プロローグ
普通の一歩を歩んだだけなのに、彼の目の前の景色はあっという間に色が失われた。
しかも、音や違和感のような前触れも全く起こることもなく。
『あらら〜? こんなところに、何故普通の人間がいるのかしらねぇ』
突如として現れた、見たこともない化け物。
ドロドロに溶けたような体に、頭が上からちょうど半分垂直に分裂してしまっている姿だ。
「う、うわあああ!!」
思わず彼は腰を抜かしてしまい、振り絞ったような声を上げた。
『しかもあなた……。随分と素晴らしいものを体の中に隠しているようねぇ。これはどう見てもラッキーにしか思えないわ! あらま、なんて今日は良い日なんでしょう! あなた運が良いわねぇ』
怯えている少年のことなど気にせず、目の前の化け物はジリジリと詰め寄り、まじまじと観察した。
どうやら、その化け物には彼の体の中にあるものに興味がある様子。
そしてその正体が分かった瞬間、化け物は不気味な笑みを浮かべた。
「な、何が――――」
『本当に運の良い人間なこと。それでは、あなたの《《モノ》》を頂いちゃうわねぇ!』
「――――!?」
そう言った瞬間、ドロドロに溶けた不気味な手を少年に向かって伸ばした。
恐怖のあまり、完全に硬直してしまっている少年は抵抗もできず、ただ化け物を見つめる事のみ。
自分は死ぬのかもしれない。
少年の頭にそれが過ると、目が潰れてしまいそうになるほど瞼を瞑った。
しかし、何も起こらない。
少年は恐る恐る目を開けると……。
「随分と楽しそうじゃない」
『――――ぎゃああああああああ!!!!!!!!』
その化け物の胸元には、ビリビリと稲妻が走る刀が刺さっていた。
そして、大きな断末魔とともに、化け物は少年の目の前から灰のように消えてしまった。
「あ、ありがとうござ――――えっ?」
「あれ? もしかして……。何であなたがこんなとこにいるの?」
助けてくれた人物にお礼を言おうとした少年だったが、あまりにも見たことがある顔だったため、思わず口を止めた。
これが、少年と同じクラスで謎が多い少女、藤原 あやめの裏の姿を知った瞬間であった。
人生初の現代ファンタジー作品となります。
試行錯誤しながら制作しているため、おかしな点が多く出てくると思いますが、どうか温かい目で見守ってください。