344日 隠れた名店
みんなの広場での騒ぎの一方、飛翔の視点はこうだ。
「深夜バスが出ててよかったよ。」
「飛翔さんしかいませんけどね。」
「その声…」
「久しぶりですね。古明地真鈴です。」
「真鈴…ということはこのバスは…」
「夜見川に…行かないです。途中までは同じですが。」
「なら…このバスは…」
「新保というところまで行きます。」
「新保!?かなり長くないかな?」
「でも、到着は6時です。」
「そっか。」
バスは真夜中を走っていたが、いつの間にか朝日が昇っていた。そして、新保まで来たところでバスを降りた。
「帰りはどうすればいいのでしょうか…」
「谷山までバスがあるのでそれに乗り換えればいいのでは?ですが…新保ですからね。」
「…そっか、ここ市場があるのか。」
新保は海の街の一つ。ここの名物は魚らしく、魚市場では朝ごはんを格安でお腹いっぱい食べられる。しかし、ここには伝手がない。
「とりあえず、美味しいお店を探すか。」
客引きのように僕を呼んでいる。確かにこの町は初めてでどんな店があるかわからないが…なんとなくドキドキする。
「すみません、一人で大丈夫でしょうか?」
そんな中、僕は一人で静かにたたずむ定食屋にいた。僕はここで魚の煮つけ定食を頼んだ。
「赤魚の煮つけか…美味しい。優しい味だ。」
ここの店主は無口だが、美味しいという言葉を聞いてどこか笑顔を見せたような気がする。本当は刺身が食べたい気分だったが、この煮つけはその気持ちさえも晴らしてくれる。しかも、ここの定食はあら汁をサービスしてくれたみたいだ。
「ごちそうさまでした。」
650モイの少し高めの朝食、しかし満足感はプライスレスだ。あとからその店を調べると、なんと隠れた名店だったという。しかも評価は高かった。どうやら他の店が強かったから隠れてしまったらしい。
「知れてよかった。そして、食べれてよかった。さぁ、あとは谷山に出るだけだ。」
バスは1時間に1本、次は30分後だ…いつもは一人が嫌だと思う時もあるが、今日は一人でよかったと思う。そして気が付けば…バスは来た。
「家に帰りたくないな…怖いな…」
そう思っていると、谷山に到着した。ここから梅野までは徒歩で15分ほど、歩くかと悩んだ時、電話が鳴った。
「もしもし飛翔さん?」
「結花さんか!びっくりした…それであの子は帰ったの?」
「…浩介の包囲網から逃げたわ。今そっちに戻らない方がいいわ。」
「え!?真音!?…そうなのか…」
「梅野の駅は避けた方がいいですわね…」
「そうか…」
「きらら大学なら逃げきれる…とは思えないわね…」
「じゃあどこに行けばいいんだろう…」
「いったん電話切りますね。」
「…ここでどうすればいいんだろうか。僕にはわからないな。」




