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突然のお通夜

 今日はなかなかに気の滅入る日です……。

 私は季実子(きみこ)と申します。こう見えても某有名企業の営業部で課長職なぞを務めております。……まあ仕事一直線で気が付いたら四十路を過ぎても独り身でございます。後悔はしておりません! ……多分。


 容姿? 私が女だからってそんなこと聞いちゃいます? 男でも聞きますって? ……まあそうですね。私でも気になるかもしれません。いえカッコいいかどうかっていうより、どんな感じの人かなっていうのは気になるではないですか。優しそうかなとか、クールな感じかなとか……。あれ、話がそれました。


 私……容姿はそこそこだと思っております。並程度ではないでしょうか……。それと私生活では割と雑な服装ですが、お仕事の時は概ねコンサバ系? で纏めておりますし、一応男性とお付き合いしたこともございますが、どうも私は仕事優先で動いてしまいがちらしく、男の人達はそういうのは我慢できないらしいのですね。ふむうん?


 そんな私ですが先にも申しました通り、本日は少々落ち込んでおります……。私がこの部署に配属されて以来、ずっと尊敬しておりました部長の亜沙子(あさこ)さんが突然亡くなってしまわれ、今は亜沙子さんのご自宅にお通夜に向かっているところなのです。


 亜沙子さんはものすごく優秀、かつエネルギッシュな方で、部下の面倒見もいい、まさに理想の上司でございました。そして亜沙子さんもご結婚はされていないとのことだったので、私も付き合っていた男性から別れ話を切り出されてもそれほどショックに感じないで済んだのです。だって亜沙子さんだってお一人だし、と。


 そんな亜沙子さんが亡くなってしまわれました。道路に飛び出したお子さんを庇ってのことだったそうです。そのお子さんは軽いけがで済んだとか。私は亜沙子さんらしいと思いました。そんな亜沙子さんが大好きだったのですから……。


 私はお通夜に出席する会社代表のうちの一人に立候補いたしました。他にも参加したがった人もおりましたし、亜沙子さんにたくさんお世話になったはずなのに興味を示さない人もおりました。まあ人の死の悼み方はそれぞれかも知れませんから、その辺りはあまり深く考えないでおきましょう。


 私は会社から教えてもらった亜沙子さんのご自宅の最寄り駅までやって参りました。思っていたよりも会社から遠く、特急電車でも一時間くらいかかりました。どうも亜沙子さんは新幹線で通っていたようです。一か月の定期代はどのくらいだったのでしょう? そんなお話しまで、さすが亜沙子さんと思ってしまいます。


 駅から亜沙子さんのご自宅までも、少しですが距離がございました。歩いて二十分ほどでしょうか。こじんまりとした商店街を抜けて昔ながららしい家々が並ぶ小道をしばらく歩いて、ちょっとした林を抜けたところに、突然場違いにも感じるような外塀が小道の片側に続くようになりました。

「まさか……」

 私は独り言ちてしまいます。


 私の「まさか」は、すぐにその通りだということがわかりました。外塀の門にまで差し掛かると、お通夜の大きな花輪が見えたからです。私は大きな門構えと花輪に少々圧倒されましたが、何となく亜沙子さんに対して抱いていたイメージに合っているようにも感じられましたので、そのまま門をくぐって敷地内へ入りました。


 門から入って正面に見える大きな建物の手前に記帳台が置いてあり、その向こうに立っているきれいな顔立ちをした中学生くらいの少年が私に記帳するよう求めて参りました。

「会社の方ですね? こちらにご記帳くださいますようお願いいたします」


「この度はご愁傷……」

 私はここへきて感情が溢れてきてしまい、きちんとご挨拶の言葉を言えませんでした。泣き出さないように掌で口を抑えているのが精一杯でした。その少年は少し寂しそうな笑顔を浮かべて言います。

「お名前は……ああ、あなたが季実子さんでいらっしゃる。あなたのお話しは、は……亜沙子より聞いておりました。どうぞ中へお入りください。会社の他の方もお見えです」

 少年は年齢に不相応なしっかりしたもの言いをいたしました。私は動揺していたせいか、その不自然さには気が付きませんでした。


「季実子さん! こっちですよ!」

 私より若手の会社の同僚の女の子が、私を見つけて手を振ってくれていました。私は慌てて涙を拭いつつそちらへ歩いて行きます。

「道、すぐにわかりました? それにしても驚きましたよ……亜沙子部長ってお金持ちだったんですね。まあ雰囲気ありましたけど」

 その女の子は知っている顔を見て安心したらしく、ほっとしたようにお喋りを始めました。私は女の子に同情しつつ、とてもお喋りに付き合う気分ではなかったので、正直少々閉口しておりました。


