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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
文化祭へ
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可視化

 放課後、街を歩いていた俺はある違和感に気が付いた。


「なんか見えるんだけど」


 街を行く人々の周りに何か浮いている。数字や英語のようにも見えるが、文字化けしているのか、それを読むことはできない。


 これは俺が薬物を服用したからとか、そう言うことでは断じてない。


 一体何だろうか。パッと見はゲームのステータス表示とかのUIのようにも思えるが、はっきりとせず気持ちが悪い。


 ただ妙なことに、自分の周りにはないし、エルゼの周りにも浮いてない。


 いや、今更だな。答えなんざ最初から、なんならエルゼと出会ったあの日から分かり過ぎる程に分かり切っているのだが。


「また魔族か…」


 どうせ魔族だ。確証はないがそれ以外考えられない。


「エルゼ、捜すぞ。目的が何にせよ、この浮いてる物の正体が気になる」


「分かりました!」


 原因を探し、何が目的なのかを調べるために俺達は気配を辿っていった。


 それにしてもこの文字化けは一体何なのか。特に害があるとは思えないし、現状見えているのは俺たちだけらしく、それは他の人の反応的にも間違いないだろう。


 俺たちにしか見えていないというのはつまり、魔力を持つ者にしか見えていないという事だろうが。


 魔力の気配をエルゼに探らせながら歩く。


 すると、前方からこちらを目指して向かってくる人の影が見えた。


「あぇ、姉さん。何してるの?」


 姉さんだった。


「何って……これ見えてないの?」


 姉さんの周囲には文字化けが浮かんでいる。と言う事は本人に見えないだけで俺にもあるのだろうか。


 エルゼは多分そういうのが効かない体質なのかもしれないが、姉さんがそうなら俺にもあるのだろう。


「見えてるよ。だから原因を探してたんだけど」


「そ、そう。で?どこにいるのよ」


「エルゼ、分かった?」


「もう少し待ってください…………来ました!来てます来てます!あっちです!30m先、右方向です」


 エルゼが指さした方向は雑居ビルの立ち並ぶ少し薄暗い道。上を指していたので恐らく屋上にでもいるのだろう。


 姉さんと共に建物に飛び登り、あっちこっちに跳ねながら捜索していく。


 するとその最中、文字化けがだんだんと薄れ、何が書いてあるのかが見えるようになってきた。


 お互いそのことに気が付くと、一度足を止め、ビルの屋上でそれを確認する。


 そこに書いてあったのは名前や年齢、身長や体重といった情報だった。


 住所や連絡先までは書いていなかったが、俺が姉さんの各数値を読み上げた際に目つぶしを喰らったことから分かるように、コレが常にフルオープンで皆に公開される状態というのはマズい。


「あぁぁぁぁっっ…!目がぁっ!目がぁぁぁぁぁっっ!!!」


「何なのよこれ…っ!」


 姉さんの顔は真っ赤だ。見えてないけど。


 メッチャ怒ってるんだと思う。見えてないけど。


 俺的には何がしたいのかよくわからない相手である以上はとりあえずその目的を聞き出したい。その上で妥協案的なところに落ち着けるのならそれでもいいのだが、多分もうその魔族が生きて帰る事はないだろう。


 因みに、妥協案というのはこのステータス表みたいなのから一部情報を秘匿するような感じを想定している。体重とか、そうじゃないと色々と大変だし……ね。


「絶対許さないからっ!」


 しかし。人の秘密を暴いたものに訪れる末路というのは、そういうものなのだろう。


「ねぇエルゼ、いなくない?」


 再びその姿を探し始めた俺たちだったが、エルゼの言っていた場所にその姿がないと訝しむ。


「ですが確かに魔力の反応はここら辺に…姿を隠しているのでしょうか」


 エルゼが答える。


 気配はあるのに姿が掴めない、そんなところか。


 すると、それを聞いた姉さんが背中から黒いウニョウニョ君を生やして辺り一帯に伸ばした。それを分裂させては繋げて蜘蛛の巣のように形作っていく。


「……見つけた」


 姉さんの首が後ろを向いた。


 そこには魔力で縛り上げられた、魔法使いのような帽子をかぶった魔族の姿が。本のようなものを片手に持ち、「ぐええ」と呻いていた。


 姉さんが拘束をより強めていくと、周りに浮いていた情報がいつの間にか消えていた。


「ぐぅっ…!なんだっ、この力……だがっ!」


 魔族は魔力を解放させ、姉さんの拘束を突き破る。振り払われたウニョウニョ君は形を取り戻すと姉さんの方へと収縮していく。


「っ!」


 宙へと浮かび上がる魔族と、それに対峙する俺と姉さん。


 姉さんが射殺さんとする目つきで睨む中、俺は魔族に話しかけた。


「お前は誰だ?」


「俺はカンダ!」


「何してんの?何が目的で人の個人情報を浮かび上がらせたの?」


「これはまだ練習中のものだ!これは練習のための課題に過ぎん!」


 微妙に答えになってないのだけれど……それよりも。


「「練習中?」」


 俺と姉さんの声が重なった。


「そうだ!魔力を用い、それぞれの情報を解析し表示させるという技法のな!ゆくゆくはまた違うものを可視化させる予定だ!」


 凄い……のかな?よく分かんないけど、少なくとも現代の科学技術でそれを実現することが不可能な以上は凄いことなのかもしれない。現代の法律や倫理に全力で歯向かっていることもまた事実なのだけれど。


