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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
生徒会長
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転校生

「転校生?」


 俺はつい、聞こえてきた言葉を聞き返していた。


「だとよ、変なタイミングだよな」


「確かに…もう少しで夏休みだしね」


 傑と真がそれに返す。どうやらこの時期に転校生が来るらしい。


 こういうのって大体学期が変わってから来るものじゃなかろうか。


「聞いてねぇのか?すげぇ髪の色してるんだとよ」


「僕も聞いたよ。黒と白の髪の毛だって」


 黒と白…?何か見たことあるような無いような、そんな一抹の不安が頭をよぎった。そして大抵、こういう勘は当たるもので、特に最近はその傾向が強いように思う。


「校則違反ではないけど…それでもそこまで大胆に染めてる人はいないよね」


 まぁ確かに。この学校では毛染めやメイク、多少のお洒落なども自由にしていいと、校則にはそれらを禁止する旨がないのだ。だからこの辺りでは結構人気の学校だったりするのだが、ただ実際、皆同じような恰好をするものだ。


 自由にしていいからと、その言葉を額面通りに受け取ってはっちゃければ……まず浮く。浮くだけならまだいいが、それが行き過ぎればいじめにだって発展しかねない。


 平穏に暮らしたければ周囲に合わせる。これを抑圧だとか同調圧力だと取る者もいるが、どんな生き物も、あまりにも自分と違った存在を自分の身の回りには置いておきたくはないもので、そういう集団の中に居たいのならそれに合わせる努力が必要なのだ。


 だから金髪くらいなら見かけたこともあるが、赤や緑といったアニメキャラか!と言いたくなるような髪色の生徒はいない。女子はアレコレとメイクをしたりもするが、流石にパリコレみたいな恰好をして登校決め込む猛者はいない。プライベートでそうすることはあるのかもしれないが。


 あぁ、でも例外として、阿波との話にも上がった生徒会の白百合先輩。あの人は白っぽい髪色をしていて、それは染めたわけではないらしいが、確かに自由な校風の為せるものであると言える。これが普通の学校なら、今はそうでもないのかもしれないが、周りに合わせて黒く染めろと言われていた可能性だって否めない。そのために染めるのはいいのかと、思わなくもないが。


「それとよ、なんでもそいつが来るのはこのクラスだって聞いたぜ?」


「らしいね、普通の人だといいけど…」


 話を聞きながら、俺は思う。


 何でこの2人はそんなに色々知ってるんだ。俺全然知らなかったんだけど。


 真だって普段は超能力封じてるはずなのにコレってことは…やはり友人の数か。


「はぁ……」


△▼△▼△▼△▼△


「え~と、朝礼の前に…今日からこのクラスに一人増えることになるから、その紹介から──」


 と、疑っていたわけでもないが、2人の言っていた通りに転校生はこのクラスにやってきた。


 教室内は、その半数ほどが、転校生の容姿に動揺の声を漏らす。


 俺もまた同様に、そんな反応を示した。尤も、その中身は大きく違っていたのだが。


 それは髪の左半分を真っ白に、もう右半分を真っ黒に染めていて、その上にヘッドドレスを付けた少女。制服も若干ではあるが改造が施されていた。お咎めなしという事で、校則の範囲内なのだろう。


 しかし俺は、それを見たことのある容姿だと、前のめりになった。


「あ…あれは…っ!!」


 エルゼも気が付いたらしい。


「モンブラン…っ!」


「違うわっ!…あっ、んん!違います。初めまして皆さん、私、白山 黒子と申します。以後お見知りおきを」


 そう言ってペコリとお辞儀をした。丁寧なもんだと、俺も一応は形だけの拍手を向けた。


 クラス内は、見た目こそアレだがきちんとした態度をとったモンブランを歓迎しているらしく、一通り終えると続けて朝礼に移っていった。


 それにしても、白山って、白山って……


「やっぱ白山(モンブラン)じゃん…」


「フフ…やめてくださいよ颯くん…アハハ!」


「だから違うわ!」


△▼△▼△▼△▼△


 その後、なんとか隙を見てモンブランを屋上にまで連れ出した。


 モンブラン改め白山 黒子は不貞腐れたようにしながらも、一応は話に応じた。


「何しに戻ってきた、モンブラン」


「だーかーらー!ブラン・ノワールだ!モンブランじゃない!」


「でも白山なんでしょ?」


「そうだ!この国で元の名前は馴染まないらしくてな。仮の名よ」


「やっぱモンブランじゃん」


 違う違うと騒ぐモンブランを置いて、本題に戻ることに。


「もう敵対する気もないわ、目的は別」


「目的?何をあなた、この世界の人間に何かしようものなら──」


「それも含めて何もしないと言ってるのよ」


「じゃあ何しに来たんだ?」


「文化祭よ。この国の学校なる場所でそういう催し物があると調べたの」


 文化祭…?魔族が文化祭に何の用があるというのか。


「文化祭を乗っ取ってやるー!ゲハハハハ!」とかならまだ少し納得も行くが、こいつの口ぶりからしてそれもあり得ない。


「確かにあるけど…まだ先のハズ…」


 文化祭は大体10月ごろのハズだ。今の内から転校してくる……別におかしな話でもないが、わざわざ俺のいるこの学校をリスクを押してまで選んだ理由は何だ?