 その女の子が、ふいに入り口の方へ目を向けて言います。

「あ、啓介部長も来た」

 亜沙子さんのライバルとも目されておりました、やり手の部長職の方でした。会社ではあまり話したことがなかったので、どう話しかけてよいものかとも思いましたが、向こうから話しかけてくれました。

「君らは亜沙子ちゃんの部下の人達だね。亜沙子ちゃんのことは本当に残念だった。とても有能な人だったのに……。会社にはとても大きな損失だよ」


 会社で亜沙子さんのことを「ちゃん付け」で呼べる人は少ないだろうと思います。私は少し興味が出てたので聞いてみました。

「啓介部長は亜沙子さんとは……?」

「同期でね。昔はよく一緒に飲みに行ったりもしてたんだよ。僕の結婚式にも来てくれたんだ」

 啓介部長は少し寂しそうに笑って、そんなことを仰いました。


 少しするとお坊さんが来て、お通夜が始まりました。式は粛々と進みます。私は初めこそ何かにつけて込み上げてくる涙を(こら)えるのに苦労していたのですが、お焼香が始まる頃には少し落ち着いてきて、亜沙子さんのご家族らしい人たちの様子をぼんやりと眺めておりました。


 不思議に思いましたのは、亜沙子さんのご両親やそのご兄弟らしいお年寄りの姿が見えなかったことです。亜沙子さんは私より少し年上ですから、ご両親がご健在なら相当なお年のはずです。ご両親が他界されているにしても、そのご兄弟のお姿も見えないのは少々奇異に見えました。

 亜沙子さんのご家族らしい人と言えば、私より少し若いくらいの女性が二人と、その女性たちと同じ年代くらいの男性が六~七人、それに記帳台のところにいた少年と、彼より年下らしい幾人かの少年少女たちが十数人と言ったところでした。

「……?」


 私の目にはそうした光景が少々変わって見えはしましたが、それでも他所様(よそさま)、それも亜沙子さんのご家庭の事情ではありましたし、気にしないようにしておりました。お葬式に出席している人は多くなかったので、じきに私たち会社関係者がお焼香する番になりました。


 お辞儀をして手を合わせて、お焼香をして、またお辞儀をして……。私はまた溢れてくる涙を堪えるのに苦労することになりました。ああ亜沙子さん……。私はあなたのいない会社で、何をよりどころに働けばよいのでしょう……。


「この度はお忙しいところをお出でいただきまして、誠にありがとうございます。亜沙子も草葉の陰で喜んでいることと存じます。ささやかではございますが、お食事の用意がございますので、お時間のある方は隣室においてください」


 六~七人いる男性のうち、一番年長らしい方がお通夜の締めくくりのご挨拶をなさいました。私はこれ以上ここにいたら泣き出してしまいそうでしたので、同僚の女の子と啓介部長にお詫びして一足先に帰宅することにいたしました。お葬式は亡くなった方の為というより、残された人たちが亡くなった方を偲ぶために行うのだと聞いたことがありますが、私の心はお通夜が終わってもなかなか落ち着いてくれませんでした。


「はあ……」

 建物を出て息を吐き、そのままゆっくりと深呼吸をしてみました。少し落ち着いたので、少なくとも自宅に帰りつくまでは泣き出したりはしないで済みそうです。そうしてゆっくりと門へ向かって歩き出しましたところ、後ろから声を掛けられました。


「あの……季実子さんでいらっしゃいますよね?」

 そう言って私を呼び止めましたのは、記帳台のところにいた、あの少年でした。外はかなり暗くなっていましたが、顔立ちのきれいなその少年は、まるで少年そのものが光を放っているかのようにすら見えました。

「はい。私は季実子ですけれど……。申し訳ございません。折角のお食事ですが、とても喉を通りそうもございませんので、これで失礼させていただこうと……」


 私は振舞いに出席しないことを咎められたのかと思いまして、そう少年に言いました。すると少年は首を振って言います。

「……いいえ。無理にお食事をしていただこうとか、そういうお話しではありません。実はこの家の主人から、折り入って季実子さんにお話がございまして、できましたら少々お時間をいただきたいのです」

 そういう少年の表情はとても真剣で、何やら差し迫ったような雰囲気がございました。私は正直すぐにでも帰途につきたかったのですが、その少年の真剣な眼差しがそのような私の気持ちを押しとどめてしまいました。


