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紫雷刀使いのアヤメ  作者: うまチャン
第一章 もうひとつの世界
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第4話 救世主

 蒼の目は大きく震えている。

腰も砕け、もはや立ち上がることは不可能。

そんな彼の事など全く気にする様子もなく、目の前にいる化け物はまじまじと見つめてくる。


『ん〜……あれあれ〜?』


 しばらく蒼を見つめると、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべる。

その笑みは恐ろしい。


『あなた、何か特別な力を持っているみたいねぇ。ん〜……あらあら、随分と素晴らしいものを体の中に隠しているようねぇ。これはどう見てもラッキーにしか思えないわ! あらま、なんて今日は良い日なんでしょう! 今日はなんて幸運な日でしょう! もちろん、あなたも運が良いわね』


 楽しげに、そして満足そうな表情をする。

蒼はかろうじて話を聞けてはいるが、何を話しているのか全く理解できなかった。

何が運の良い日なのだろうか、逆に最悪な日である。


『本当に運の良い人間なこと。それでは、あなたの《《モノ》》を頂いちゃうわねぇ!』


「――――っ!?」


 化け物はそう言うと、不気味な笑みを浮かべながら、ドロドロとした腕を蒼に向かって伸ばし始めた。

逃げないと――――頭の中ではそう思って実行しようとしても、体は言うことを聞かない。

ただ、自分に向かって伸びてくる不気味な手を見つめたまま、怯えているのみ。


(ああ、俺はこの化け物に殺されるんだ)


 ケタケタと笑いながら、ゆっくりと伸びてくる腕が顔の目の前まで来た時、そんな思いがよぎった。

全ての終わりが蒼を迎え入れるかのように。

 端から見れば、誰でもそう思われる瞬間、化け物の動きが突然止まった。


『あ?』


 微かに聞こえた風切音。

それと同時に、なんと化け物のドロドロとした腕が切れて落ちた。

化け物は最初は切り落とされたことに気づかず、腕を見つめただけだった。

しかし、ドサッと落ちた音が聞こえた方を見るとそこには自分の腕が。

それを見た瞬間、化け物の表情は段々と青ざめていき、ついには、


『ぎゃあああああああ!!!!!!!!』


 と、激痛が走ったかのようにもがき苦しみ、そして悲鳴を上げた。


(な、何が起こったんだ――――えっ?)


 突然叫び声が聞こえ始め、何が起こったのか状況が理解できずにいる蒼だったが、知らない間に景色が変わっている事に驚く。

それは、自分の目の前にまた新たな人物が現れていたこと。

 背中まで伸びる紫色に輝く長い髪、上半身は和服、そして下を見ると短めのスカートを履いている。

そして一番目を引くのが、右手に握りしめられた稲妻音が鳴り響く日本刀のような形をした長剣。

刃からはビリビリと紫色の稲妻が走っているのがよく見えた。


(誰だ……? 女の人、だよな?)


 後ろ姿からして、すぐに女性だと判断出来る。

一体この女性はどこから来たのだろうか。


『な、何よあんた! 急にわたしの腕を切るなんて!』


「そんなことはどうだって良いの。何も罪のない人間に手を出そうとしている時点であなたはわたしのこの剣で成敗される。それだけ覚えてもらえれば良い」


『くっ、生意気なっ……! だったら痛い目見せてあげるだけよ!』


 女性に侮辱されたように言われ、苛立ちを見せる化け物は、先手を取るように自ら詰め寄った。

しかし、それを見切っていたかのように剣を構えると、低い体勢を取り、迎え撃った。

長剣の稲妻も、先程より音も光も強くなっていた。

 目にも止まらぬ速さで化け物に近づき、そして長剣は化け物の胸元を貫通させるほど突き刺した。


『ぎゃああああ!!!!!!!!!!』


 長剣を胸元に刺されてしまった化け物は断末魔を上げると、そのまま灰のように散ってしまった。


「はぁ〜……」


 姿がなくなると、女性は大きく息を吐き、そして腰に巻き付けて留めている鞘に剣を収めた。

チャキンという音がなると、女性は剣と鞘から手を離す。

 蒼はずっと釘付けになっていた。

こんなに細くてか弱そうな見た目をしているのに、雰囲気で全くそう思わないほどの威厳を放っている気がした。


「はっ! あ、えっと……あ、ありがとうございます! 助けていただいて――――えっ……?」


 とにかくお礼を伝えないといけないと思った蒼は、目の前にいる女性に感謝の気持を伝えた。

しかし、それは途中で止まってしまった。

何故なら……。


「あれ? もしかして……。何であなたがこんなとこにいるの?」


「えっ……? もしかして……」


 少女は蒼に向かって振り向き、ついに彼女の顔が見えた。

しかし、蒼は彼女の顔を見た瞬間に気付いた。

髪色、瞳の色、服装は違えど、全体の雰囲気は見覚えがあった。

そう、普段学校では滅多に話さず、謎多き少女としてちまたでは有名なあの人物だった。

 蒼は確信したかのように、目の前で自分を見下ろす少女の名前を口にした。


「もしかして……藤原 あやめさん、なのか?」


「ええ。あなたはわたしと同じクラスの、若山 蒼くんだよね」


 蒼は初めてあやめの声を聞いた。

それと同時に、あやめの裏の姿を知った瞬間でもあった。

情報量が多すぎて、困惑してしまっている。


「な、なんで藤原さんがこんなところに……」 


「――――状況は後で説明する。それよりも、問題はあなたよ。何で若山くんがこっちにいるのかしら? もしかして、()()()()()じゃないよね?」


「な、ならざるもの……? なんだそれは」


「その様子だと全く知らないみたいね。大体は理解した。でも、後で色んなこと聞かせて」


 あやめはそう言うと、再び長剣を取り出し、それを天に向かって突き上げる。

すると、剣に光のオーブが集まり始めた。

 蒼はその姿に思わず釘付けになってしまった。

よく分からないが、どこかに美しさがあった。


『解放』


 あやめはそう唱えると、周りの景色はあっという間にもとに戻った。

世界に色が再び戻った。

いつも見慣れている音も、そして通り過ぎていく人も。

さっきまで異様な世界が現れていたことも、記憶から抹消されたかのように日常が広がっていた。

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