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紫雷刀使いのアヤメ  作者: うまチャン
第一章 もうひとつの世界
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第1話 学園祭の帰り

 小野市。

国道に沿って栄える街で、主にキャベツやほうれん草といった農産物を中心としている街である。

 そんな街の上部に位置する学校で、今日は大盛りあがりを見せているのが小野市立小野高等学校である。

学校の様子を覗いてみると――――大勢の学生と客が入り乱れている。

 この学校の全校生徒数は350人程。

全学年3クラスまたは4クラスになっており、決してマンモス校と言われるほどの学校の規模ではない。

しかし、親に限らず、親戚や中学校時代に同じ学校だった生徒たちも訪れて来るため、結果的に多くの人で賑わうのだ。

 そんな中で、今年の春からこの学校に入学し、今日は多忙な一日を送っている男子高校生、若山わかやま あおいは、教室の入口で案内役を担当していた。


「それでは、行ってらっしゃい!」


 彼のいる1年4組は迷路と宝探しを合わせた、いわゆるアドベンチャーをテーマとした催しだ。

教室の広さの観点から、テーマパークのように巨大なものを用意することはできないため、小規模である。

しかし、クラス全員の努力が実った成果があったようで、教室の入口から行列が出来るほど好評だ。


(まさか、こんなになるとは予想外すぎるだろ!)


 心の中で目をまん丸にして驚きながら、蒼は客に説明してはドアを開けて見送り、その後は次に並ぶ客の対応をして、教室内からOKサインが出たらまた見送り――――永遠といって良いほど繰り返された。

 普通なら限界を迎えてしまいそうなものだが、蒼は苦痛と思うことはなく、スムーズに捌いていった。

というのも、彼は週に2日のペースで、コンビニエンスストアでアルバイトをしている。

だが、その店は市内でも屈指の客が来店することもあり、終始対応に追われている。

その業務の慣れが、ここでも活かされているようで、彼にとってはあまり苦ではなかった。


「では説明は以上です! それでは、行ってらっしゃい!」


 また1組送り出すと、客対応をする前に、一瞬だけ蒼は行列の向こう側を見た。

列の最後尾から看板の上辺がちらっと覗かせている。

 『最後尾 1−4』と書かれた手看板を掲げている人物は、蒼と同じクラスの少女、藤原 あやめである。

大きな瞳、ショートヘア、そして身長は150cmもなく小柄で、小学生に間違えてしまいそうである。

 普段から物静かで、誰とも接しようとしない。

もはや、彼女に口は付いているのかと疑ってしまうほど話さない。

 だからといって、ずっとスマホを見ているのかというとそうではなく、常に窓辺から見える外の景色を眺めているのみ。

その姿も、クラス内では不思議で仕方がないほど。

 謎多き少女として校内で名が知れ渡っているが、姿や顔の見た目は悪くない。

もはや、変態男子たちが密かに親衛隊を作っている、らしい。

また、この幼い見た目から、女子たちは母性というものが働くようで、密かに推しては可愛がっている、らしい。

 都市伝説だと学校内で噂されているが、蒼は絶対にいると信じている。

何故なら、彼は何度かそれらしき人達を見かけているから。


(心配する必要はないと思うけど……。やっぱりちょっと心配だな)


 心の中で溜息をつきながら、そして若干ソワソワしながら蒼は仕事を続けた。

蒼は途中休憩を挟みながらも、行列は絶えず、結局は時間になるまでほとんどの客対応をし続けた。

 そして、待ちに待った結果発表。

学園祭の最後に行われる『クラス催し物ランキング』では、1年4組のクオリティと人気の高さが評価され、1年生としては異例の2位。

1位は流石3年生というべきか、3年2組だった。

あと一歩及ばなかったが、それでも輝かしい成績を収めたのであった。

 ステージ上で、校長先生から渡された賞状を受け取ったクラス委員長は、1年4組のクラスメイト全員に見せた。

クラス委員長の叫び声と、クラス全員から発せられた歓喜の声は、体育館、校舎につながる廊下、そして外へまで響いた。

 こうして、盛大に開催された小野高等学校の学園祭は、些細な事故も一つも起こることなく無事に閉会式を執り行うことが出来た。

 ちなみに、閉会式の最後に突如として始まった先生達によるバンド『ザ・ティーチャーズ』は、学生たちに笑いと歓声が沸き起こったのであった。





◇◇◇





 学園祭も終わり、蒼は帰宅路を歩いていた。


(さて、帰ったらどうしようかな)


 学園祭の盛り上がりの余韻に浸りながら、自宅でどう過ごそうか考えている。

ゲームをしようか、はたまた隠れ趣味であるライトノベルを読み漁ろうか――――。

 そんな事を考えながら……と思っていると、蒼は突然立ち止まった。

空は段々と暮れ、茜色に染まり始めた。

そして、目の前に広がる住宅街と道の色が空と同化しつつある。

 学校を出て右を見ると、路肩が広い道路が海に向かって真っ直ぐに伸びている。

そこから見る景色が、彼にとってお気に入りだ。


「――――」


 カシャッ


 蒼はズボンのポケットからスマホを取り出すと、カメラを起動させ、目の前の景色の写真を一枚だけ撮った。

先ほどこの景色がお気に入りと記したが、蒼は帰り際に必ずこの景色の写真を撮っている。

そのため、彼のスマホにはこの景色の専用のファイルを作り、アルバムにしているのだ。


(――――よし、今日も良い感じに撮れたな)


 満足した顔をして、スマホをポケットにしまい、そして海に向かって歩き始めた。

今日は普段より夕日が綺麗で、この景色をいつも以上に美しく映してくれる。

蒼自身も、今までで一番良い写真が撮れたと感じているようだ。

 しかし、そう満足しているのも束の間だった。


「――――あれ?」


 何かがおかしい。

しかし、景色は特に変わっていないし、違和感もない。

ただ本能的に、一瞬何かがあったと感じた。


(体は――――何ともない。一体何だったんだ?)


 自分の手や足元を見て、そして体全体を触ってみる。

しかし、感覚や見た目が変わってはいない。

蒼は眉を潜めながら首を傾げた。


「――――気のせい、か。でも、さっきの違和感は一体……?」


 異変がないのなら、気にする必要もないと結論に至った蒼。

チラチラと周囲を見た後、また自宅へ向かって歩き始めた。

 彼の通学方法は徒歩と列車。

徒歩に関しては学校から駅まで約2km程離れているため、徒歩ではそれなりの時間がかかる。

比較的平地だが距離はかなりあるため、体力はそれなりに消費してしまう。

しかし、3ヶ月も経てば自然と体も慣れ、苦にならなくなる。


(でも本当に……さっきのは一体……)


 どうしても気になって仕方がない蒼。

ソワソワしながら、駅に向かって歩き慣れた道を進んでいった。


『――――』

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