「知らないの?今年のこの学校の文化祭は夏休み前。だからここにしたのに」


「は?夏休みの前?」


「盗み聞いたの。この暑さだから文化祭がある時期に体育祭を、その代わり文化祭自体は前倒しで行うって話をね」


 聞かされていない情報だな。盗聴して得た情報だから当然だが。


「で?その文化祭で何を?」


「文化祭ではメイド服を着るのでしょう?」


「いや着ないが」


 着るとなるとメイド喫茶の事を指しているのだろうか。だとしてもそれが絶対に行われると決まったわけでもないし、全クラスでそれをするわけでもない。文化祭に際して作られるクラスTシャツでさえ記念品扱いでしかなく、実際に着る奴は少ないのだ。であれば当然、メイド服などは推して測るべしだろう。


「そっちと敵対するつもりはない。けれど、目的を諦めるつもりもない。だから文化祭に目を付けたの」


「目的っていうと……この世界の住人にメイド服を着せるとか言うあのトンチキなヤツか?」


「ト、トンチキ!?貴様!あの服の素晴らしさが分からないの!?」


「知るか。で?文化祭でメイド喫茶でもやるつもりか?」


「ぐっ……そうっ!計画はそれだけじゃない!全校を巻き込んで、メイド服が似合う生徒を決めるトーナメントも開くつもりよ!……こっちは出来るか分かんないけど」


「そんなもん魔界でやりゃいいじゃん」


 魔界に居ながらメイド服というものを知っていたという事は、メイド服というもの自体は魔界にも存在するはずで。魔界がどんな世界でそこでどんな暮らしが営まれているのかについては知らない訳だが、向こうにもその文化があるのならそうすればいいのにと、そう思った。


 何故コイツは──いや、ロマンス怪人もそうだが、そこまでしてわざわざこの地に居つこうとするのか。向こうでのしょうもない暮らしを死なない程度に大人しく楽しんでいればいいものを、何故そうまでして俺の前に現れるのか。


「あのねぇ…この世界の住人以上にあの服が似合う生き物はいない。そもそも、ヴォルスロークなんかに着せたって意味がないでしょ」


 しかし、そんな返答はモンブランにとって見当違いのものだったのだろう。やれやれと肩をすくめると、呆れたように言った。


 そりゃそうだが。俺は別にあの魔物に着せてみろだなんて言ってない。お前ら魔族のような人型がいるのだから、そう言う奴らにでも広めていればいいだろうと言ったのだ。魔族だって一枚岩ではないのだから、そういう平和的な思考の奴を仲間にすればいいのではないか。


 まぁ、それが出来たらこんなとこ来ないのかな。魔界の本当の地獄というものがどんなものなのか、少しだけ気になった。


「でも、そうだとしたら愚策だな。転校してきたばっかりの新参者が主導権握ってアレコレ進められると思ってんの?」


「ふふん。あの時は結局本来の能力も出すことはなかった訳だけれど、こう見えて生物を操る能力を持っているのよ?何も難しいことはない」


 あのヴォルスロークの軍勢はそう言う事だったのか。しかしそれよりも、だ。


「能力使ったらその時点で叩き潰すからな」


「違うわ。能力など使わなくとも、人心掌握くらいは簡単にやってのける」


「ふぅん、まぁいいか。俺には関係ないし」


「……何を言ってるの?男女関係なく着せるつもりだけれど」


「…………」


 俺は逡巡し、変身するか否かを判断する。今だったら誰も見てないし、こいつはどうせ魔族。


 これから悪いことをする前に消してしまうのが一番…あ、いや、皆にクラスメイトとして認識されてしまっている以上、ここで消すとマズイのだろうか。


 俺が連れて行くのも何人かには目撃されてしまっているのだし…最後に会ったのが俺だとなると怪しまれる。それは普通にマズい。


 クソっ、殺せなくなったか。


「男も女も関係なくこの服を着せるのよ!悲願達成の時は近い!」


 モンブランは腕を振り上げ声高々に叫ぶ。青空の下、広い屋上に、そんな勝利宣言にも近い声が響き渡る。


 殺せないなら計画を全て邪魔してやればいいか。阻止するか破綻させてやる。


 ただ、そんなことを言っておきながら、俺にだってコイツの計画を邪魔できるだけの伝手とかは無いんだよな。最終的に暴力に頼ればいいいつもとは違って、


 などと考えていると、屋上に大きな音が響いた。


「ビ…ックリしたぁぁぁ…」


 心拍数を上げながら、俺は振り返る。ドアが勢いよく開け放たれた音だった。


「ねぇ、それ魔族よね?」


 そこに立っていたのは姉さんだった。ズタズタと、ワザと大きな足音を鳴らしてモンブランに近付いていく。


「あんた誰?」


「我が名は────」


「コイツはモンブラン、メイド服が性癖の変態魔族」


「モンブランじゃない!それにメイド服は変態じゃない!グエッ!」


 姉さんはモンブランの襟を引っ掴んで持ち上げる。パタパタと足を動かすも、地面からは既に離れてしまっていた。


「なんなんだお前!はなっ、離せー!お前らやっぱり人間じゃないだろ!」


「魔族の分際で失礼ね、人間よ」


 姉さんは目を細め、覇気を放った。この人はどうやら俺とは違い、素の状態でも悪魔としての力を扱えるらしい。勿論全力時から見ればそれは些末なモノらしいが、魔界の住人から表情を失わせることができるだけのモノではあるそうだ。


