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身バレ

 教室に着くといつものように荷物を置き、時間割を確認して必要なものを机に叩き込んでおく。


 後からアレがないコレがないと机とロッカーを行ったり来たりするのは面倒だ。最初に全部用意しておくのが賢い。


 その後は特にすることもなくエアコンの風にあたりながらボーッとしていたのだが、声が掛って首を横に向けた。


「あ、来た!ねぇちょっと御厨!まだこれ提出してないでしょ!これじゃ持って行けないから早く出して欲しいんだけど!」


 よくもまあこんな朝から元気に声が出せるもんだと感心する。


 彼女は阿波七海。


 セミロングの髪に眼鏡の似合う、いたって普通の女の子。


 このクラスの学級委員をやっていて、確か生徒会のメンバーでもあったはずだ。役職までは知らないけど、それは間違いないはず。


 所感としては、態度といい何といい、いかにも委員長って感じのヤツ。


 インチョ・オブ・インチョ。


 しかしノリが悪い、言わばお堅い奴とかいうのとは違っていて、それは入学してからまだ少しの期間しか経っていないのにも関わらず、生徒会に身を置いていることがその証拠だったりする。


 彼女、入学早々生徒会長に直談判し、事情があって他の人が兼任していた会計の席に座ることに成功したのだ。生徒会選挙等を一切経ず、しかし咎められることも無くそこにいる。顧問は何故認めたのだろうか。


 これでは完全に民主主義へのチャレンジャーである。


 それを行動力があると評価するのがいいのか、はっちゃけてると評価するのがいいのか。評価に悩む委員長である。


「ごめん、出してないのって何?心当たりが多すぎてわかんないんだけど」


「あ…あのねぇ…まぁいいわ、一昨日の数学のやつよ。ほらコレ」


 呆れたように「これ」とプリントを見せてくる。よかった、見覚えのあるプリントだ。


「あー、それね、はいはい」


 と、折り畳まれたプリントを手渡す。


「やってあるなら出せばいいのに…じゃ」


 プリントを束に差し込み、それを整えて歩き去っていく阿波の背を見送る。誰にでもあんな風に接することができるのだから、ある意味尊敬している部分はある。


 それにしても、だ。


「長髪じゃないから違う……よな」


 あの怪人の占いが頭をよぎる。


 現状、髪が長いことと剣に関係する事くらいしか情報がなく、故に目に映る女性は全員その対象になる。


 こういうと何だか見境が無いみたいでアレだが、そもそもあの占いで出てきた人というのが何なのかもわからないのだから、こうして常に警戒するしかないのだ。敵かもしれないのだし。


「よう颯!」


「ん?おぉ、おはよー」


 そのうち教室にも人が増えてくると、傑が話しかけてきた。


 その後から来た真も交えて雑談をしていたのだが、2人が自分の席に戻った後、エルゼが妙なことを言い出した。


「彼──龍崎 傑から匂いがします。魔物の匂いが」


 突然何を言い出すのかと驚く。


「は?どういう意味だそれ」


「2つの意味です。彼が例のヴォルスローク殺しであるということ、もしくは彼自体、魔物等が擬態した姿であること。このどちらかだと考えられます」


 他の生物に擬態できる魔物もいるらしく、そう言った存在が今後出てくることも気を付けなければならないのだそう。全くもって油断ならない。


 どうしよう、親とかに化けてたら。疑心暗鬼にさせないで欲しい。


 それはそれで、追々考えるとして。


「現実味がありそうなのは…」


 前者だな。そう結論付けた。


「えぇ?そっちですかぁ?」


「まぁ…信用してるっていうのもあるけど、アイツならやってもおかしくないなって」


「僕は颯くんほど彼のことを知りませんから分かりませんが…警戒は怠らないでくださいね」


「ネガティブ思考の人間だから、警戒心の高さには自信があるんだよ」


「はぁ……そうですか」


 何だコイツ。


△▼△▼△▼△▼△


 そして放課後、エルゼからの提案もあり、白黒はっきりつけるためにも、傑を少し調べてみることにした。友人を尾行するというのはどうにも嫌な心地がしてならないのだが、それで胸のつっかえが取れるのなら、それもまた致し方ないだろう。


 気が付かれないようにこっそりと、帰宅途中の傑を尾行する2人。


「こうして後を付けていると…この間見た映画の主人公みたいですねぇ」


「映画?……そんなのいつ見てた?」


「いろんな映画を見れるサービスがあったんですよ!アレはいいものですねぇ」


 エルゼが目をキラキラとさせながら、あの映画がよかったこの映画がよかったと、邦画洋画と様々な映画のタイトルを挙げていく。


 最近はネットで全部見れる時代だもんな。


 話題の新作に不朽の名作。映画館で見る映画も味があってアレはアレで好きだが、やはり最近は便利さが何よりも重視されるもので、映画館というのは今後、都市部にしか残らなくなってしまうのではないかと思う。


