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悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

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10/29

マリーはシロノワールを食べながら

写真を撮ったり、辺りを散策しているうちに夕暮れが近くなり、陽も落ちてきたので車に戻り帰ることにした。


「仕事は何をしているんですか?」


帰りの車中、宏はマリーに尋ねてみた。


「ブランドショップの店員です。リユースの」


その後、マリーは宏を振り返ると「フフフ」と含みのある笑みを浮かべ。


「私みたいなの興味ありますか?正直に」


そういうと名刺の様なカードを渡してきた。

また腕から薔薇とコブラのタトゥーが見えた。


カード表面には星空を背景に浮かぶ、つけまつげをつけ、カラーコンタクトを入れたプロビデンスの目がコミック調に描かれ、さらに目には大量の星が浮かび上がっている。


そしてそのイラストの下には白抜きで「メデューサ」とだけ明朝体で印刷され、その下の白の角丸の余白スペースにはピンクのペンで電話番号が手書きで書かれている。


裏側はタロットカードの「吊るされた男」になっていて、同じ画調でマリーとおぼしき人物が男の首にロープをかけ引っ張っているイラストが加筆されている。


マリーは


「私、ダブルワークしてるんですよ。金曜だけ」


というとまた「フフフ」と笑うと少し高い声であやすように挑発的な声で


「もっと他の場所のタトゥーも見てみたいですか?いつでも呼んでくださいね」


と言った。


直後マフラーのうるさいバイクが一行の車の横を猛スピードで走り抜けた。


カードは受け取るのも断るのもどちらも困惑したが断れず一応受け取っておいた。


マリーはもう一度こちらを見ると、念押しするように「正直に」といった。

宏は不穏な気分になるとともに腹の下がもっさり重くなった。


その後、マリーに宏から話しかけるたび、同じ様な会話がループし、マフラーが唸りを上げるバイクがそのつど車の横を暴走し、宏の手許には何枚も同じカードが溜まっていった。


帰途、法隆寺で喫茶店に入ったマリーは本当に満足そうにシロノワールを食べ、豆菓子はバッグにしまいこんだ。


加奈子はアイスミルク、宏はアイスコーヒーを飲んだ。


その後奈良市内に戻り行基像の前で散会した。


その日曜の夜、宏はマンションの駐輪場の屋根に何か小さな生き物が落下したようなゴンという音を聞いた。


翌朝みるとキズのあるスズメが駐輪場の前で死んでいた。


空を見るとカラスが何羽か飛び回っていた。

出勤を急ぎ、そのまま駅に向かうとカラカラに干からびた猫のフンが歩道の真ん中にあった。


その週は毎朝非常にカラスを多く見かけた週だった。


また無音でランプを明滅させながら走る消防車も三回みかけた。


見る数字全て語呂合わせのようにも見えた。


1932 一休さんに

4581 よこばい

2602 風呂鬼


意味が通れば通らない語呂合わせもある。


宏はその週、日が進むに連れ焦燥感に駆られた。

しかし、焦燥の原因がイマイチ分からない。


金曜の朝には歩道の欄干にカラスが急降下してきて接触しそうになった。


思わず足を停めると、欄干にとまったカラスの羽ばたく羽の風が宏の顔にブワッと当たった。


* * *


その日、広告ライターの男は取材で神戸の居留地を訪れていた。


とても暑い日だった。

昼にカフェに入り、ケバブサンドにシロップを目一杯注いだシナモンチャイを飲みながら、スマホでニュースを確認すると、近鉄大和西大寺駅前の事件を伝えていた。


動画を開くと見慣れた駅前のターミナルが上空から映し出されていた。


男は非常に重苦しい気分になった。

そして直感的に思った。

誰かが領域に侵入した。

それもかなり深くまで、結果、領域はこちら側の世界にまでせり出して来たのだと。


* * *


その日の夜、宏は奇妙な夢を見た


夢の中では河童が朝から弓ヶ淵に潜っていて、昼過ぎに陸に上がると、付近の岩に腰を掛けこう呟いていた。

「ダメだここからも見つからない。」

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