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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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16/28

2軒目で回想されたエージェント園田

-24-


フリーの仕事というのはとにかく自分から

外に出ないとついつい閉じこもりがちになる。


友山はとにかく昼間、自宅で根を詰めてライティングしているせいか、一つの店でじっとしているのが苦手だ。樋口もそれはよくわかる。


一時間少しで店を出て、付近のバーに移動した。雑居ビルの三階の窓側の席に座ると、駅前がよく見えた。横断歩道は多くの人が行き交っていた。


重たい方向に話が進んでしまったので、ジントニックを飲みながら、樋口は園田との明るかった学生時代の話をした。


「とにかく、ほんとよくウチに来ててな、酒を飲むんだけど、なんでもコーラで割るんだ。ブランデーでも、ウイスキーでも」


友山は笑いながらうなずいた。


「で、最初はそんなのなんだけど、しまいにはビールでも、日本酒でも、梅酒、焼酎でも、濁り酒でも、なんでもコーラで割るんだよ。

俺達はそれを『エックスオンザビーチ』って呼んでたんだ。


園田は調理師の彼女が奈良の奥の方のクソ田舎に転勤になってから性格が変わってしまったみたいで、仲がギクシャクしてて、よく愚痴ってたんだ、テンションが少しヤケ気味の躁状態だったんだ、そんなだからノリで『エックスオンザビーチ』を菓子パンにも浸してよく食べてたんだ。


メロンパンとかクロワッサンとかアンパン、ジャムパン、クリームパンとかにな」


友山はうなずいた。


「で、ある時、越乃寒梅で『エックスオンザビーチ』を作ったんだ、そしたら何というかコーラの味も日本酒の味もそのままするんだ。


越乃寒梅は辛いし、濃いから、でそれを厚切りトーストに浸して、その上からはちみつとアイスクリームをのっけてはちみつトーストを作ったんだ。


色んな味がぶつかりあったり、調和するすごく複雑なはちみつトーストができたんだ。


まるでインドのスイーツみたいだから俺達はそれを『ネオインディア』って命名してたまに作ってたんだ。そんなに量は食えるものでもないけど」


友山はソルティドッグを飲みながらうなずいた。


「で、近所に『ローラーコースター』っていうバーがあって、そこに持ち込んでレギュラーメニューにしろって言ってたんだ、テーブルが八席で、ほぼマスターの内輪の客ばっかだったから


でその店は客をネタに笑いをとるのが当たり前みたいな店だったんだ、場が盛り上がったら、辛さ百倍カレーとか、ハバネロつけ過ぎなピザとか出してきて『挑戦する人』とかやっててな、そういう場で『ネオインディア』を作って出してもらってたんだ。

思いの他ウケは良かったよ」


友山は


「園田と彼女はどうなった?」


と尋ねた。


樋口は


「結局別れたよ」


と答えた。


「俺も一回会ったけど、気質が全然違うんだ。

懐かしい話だ、園田はもういないし、その彼女も今どうしてるかわからない。

店もなくなった。店の閉店は傑作だったよ。


最後、マスターが客に向かって


『キミ達がもっと来てたらこんな事にならずにすんだんだよ、気の向いた時しか来ないとかふざけてるのか?今後は気持をあらためて、来月から毎月十五日にキミ達のこの店に対する気持ちをここに振り込むよう』


って自分の銀行口座書いたカードを客全員に配ってたよ」


友山は笑いながら


「羨ましい、俺もクライアントに言ってみたいな、仕事を少し減らしたいんだ。


お前らいつになったらこっちが頼んだ資料だせるんだ。お前らは何をやるのもこんな調子か?ちんたらちんたら手待ちばっかさせやがって、客だと思って図に乗るな」ってな。


樋口も笑いながら


「もう二十一時だけど、三軒目は一人で行ってくれな」


と答えた。

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