【中編】
定時のはずが終業チャイムは遠い。
「急ぎの資料、今日中な」
部長ボイスに空調の風音がハモる。
残業承認ボタンを押す指が「カチッ」じゃなく「ガチャン」と手錠の音に聞こえた。
22時。退社、駅へ猛ダッシュ。
改札――またタッチエラー。
駅員に問いかけられる前に声張る。
「チャージ不足ッスよね! はい! 分かってます!」
チャージ機で千円紙幣が戻る「ピロッ」。
ホームに上がると発車ベルが涙声みたいに「ポロロ…」。
電車の揺れは疲労をシェイクし、昼に食えなかったコンビニおにぎりが内臓でローリング。
彼女の姿はない。既読もない。
乗り換え駅で事件発生。
(うわ、ケータイない!!)
書類と一緒に職場ロッカーへ置き忘れた。
「終電まで30分」
掲示板のLED数字がカウントダウン。
会社へ逆走、裏通用口イン。
警備員が苦笑い。「また忘れ物?」
拳を胸にドン。
「ハイ! もう呪いっす!」
闇のロッカー室。棚に放置スマホ発見。
画面点灯、通知1。
彼女『今日は友達と飲みー! 返信いらんで!』
空笑い。
(はぁ……俺だけ深刻モードかい)
バッテリー残12%。ケーブルはオフィス。
電車あと10分。走る。
倉庫ドア「ガタガタ」、階段「ダダダ」。
足音がヒップホップのビート。
駅到着と同時に終電ドア閉まる「プシュー」。
「……ウソやろ」
まばらなホームで呟く。
選択肢、的外れ三択(タクシー/ネカフェ/徒歩)。
財布はチャージで空。
スマホ残5%。
画面が暗転→再点灯。
彼女『電車逃した(笑) ネカフェ泊まるわー』
怒りと脱力がグラデーション。
叫ぶ。
「ふざけんなぁぁぁ!」
夜風が返事「ヒュオォ」。
(中編 了)