「違うものって何よ」


「ふむ…例えば…好感度メーターなどだな!」


 少し考え込んでから、顔を上げて言った。


 好感度メーター。


 認識が同じなのであれば、その人間が自分に向ける感情がどれほどのものかを測れるもの、だったか。大して友好的でなかったり、逆にそのメーターが振り切れていたりと、相手からどう思われているのかが分かる。


 だがそれが見える世界か…嫌だな。


 どうすんの、親からの好感度が中途半端だったら。友達だと思ってた人からの好感度が0とかだったら。どうしてくれるの。


 自害も要検討だぞ。


 逆に自分を好いてくれてる人も見つけられるかもしれないが、それ以上にダメージを喰らうことはまず間違いない。会話の最中に好感度メーターが下がったりしたら立ち直れないだろうし、人によってはそれを上げるためだけに行動してしまいかねない。


 他人のご機嫌を取って媚びを売るような世界は御免だな。


「却下。それ以外では?」


「なっ…なら……あ!前々から実現したいと思っていた!アレをした回数が見えるというのもいいな!」


 今度はニヤリと笑って言った。


「「アレ?」」


 俺と姉さんはアレと言われても何のことか分からず、首を傾げる。


 魔族は下卑た笑みを浮かべて「アレだよアレ」と察して欲しさを出している。


「ねぇ、アレって何よ」


「分かんない…けどあの表情…」


 絶対碌な事じゃないだろうなと、なんとなく察しのついた俺はそれについて考えてみる。


 確かにクラスの人間とかのソレが見えるというのは少し面白そうかもしれない。意外な奴が意外と!?みたいなこともあるだろうし。


 でも親とか姉さんみたいな身内のそういう事情は生々しすぎて知りたくない。


 そうじゃなくても、いつの間にか恋人の数字が増えたりでもしてみろ、脳味噌吹き飛ぶ奴が大量発生しかねない。世の中には知らないほうがいいことというのも数多く存在するんだ。


 それに、そんなものが見えるようになってしまえば揶揄われたりするのを嫌って控えるようになるかもだし…その結果として少子化に貢献されたんじゃどうしようもない。


 これは考えれば普通に害があってダメだな。


「アレって何なのよ」


「え?アレはアレだよ。アレ」


「アレじゃ分かんないわよ」


 姉さんはまだよく分かっていなかったらしく、しつこく「アレ」が何かを尋ねてくる。言えるわけないだろ。どんな罰ゲームだ。


「ねぇ!分かってるんなら教えなさいよ」


 それでもしつこく聞いてきたことに辟易し、「アレ」が何なのかを耳元で説明した。


 すると一瞬で顔を紅潮させ、身体から魔力を発し始めた。


「ま、そういうわけで却下」


 そんな姉さんを尻目に他の案を出させようと試みる。


 七不思議の件でもそうだったが、何故魔族というのはどいつもこいつもこんなのばかりなのだろうか。


 そう思っていると、姉さんから発せられた魔力が収斂し始め、光線となってカンダへと放たれる。


「うわっ!ちょっ!ね、姉さん!?」


「颯!早くアレを殺すわよ!」


 驚いた俺に向き直り真っ赤な顔でそう言った。


「え?アレって何が?」


 反射的に聞き返し、そこでやってしまったと気が付いた。


「そ、そっちじゃないわよ!」


 姉さんがこちらを向いたせいで光線がこちらにも飛んできたのを、紙一重で回避する。


 殺す気かこの人。


「あ!いや、分かってるって!アレでしょ!あっちでしょ!?」


「何がアレなのよ!!アレじゃないわよ!」


「いやもう分かんないから!今どっちのこと言ってんの!?」


 尚も飛び続けてくる光線を回避したり、魔力を使って軌道を変えてやったりする。途中何かの叫び声が聞こえたが、今はそれどころではない。一発でも当たったら大変なことになる。余計なことは気にしていられない。


「あっちの事に決まってんでしょ!……あれ?」


 姉さんはカンダの方を指さして何のことか伝えようとするが、そこに奴の姿はなかった。


「あれ?」


 どこに行ったのかと辺りを見回すが、どこかに逃げてしまったのかその姿は見えなかった。


 こちらが仲間割れした隙に逃げたというのか…!しまったな、余計なこと聞き返すんじゃなかったな。


「エルゼ、もう一回探知してくれ」


「何言ってるんですか。楓さんが放った光線を颯くんが弾いて、その流れ弾で死んでましたよ」


「貴様ら…馬鹿なんじゃないのか?」


 ヴェルザの一言が我に帰った俺達に刺さった。


「…………」


「馬鹿じゃないし……」


 あの魔族は割といい線行ってるかなとも思ってはいたが、姉さんの同席によりそれも叶わぬこととなってしまった。


 その後、お互いなんとも言えない気まずさに包まれながら帰宅した。


 それから数日、『アレ』が禁句となった。

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