 時代の移ろいによって消えていくものに、それが含まれてしまったという事だろう。


 ただ、我が家に積極的に映画を見る人はいないため、何かそれらしいサービスを契約した覚えはない。


 皆飽きっぽいから、最後まで持たないのだ。


「……?」


 そこまで考えて、俺はやっと気が付く。


「配信サービスって……お前もしかして勝手に契約した!?」


「え、はい。しましたけど」


「お前ぇぇッ!この馬鹿ハム何してくれてんだアホがッ!!」


当然のように答えたエルゼに掴みかかる。


「えぇ!?なんでそんなに怒るんですかぁ!」


「テメェ、アレ毎月金掛かるんだぞ!穀潰しの分際で何勝手な事してくれてんだ!!」


 コイツ!!!と、俺はエルゼの身体を揺らし、振り回しながら叫んだ。


「魔法少年がどうとかいうのも俺の許可なく勝手に契約しやがって!その上有料のサービスまで勝手に契約すんのかよ!どういう倫理観してんだこのクソボケは!」


「あぁっ…ちょ…毛毟らないで…って、ああ!颯くん!あれ!あれ!」


 激昂した颯に首根っこをつかまれていたエルゼが、傑が歩いて行った先を見てあわてたように声を出す。


「誤魔化そうとしてんじゃ…って、ヴォルスローク!?」


 そこにいたのは、2匹のヴォルスロークだった。


 気が付いた人が大きな声を上げて逃げ始めると、周囲の人達もそれにつられて逃げ出していく。


 逃げずに立っていたのは、小さな子を庇うようにしていた傑だけだった。


 その子は恐怖で逃げ出せなくなってしまったのだろう、だからこそ傑も庇うだけで動けずにいるのか。


 そう思っていた矢先、傑が痺れるような雄叫びを上げながらヴォルスロークめがけて突進していった。


「え、す、傑!?」


「早く変身してください!颯くん!」


 一瞬動揺で動きが止まったが、エルゼの声で引き戻されるとすぐさま変身し、傑の下へと駆け出す。


 足の速さには自信があるのだ。


 と、あまり近いとは言えない距離を全速力で抜けていく。傑はどうやらヴォルスロークと戦っているらしいが、流石に無茶だろう、勝てるわけがない。


 そう思っていたのだが。


「っ!?消滅した!?」


「彼は化物か何かですかねぇ…なんて、悠長に言ってる場合じゃありませんね!颯くん!」


 1匹目のヴォルスロークはなんとか消滅させることに成功した傑だったが、背後で腕を振り下ろそうとしているもう1匹には、流石に対処しきれそうにない。


 2対1でなければよかったのかもしれないが、そんな都合、向こうには関係が無いのだ。


「清き激流は安寧の一撃!穿て!アクア・スティンガー!」


 間一髪、放たれた水の針はヴォルスロークの頭部を貫き、そのまま消滅させた。


 幸い、傑にも子供にも怪我はなく、俺は安堵した。


 あぁ、そこまではよかったのだ、そこまでは。


「おぉ!助かった助かった!いや~危なかったぜ、ありがとうな!えぇと…変な恰好の…って、あ?」


 変な恰好のという部分は置いておくとして、何かに気が付いた様子の傑。


 嫌な予感しかせず、俺は一歩後ずさりした。


「お前…颯…か?」


 そして、首元にナイフを突きつけられるような感覚がした。


「「――っ!?」」


 これにはさすがに驚いた。エルゼを睨みつけても、認識阻害はちゃんと発動していると言うのだから。


 つまりは、恐らくは、非常に荒唐無稽で、自分自身とても信じられた話ではない訳だが、野生の勘か何かで俺の正体に気が付いたのだろう。


 恐ろしいとかいう話じゃない、もう色々と最悪だ。何もかもが最悪だ。


「エルゼ、記憶を消す魔法ってあるか?」


「判断が早いですねぇ……まぁ、ありますけど…」


「え?何?記憶を消す?おいやめろよ、物騒なこと言うの」


 物騒だろうが消せるなら消したくもなる。そういう恰好を今しているのだ、俺は。


「でもこの魔法指定した記憶だけを都合よく消せるほど便利な魔法じゃないんですよ?その人の中で辻褄が合わなくなったりしたら廃人になっちゃいますし」


 どうしたものかとエルゼと話していると、傑が視線をエルゼの方に合わせて口を開いた。


「…なあ颯、さっきからそこでフワフワ浮いてる奴は何だ?」


「っ!?み、見えてるんですか!?」


「あぁ、バッチリ見えてるが。お前は誰だ?」


「……なるほど、あっちの認識阻害を破られたから…あー……はぁ……僕はエルゼ、エルゼ・フューリタンといいます」


 エルゼは何かに気が付くと、諦めたようにして名乗った。何故そこで名乗るのか。


「はぁん…エルゼ…颯のペットかなんかなのか?」


「ん……ま、まぁ…大体そう」


 と、どうすればいいのかわからない状況がしばらく続いた、そんな時。


 上、つまりは空から、非常に大きな叫び声が聞こえてきた。


「やあぁぁぁっとっ!見つけましたあぁぁぁぁっ!!」


 その声の主は白い雲に大穴を開けると、そのままこちら目掛けて一直線に落ちてきた。


「やっと見つけましたよ!私の適任者を!」


 降りて来たのは、桃色の光だった。

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