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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
夏休みへ
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テロ

 劇に対しての拍手が送られることはなかった。


 打ち破られた金属製のドアの向こうに見えたのは赤い服の男達。逆光で見え難いが、確かに見覚えがある。秘密結社オメガの連中だ。奴らは体育館に入り込むと生徒や教職員たちを包囲した。


 これはあれかな?学校にテロリストが入り込むってヤツ。昔どうやって逃げ回るかみたいなことを妄想したことはあるが、その時は勝つことの想定なんてしたことはなかった。


 でも今はその逆で、負ける想定ができない。俺と姉さんがいて、会長がいて、傑と真がいて、ついでにモンブランがいる。


 ハッキリ言って奴らのあの行動は「死にに来た」以外に言い表しようがない。ただただ手の込んだ自殺だ。


 ていうかそもそも何しに来たんだこの学校に。


 オメガの奴を1人2人潰した俺たちの情報を追ってやってきたというのか?


 いや、それ以外に考えられない。そうでなければ、奴らは銀行でもなければ機密情報の眠る施設でもないこの学校にわざわざ来る理由がない。


 舞台袖からその様子をうかがっていた俺と会長だったが、会長は連中に指を差すと、小声で言った。


 その表情は少し、歪んでいるように思えた。


「颯君。おそらく中心人物はあの男だ」


「あ……あぁ、あの1人だけ服が違うやつですか?」


「分かり易いことだが、彼等はその力に応じて着用しているものに差があるらしい」


「古代ローマか何かですか」


「かもね。視覚的な情報は上下関係をより明確に理解させることができる」


「……で、どうしますか?」


「どうするもこうするもない。彼らは明確に我が校の生徒を、一般市民を害したんだ」


「まぁ、そうでしょうけど。じゃあ──」


「颯君、君には周囲の構成員の掃討を頼みたい。私は頭を狙う」


 そう言うや否や、会長は飛び出していった。俺の腕が空を掻く。


「颯くん、今は取り敢えず雑魚を始末していきましょう」


 顔を覗かせると、案の定というか傑が何人かと殴り合いをしていた。が、以外にも押されているように見えた。


 俺は一先ずそれに加勢すると、特に語ることも無ければ骨も根性もない雑魚を千切っては投げていく。


 そんな中、怖気づいた構成員達を掻き分けるようにして1人、男が出て来た。


「何をグズグズしているのだ!早く校内を占拠せんか!」


 黒いライダースーツに身を纏ったその男は、俺たちに邪魔され思うように事を進められない構成員に苛立ちを見せる。


 体格は2メートル近い巨体の持ち主。燃えるような赤い髪をオールバックにしたその男は、サングラス越しに瞳を光らせていた。


 会長はその男を見やると、近くにいた構成員を纏めて片付け、前に立つ。


 白い鎧を身に纏い、剣をその男に向ける。


「何のつもりかな?」


 口調こそ普段と同じだが、その声は大きく怒気を孕んだもので、ヘルムの奥からは憤怒に近い視線を感じる。


「俺は……なんだっていいか。それよりも、近頃我々の邪魔をしているのは貴様か?」


 男は会長の問いかけには答えず名乗った。


「どうだろうね。少なくとも、今私達の文化祭の邪魔をしているのはそっちだと思うけど」


 会長も相手の質問には答えなかった。ディスコミュニケーション。


「フンッ。まぁ何でもよい。雑魚を倒していい気になるのは構わんが、早いうちに投降せねば大変なことになるぞ?」


 男はサングラスを直すと、強気にそう言い放つ。


 正直言ってこの状態から向こうがどうやってこちらに勝利し作戦を進めるのかはよくわからないが、あそこまで言うくらいだ。何か策があるのだろうと、俺は警戒し、近くにあった椅子に手を掛けた。


「はは、大言壮語も度が過ぎると不快だよ。何も出来ないくせに」


「想定外の事もあり苦戦しているが、所詮今お前たちが相手をした連中など取るに足らないカスのような存在。貴様如き、俺一人で十分」


「へぇ。だとしても、君があと2、3人はいないと足りないと思うのだけれど」


 会長がにやりと笑った。


「あ?何を言って──カハッ…!」


 男がその発言に疑問を呈したその瞬間、飛来した椅子が腹に命中し、男の身体をくの字に曲げる。


「クソ、外したか!」


 俺は隙を見てパイプ椅子を男の頭目掛けて投げ飛ばしたのだが、落ちることまで考えていなかった。


「不意打ち好きですねぇ」


「勝てばいいんだよ勝てば」


 エルゼに卑怯者かのように言われたので反論する。


 どんなに正々堂々戦ったとしても、勝たなければ誰も褒めてはくれないのだ。そもそも勝てなければ誉め言葉も罵りも受けることはできないのだ。


 どんなにカッコ悪い勝ち方だろうと、勝たなければ意味がない、勝てなければ後がない。


 まずは勝つことが前提条件で、その際こちらに発生したカッコ悪さは敗北者の側に押し付けてやればいい。


 ロマンのある戦いも好きだが、ロマンでしかない戦いは嫌いだ。カッコいい戦い方も好きだが、カッコイイだけというのは、やはりよろしくない。


 俺は椅子を諦めると剣を手に取り、男目掛けて突撃する。


 男は横から来た俺と正面に立つ会長の2つを同時に相手取らなければならないため、どちらも警戒しつつ俺を迎え撃とうとする。


 俺は一気にスピードを上げて男の真横を通り抜けると、斜め後ろから首目掛けて剣を薙いだ。刃が潰れていなければよかったのだが。


 男は会長の方に飛ばされる。会長は剣を構えると、目にも留まらぬ速度で剣を振るった。


 2回しか振っていないように見えたが、聞こえた音は7回。普通の人間ならまず耐えられないだろう。


 しかしなんとか防ぎ切ったのか、俺たちからは距離を取り体勢を立て直した。


「クソッ…!2人もいやがったのか…!」


 黒い鎧に身を包んだまま会長の横に立つ。


「どうします?」


 俺はヘルム越しに尋ねた。


「皆は?」


「雑魚共は既に……」


 俺は天井を指差した。そこには姉さんの魔力体……この間見たウニョウニョ君によって吊るされている構成員達があった。


 アレは太さや長さ、大きさに形はそれぞれ変幻自在らしく、この間は買い出しのじゃんけんで使っていた。それ以外にも暇な時や構って欲しい時はそれで執拗に俺を突いてくる。


 今はそれを周りの人に見えないほど細い糸にして、体育館の天井に構成員を吊るしているのだ。


「なるほど。なら後は避難を済ませるだけだが……それも少しづつは進んでいる……か」


「はい。なんで俺は──」


「アレの相手は私だ。颯君は向こうを手伝ってきてくれ。腰を抜かしている子もいるみたいだから」


「え、でも……」


「皆の事は、頼んだよ」


 会長に加勢しようとしたのだが、それは断られた。何故1人で戦おうとしているのだろうか。


 しかしこうも食い気味に断られては食い下がれない。一抹の不安を残しつつも、頷くしかなかった。


 俺と会長は男に向き直り、会長は駆け、俺は離脱した。


 そしてその直後。金属のぶつかる音と共に、会長の戦いが始まるのであった。

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