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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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15/29

領域の侵入者:エージェント園田

-23-


樋口は元町方面での取材と打ち合わせを終え、夕方頃に三ノ宮に戻っていたところ、仕事仲間の友山から連絡が入った。


「近況の情報交換をしながら食事でもしよう」というメッセージだった。


高架の電車を見上げながら、信号が変わるのを待ちつつ、折り返しに電話を入れると友山は「暑いからスタミナのあるものを食べたい」という。


樋口は「暑いから冷たいものが食べたい」と答え、韓国料理に落ち着いた。


樋口が店の名前を友山に告げると「探して行くから先に行っておいてくれ」と樋口に告げた。


樋口は坂を少し登った。

空調の効いた店に入り冷麺を注文した。

程なく友山が到着しビビンバを注文した。


コンクリートを打ちっぱなしただけの照明を絞った店内は数組の客が談笑し、天井からはシーリングファンの三枚の羽根が何個か回っていた。


ビールを飲みながら樋口は尋ねた。


「最近どんな仕事が多い?」


友山は


「観光かな?紙もウェブも」


樋口は


「こっちも同じ様な感じかな、他、情報商材のセールスレターとか、健康食品のセールスレターも多いな」


しばらく話をしていて樋口は

特定の人間に会うとスパムメールが増えるという話をした。


「うーんなんかよくわからないんだけど、セールスレター系の人間に会うと一時的にスパムメールが増えるような気がするんだ。会社相手だとそういう事はないんだけど」


友山は目を細めると


「自分も同じ経験があるけど、多分そいつはマルチだろう、別でネットワーク系の仕事をしていて、探りをいれてるんだよ」といった。


樋口は


「そうなのか?」


と聞き返した。


友山は


「商談それ自体が相手の領域に入った事になるんだ。やっぱどうしても収益の仕組みまで説明しないとダメな事になるからね。


それになんか裏があることをほのめかすような話し方をするだろう?」


樋口はうなずいた。


「ただその裏が何かわからない、大きなもののようにいうけど、組織的なものでもないし、政治的なものでもない、なんかもやっとしてる」


「あぁ」


樋口が返すと友山は


「ネットワークだ、国内から海外の驚くような所まで繋がっている。多分、各分野、各界の」


と答えた。


樋口は


「なにもなくても世界は『六次の隔たり』だよ。自分から六人先までの繋がりで世界中全員繋がる」


しばらくその話を続けていて、友山はスパムメールにも特に変なものがあると言った。


「なんかね。内容や言い回しが飛躍してるというか狂ってるんだ。


マッチングアプリなら


『これで誰でも誘拐できます』


検索エンジン解析ソフトなら


『これで、検索エンジンのシステムをハッキングできます』


みたいなまるで読み手が犯罪でも考えてるような言い回しなんだ」


樋口は


「なんか見たことあるな、それ、メールの書き出しが


『誠実さが服を着て歩いているような紳士の皆様への朗報』


とかいう言い回しで始まるんだ、日本語おかしいよな、なんか、中国人かな?


中国人が書いたみたいなスパムは文面がおかしいからすぐわかるんだけど、それと少し違うな、韓国?」


友山は運ばれてきたビビンバに手をつけながら


「中国ではないな」というとニヤっと笑って「今度は鶴橋に焼き肉を食いに行きたいな」と言った。


樋口は一瞬、友山の顔をじっと見返してから


「それもいいな」と答えて


「昔、仲のよかった友人が、マルチを始めて、俺の所にきては


『樋口、お前、夢はあるか?目標はあるか世界で行ってみたい所はあるか?』


とかいちいち聞いて来るんだ。

なんかな普通と違うんだよな、暗示にかけてくるみたいな話し方なんだ。


で、すごくなんか、飛躍するんだ話が、それでなんかオーストラリアのどっかの山登って、朝日が感動的だなんだ、先住民のアボリジニの長老の話がどうのこうのみたいな話しになって、


そこでどっかのロッジ借りて、料理作って、片付ける時にものすごくよく落ちる洗剤があって、今日持ってきたから買って使って欲しいみたいな話しになって勧めて来るんだ、でかい時計つけてな」