 モンブランはそれを間近で受け止めると、一瞬ではあったが表情筋が震えていた。


「いや、待てお前!お前やっぱり人間じゃない!悪魔の匂いがする!というか離せ!」


 と叫ぶと、姉さんに掴まれたまま更にジタバタと暴れるモンブラン。変に暴れたせいで服がはだけてきているのが、良いのだろうか。人間じゃないとはいえ。


「──それは、我の事か?」


 そして、そんなモンブランの言葉に呼応するように、ひょっこり出てきたヴェルザ。


 それを見て、モンブランは目を剥いた。


「んなぁっ!?お、お前は…っ!その気配は…っ!ヴェルザ・ヴィル・ダ・ラーダ!?」


「ほぅ…お主、我の事を知っているのか」


「魔界の災厄が何故…そんな可哀想な姿に…」


 ヴェルザの事を知っていたみたいだが、知っている姿ではなかったのかひどく驚いていた。


 ぼんやりとしか覚えてはいないが、姉さんの精神世界で見たヴェルザはもう少し、こう…悪魔っぽい感じの格好だったしな。


 でもこんなに驚くってことは結構強い悪魔だったのだろう、その表情からなんとなく察することができた。


「この2人に負けたからに決まってるだろう」


「なっ!?ま、負けた!?お前ほどの悪魔が!?」


「そうだな、まぁもっとも、お主もこの小僧に喧嘩を売って敗走していたようだがなぁ?」


 煽られた仕返しにとヴェルザがそう言った途端、姉さんを中心にして、一気に冷え込むようにして、その場の空気が変わった。


「……はぁぁぁ?」


 悪魔のような形相で睨みつける。眼が赤く光り始めていた。


「んなっ!?なぜ知って──」


「説明しなさい、じゃないと殺すわよ」


「グエッ」


 モンブランを再び持ち上げ直すと、その首を絞めはじめた。


「私がこの世界に来た時に…ぬぐぅ…ちょうど、目の前に、いて…戦いになった…だけだ…ぅうっ!」


「そいつの配下に殺されかけたんだっけ」


「だからこそ僕も慌てて力を与えて、こうなったんですけどねぇ」


「今のは本当かしら?」


 ギリギリと強く締めていくと、そのうち声も出なくなっていき、呻き声だけとなる。


「ぅあぁ…うっ…ぐえぇぇっ」


「姉さん、死んじゃう死んじゃう。こいつ一応この学校の生徒ってことになってるから、今殺すとマズイ」


 流石にやり過ぎだと俺はそれを諫めた。果たして魔族が首を絞められたくらいで死ぬのかと疑問には思ったが、抵抗もできず涙目になるのを見るのが少しだけ、なんというか、いけないものでも見ているかの様な気がしたのだ。


「ふぅ…確かにそうね…」


「あぐっ!」


 解放され、そのまま地面に落ちるモンブラン。ドサッと、膝から落ちていった。


 するとそれに合わせるかのようにして予鈴が鳴り始めたので、俺は2人から気が付かれないよう、1人で教室に戻った。


「文化祭が近い」


 それの真偽はともかくとして、もしこれが本当だった場合、何はともあれ第一優先事項に、アイツの計画を形にさせないための手段として何があるかを考えなければならない。


 文化祭の出し物は通常、クラスごとに幾つか案を出して1つに絞る。それを生徒会にて集計し、被りがあったりすれば話し合いを。規定の外に出てしまうようなものは弾いたりしたうえで最終的に決定されていく…はずだ。


 そうせず好き放題やらせてしまうと、もれなくお化け屋敷激戦区になったり賭博場が開かれたりと、想像するに容易い末路を迎えかねない。


 であれば、だ。


 この「生徒会に案が集められる段階」で何とか出来ればいいのではないのか。


 生徒会への伝手は……阿波がいる。


 ちょうど相談を受けてもいたわけだし、そっちに恩を売れば生徒会長に話をするときに肩を持つくらいはしてくれるかもしれない。


 内容が内容なだけに俺がどう動けば解決するのか見当もつかないし、ハッキリ言って俺が解決できるとも、解決すべきだとも思ってないけれど。


 ただ、メイド服を着せられるなどという屈辱から逃れるための道筋は見えた。


「よし、やったるか!」


 しかし俺は、こうして自発的に行動して何か良いことがあった試しがエルゼと出会って以来一度でもあったのかと、そんな初歩的な問いを自身に投げかけることすら忘れていたのだった。

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