「承知いたしました。あまり遅くまでは厳しいところではございますが、多少であればお伺いいたします」

 私は帰りの特急電車の時間を気にしながら答えました。少年は先ほどよりも少し明るい表情で、にっこり笑って言います。

「よかった。長くお引止めはいたしませんので、どうぞご安心ください。こちらです」

 少年は建物の裏手に向かって片手を広げながら歩きだしました。


 少年はどうも建物の裏口の方に向かって歩いているようです。私は聞いてよいか迷いましたが、これが聞くことのできる最後の機会だろうとも思いまして、思い切って少年に聞いてみました。

「あの……お答えできなければ無理に伺いたいわけではないのですけれど、亜沙子さんのご両親はお葬式に出席されるのでしょうか」

 直系親族であれば、お通夜とお葬式の両方に出席するものなのかもしれませんが、それぞれのご家庭のご事情もあるかもしれないとも思ったのです。それと……恥ずかしながら、亜沙子さんのことをもっと知りたかったという気持ちも確かにございました。


 少年はちらりとこちらを見て言います。

「その辺りのお話しもされることと思いますので……」

 少年はそう言って、口をつぐんでしまいました。何やら意味深な物言いに少しどきどきして、私の悲しい気持ちが少し引っ込んだようにも思いました。


 そうして少年は建物の裏口の扉を開いて私を招き入れ、そのまま建物の二階に案内しました。そして一番奥らしいお部屋の大きな扉に向かってノックをして言います。

「夏パパ! 季実子さんをお連れしたよ」


「おう! ありがとう! 入ってもらってくれ」

 扉の向こうからお通夜の挨拶をした声と同じ男性の声が聞こえてきました。その少年が扉を開けて入り、私を招き入れます。

「季実子さん、どうぞお入りください」


 部屋へ入ると大きなテーブルがあり、七人の男性と二人の女性がテーブルについていました。

「お引止めして本当に申し訳ありません。我々にとってとても大切なお話をさせていただきたくて、お時間をいただきたかったのです。どうぞお掛けください。何かお飲みになりますか?」

 亜沙子さんが亡くなったばかりだからか、夏パパと呼ばれていたらしいその男性は、少し寂しそうな笑顔でそのようなことを仰いました。

「それじゃあ、僕は一階で皆を手伝って来るね」

 少年はするりと扉を抜けて、早々に出て行ってしまいます。


「いえ、結構です。それより皆様にとってとても大切なお話しと仰るのは、どのような内容なのでしょう」

 私は正直、そのテーブルについている人たち……九人の男女に圧倒されながら言いました。何と言うか皆それぞれに雰囲気のある人たちで、恐らくお一人残らず何某かの道で成功を収めているような人たちに見えました。


「はい……。まず大変手前勝手なお話しで恐縮なのですが、これからお話しすることは他言無用でお願いしたいのです。どうか……」

 ?? 私は混乱しました。他の人にも言えないようなお話を、今日初めて会った私には話そうというのでしょうか……。


「あの……どのような内容なのかは存じませんが、そのように大切なお話を今日初めて会った私にする理由を、まずはお聞かせいただけませんか」

 いくら亜沙子さんのご家族だとは言っても、筋の通らないお話しを聞くことはできないと思いました。きっと亜沙子さんでも同じことを仰るでしょう。

 

 そうしますと夏パパ……その男性は、恐縮するように頭をかきつつ私に詫びて言いました。

「大変申し訳ありません。季実子さんの仰られる通りです。まず私は夏樹と申します。季実子さんのことは亜沙子からよく聞いていました。信用のおける、頼りになる大変好ましい人物だと。そしてこれからお話しする内容は、亜沙子が生前話していたことなのです」


 亜沙子さんがそんなに私を買ってくれていたとは……。私は嬉しいような、でも亜沙子さんが亡くなってからそんなお話を聞かされても、という悲しいような気持ちの両方を感じて胸がつまってしまいましたが、何とか泣き出さずに口を開きました。

「そうですか……。亜沙子さんのお話しということであれば、どのようなことでも受け入れましょう。お伺いいたしますし、他の方にはお話ししないことをお約束もいたします」


 夏樹と名乗ったその男性は、眼を細めて感慨深そうに言います。

「さすが亜沙子が見込んだ方だ……。それではお話ししましょう。実はここにいる男七人、女二人は、全員で夫婦関係を築いているのです。そして今階下で通夜の振舞いを手伝っている十三人の子どもたちは、我々全員の子どもなのです」


 え? 私は混乱しました。

「あの……どういう意味かよく……」

 夏樹さんは、ゆっくりと繰り返して言います。

「混乱されるのも無理はありません。我々は夫七人、妻二人、子ども十三人という家族なのです。そしてできましたら季実子さん、我々はあなたを家族に迎え入れたいと考えているのです」



to be continued...

読んでくださってありがとうございます!

皆様に幸多からんことを!

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