友山は笑いながらうなずいていた。


「で、その時は買ったんだけど、それからは会うたびに健康器具だとか、洗剤、シャンプーにサプリメントを持ってきては、


こちらを思考停止にしようと、壮大な夢や成功体験の話をするんだ。洗脳するみたいに。

で、話を聞くのに疲れてきたらいつの間にかセールストークに変わるんだ。

もの凄い人生の成功者みたいな顔してな。


他の友だちにもそんな感じだ、園田って名前なんだけど、みんな『エージェント園田』っていって連絡が来たら恐れおののいてたよ。」


「それで?」と友山は聞いた。


「以降あまり、連絡をとらなくなったな、なんか関係が変わるんだよな。


いきなり髪もツーブロックになるし、外車に乗るようになって、しまいにはスーツ着て遊びに来るようになるんだ。


で『この後すごい人に会えるんだ』


とかいいだして、


『だけどな、その前におまえに会いたいと思ってな、何故ならおまえは親友だからな』


とか色々言ってくるんだ。

最初よくわからないからこいつにとって俺がそんな大事なのかと、機嫌よくなってるところに自己啓発まがいのセールストークが始まるんだ。


で、夜になっても帰らない。

この後すごい人に会うんじゃないのかって尋ねたくなったよ。


学生の頃は一緒にバッティングセンターに行ったり、昼間から家でビール飲みながら、くだらない話をしてたような奴がだよ、ある日突然そんな感じになるんだ、気味が悪いよ」


友山は「その後どうなった?」と樋口に尋ねた。


樋口は


「あんま売れないから胴元から


『おまえの話には魅力が足りない、もっと研鑽しろ』


って、自己啓発の教材をさらに買わされるんだ。それも毎月


で、マルチはやっぱダメだったみたいで、借金をかかえたまま足洗って、スポーツ用品の仕入れとか、販売先の開拓とかやってたな、それもニッチなシューズのソールとか、なんか入浴時にいれたら体が暖まるとかいう変な球体とか、色々だ」


友山はビールを飲みながらうなずいた。


「で、俺もその時色々相談に乗ったんだけど、結局あんま変わらないんだ、仕入れ先からあれやこれら押し付けられて、借金も更に嵩んで厳しそうだったな、俺に色んなグッズを紹介しては


『これは売れる、これは売れる』


って、なんか自分に言い聞かせてるみたいで以前の勢いはなくなってたよ。」


樋口はそう言い、酸っぱい冷麺の汁をすすりながら


「で、ある日、死んだ、事故か自殺かわからない、柵のない駅のホームからフラフラっと転落して、特急の窓に激突して跳ね飛ばされて、八メートル程の高架の下まで頭から転落して、


下の道路でワゴンに跳ねられ、対向車線まで弾き飛ばされた上をコンテナ積んだトレーラーが二台通過した。


火を通す前のハンバーグ状態だよ。

通行人は食肉積んだトラックから荷が散らばったと最初思ったらしい。」


と続けた。


「テレビのニュースでも小さく取り上げられてな、名前を見てびっくりしたよ。知ってるか?」


友山は「知らない」と答えた。


「借金やらトラブルやらで首が回らなくなって精神的に滅入っていたらしいのは間違いないんだけど、事故の一週間くらい前に電話がかかってきて


『なんか着信があったみたいで折り返したけど、なんの用だった?』


とか言うんだ。連絡もしてないのに、しばらく話をしてたんだけど憔悴してて話が噛み合わないんだ。」


友山がうなずくと樋口は


「で、後からそいつのSNS見たら確かに色々悩んでいるみたいな書き込みが続いてて、

最後は奥さんが更新していて黒い飼い猫の写真をアップしてたよ。


『猫と私は今日も元気です』


みたいな書き込みで終わってるんだ。」


樋口は続けて


「葬儀には呼ばれなかったんで、後から手向けにそいつの最後に住んでた場所に行ったんだけど、鬱蒼とした神社のすぐそばで着くなり雪が降り出すんだ。


次の日の朝まで降り続いて、少し積もったな」


話しながらふと「黒ネコ」と「神社」「積雪」という、三つの引っかかる場面があることに樋口は気付いた。


アイツはなにか領域に侵入していたんだなと樋口は考えた。


友山は尋ねた。


「そういえば、急に話は変わるけど、おまえは電波がどうこうみたいな話してなかったか?」


樋口は


「今調べてるけど、確実な事はまだなんともいえない、わかったらまた話す」


と答えた。

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