擬態する者
「次の七不思議は?」
「次はね~…歩き出す肖像画~!」
「肖像画?」
肖像画の七不思議なんてのは古今東西色々あると思うが…そのどれもが喋ったり、目線がこちらを向いていたりといったようなものばかりで、歩くというのは聞いた覚えがない。
そのまま肖像画のある音楽室へと向かう。
「歩く肖像画ですか…心当たりがあるとすればあの魔物でしょうか…」
「やっぱりまた魔族絡みなの?」
「はい、肖像画ではないんですが…美術品などに擬態する魔物というのがいまして」
「美術品に擬態…洋館のトラップみたいだな」
「いろんな魔物がいるんだね~」
「いい迷惑ですよ」
歩き続けて数分、3階の音楽室に到着した。
音楽室と言えばひとりでになり始めるピアノも七不思議のひとつだと思っていたんだが、あくまでもピアノは沈黙を貫くようだ。
ピアノとそこに差し込む一筋の月光。いいね、芸術的だ。この薄暗さもまたそれを引き立てている。
そう心の中で頷くと、意図的に目を背けていた物体にへと目を向ける。
「なんか動いてるんだけど…」
「ベートーヴェンとはまたベタだね~」
「やっぱり…コイツはギレマスーマ。様々な物に擬態する魔物です。中でも特に、絵画や美術品に擬態することが多いんです」
「警戒心が薄れそうだしな」
「ただ…擬態して何かするわけじゃないんですよね…見てもらうのが好きなんでしょうか」
「現代の若者みたいだね~」
「見られるのが好き…露出狂とかと同じ感じか?」
そこにいるのは額縁に手足をそのままくっつけたような何とも不格好な生き物。
ドアを開けた時は部屋の中をトテチテトテチテと歩き回っていたのだが、こちらに気が付くと慌ててバタバタし始めた。
「害はないの?」
「まぁ、そういう虫みたいなものかと」
「じゃあ放置でいいんじゃない?」
そんな会話を理解できているのか、絵の中のベートーヴェンを必死に頷かせている。……コイツを使えば金稼ぎの1つくらいはできそうだな。
美術館で本物に成り替わっているとかであればまた問題だが、たかだか学校の音楽室にあるような画が入れ替わっていたところで問題はないし、これはどうでもいいや。
「じゃ、次行きましょうか」
満面の笑みで手を振るベートーヴェンに見送られ、音楽室をあとにした。
△▼△▼△▼△▼△
「3つ目の七不思議は~…」
腕の棲む階段。だそうだ。
なんでも、階段を上った時にそこから腕が生え、足首を掴まれるのだとか。
なにそれ、急にマジホラーじゃん。と思ったのだが、それ以上のことはないらしい。
「それは不思議で済ませていいんですかね?」
何がしたいのかわからないって意味では不思議かも知らんが、その危険性ではガキのやる質の悪い悪戯と同等だ。不思議と呼ぶには少々悪質で、しかし事件と呼ぶにはどこかショボい。
「ま、証拠がない以上そういう話がありましたってところで止まっちゃうからね~」
「そうですか。にしても…何で気が付かないんだエルゼは」
「だって…被害がないからいるとも思ってなくて…それに、あのヘドロの魔族は恐らく普段僕たちがいない時間に忍び込んでたんだと思いますよ。さっきは気が付けましたから」
「擬態する奴は?」
「ギレマスーマですね。アレはさっきも魔力が微弱過ぎて気が付けませんでした。それに害がないことも知ってましたし、見つけてもどうもしなかったんじゃないですかねぇ」
「それもそうだけど…7個もあると結構大変だな…」
「まぁまぁ。さ、階段についたけど…上る時だよね~…だから…」
3階から一度階段を降り、2階から再度階段を見る。
そして副会長が足を踏み出すと、階段の横の壁から腕が出てきた。
全く不用心極まりない人だ、この流れでまだ警戒心がないのか。
「オラァっ!」
生えてきた腕をガッチリと掴むと、そのまま腕に魔力を通し、その膂力で以て引きずり出す。
すると少し壁が歪み、何かが出てきた。
「腕の魔物…?」
腕と腕をいくつかそのまま繋ぎ合わせたような見た目の生き物。腕の塊みたいな…なんかグロいな。
そんな生物としてギリギリのラインを平気で飛び越えていくようなデザインの存在が、逆立ちするように手を突いて立っている。
「なかなかホラーチックになってきたね~。これぞ七不思議って感じ~?」
「こいつも多分知性のない魔物かな?なら──」
「待て!待つんだ!話せばわかる!」
あまり気分のいい見た目をしていなかったこともあり、早々に始末しようとしたのだが、その腕の塊から声がした。
「お、俺はカブラス!話し合いを求む!」
「颯くん、こんな見た目ですけどこれ魔族です」
「小学生が考えたようなフォルムしてるね~」
「……で?怪奇現象起こしてるお前にできる話し合いってなんだ?」
「か、怪奇現象!?俺はただ脚を触るのが好きというか…ただそれだけで…」
「脚を触るのが好き…?何の隠語だ…?」
「颯くん、あれ多分そういう性癖です」
「なかなか変態じみた魔物だね~」
と言う事はあれか、脚フェチの魔族が階段に潜り込んで女子高生の生脚触ってたって感じか、羨ま──クッソキモイな、許せない。
「いや!俺は男子生徒の脚も触ってたぞ!」
「聞いてもいない情報をどうもありがとう。余計キモいわ」
ただ、これでこの七不思議の犯人と動機は判明した。ただ1つだけわからないことがある。
「なんで上る時だけなんだ?」
「そりゃっ…降りる時に脚掴んだら大事故になるかもしれないし…」
「七不思議が安全面に配慮してんじゃねぇよ」
「それでもコケそうになったら頭だけは打たないようにしてたし…!」
「アフターサービスもバッチリじゃねぇか」
「そうなんだよ…!だから…な?」
腕の1本をこちらに向けて親指をぐっと立てるカブラス。いや、グッ!じゃねぇんだよ。
「それでも普通に危ないから。分かるよな?」
「ま、待て!や、やめっ──!」
△▼△▼△▼△▼△
「さ、次は?」
「4つ目の七不思議は…たしか…アレアレ~」
4つ目の七不思議だが、飛ばすことにした。内容がちょっと…アレだったから。一応言っておくと、怖気づいたとかそういうのではない。場合によってはそうとも取れるっちゃ取れるんだけど…それでもやはり違うと言いたい。
体育倉庫の怪異の叫び。
誰もいないハズの体育倉庫から女の悲鳴のようなものが上がっていたのだとか。これが4つ目の七不思議だそうだが、これは多分魔族関係ない。いや、絶対に関係ない。断言してもいい、プリンくらいなら賭けてもいい。
「行かないの~?」
「行きません。多分今回は何もいないので」
「…………ん?というと~?」
「いや、魔物とかは関係なさそうなので…行かなくても大丈夫です」
こんな風にそれとなく濁して言っていたのだが…頼むから言わせないでくれ。
「でも七不思議だよ~?この流れだと…」
「いえ、魔物も事件性も何もないので大丈夫です」
「でも倉庫のマットには微かだけど血が──」
「絶対関係ないです!!」
ということで、5番目に行くことにした。




