと、人間の乱獲もあって、餌となるイノシシや鹿が激減して更に里に降りて、家畜を襲う事が増えて、更に駆除される様になった。


加えて外来の犬からジステンパーが広がって、これも打撃になった。

1905年にこのあたりで猟師に仕留められた個体が記録されてる最後のニホンオオカミらしい」


「ふーん」


「ニホンオオカミは記録によると、遠野なんかでは絶滅前に群狼があったんじゃないかとかいわれてるよ。

絶滅したとされているけど、山犬なんかと交雑して今でも完全には途絶えてないんじゃないかとも言われてるけどね。」


「そうなんだ」


と加奈子は興味深そうに頷いた。


宏は


「けどね。どっちのオオカミも剥製は残ってるんだよ、その内のクローンで復活させられるかも知れない。そういう研究もしてるところはあるみたいだけどね」


「そう」


「オオカミに限らず、モアとかナウマンゾウとかティラノザウルスもトリケラトプスもクローンで復元できるかもね。

そしたらこのあたりもそれ集めて絶滅動物園とか作ればいいよね。町おこしに」


「なんか、ものすごいやるせなさの漂った動物園になりそうね、あんま楽しめそうにない感じがするわ、ニホンオオカミを見たと思ったら次にトリケラトプスがでてきて、その次にモアとかエゾオオカミがでてくるんでしょう?」


「うーん、カオティックな動物園になりそうだ」


二人は暑くて、疲れてきたので付近の店に入った。

民家の一階部分が飲食店でレストランや喫茶店というよりかはお茶屋といった方がいいような雰囲気だった。


山肌にせり出した奥のテラスは人が多かったので中ほどの席に座った。


年期の入った石畳の店内のこれまた年期の入った茶色い木のテーブルの席に座り、柿の葉寿司と吉野の葛餅を頼んだ。


宏は透明な葛餅を食べながら


「もっと黒蜜をだくだくにかけてほしい」


といった。


加奈子は窓の外から付近の山並みを眺め、黙っていた。


二人とも特に話す事がなくなり、たいした会話のないまま、淡々と時間が流れた。


店を後に金峯山寺の銅の鳥居(かねのとりい)まで行き、引き返す事にした。

日本三大鳥居の一つで東大寺の大仏建立時に余った銅を使ったという言い伝えがある。

現在のものは室町時代に再建されたものだ。


帰りはロープウェイで降りた。

周囲の山並みの中を進むロープウェイは移動手段というよりかは遊園地のアトラクションの様だった。


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