相談事
俺は普段、魔物を倒したり、魔物を撃退したり、はたまた魔物を殺したり、時には魔物をぶち殺し回ったりと、まぁいろんな事をしている。
なんて事はない、とても充実した毎日。あぁ、最高だ。
でも俺にだって、たまには学校でのイベントとかがあってもいいんじゃないだろうか。
学校に行っては授業を受け、アイツらと会話したりして、帰り道に魔物が現れたらそれを倒し、休日に出かければ魔族が現れ、その合間合間に姉とエルゼの相手をする。そんな繰り返しが俺の今の日常だ。
色褪せてるとは言わないし、灰色の青春だとも思ってない。どちらかと言うと真っ赤な鮮血に染まった青春だと思ってる。
まぁ、アイツら血出さないけど。
とにかく。学生は学生であるべきで、学生ならではの、それも学生としてのイベントが何か欲しいのだ。今後数十年ほどして思い返したときに「あぁ、あんなことあったなぁ」なんて感傷に浸れるような、そういう思い出が欲しいのだ。俺でなくたって、皆日々そういう何かを求めて生きているのだ。
そう思っていたら、そんななんでもない日常の一コマを飾れそうなイベントのフラグは、結構早めに回ってきた。
「ねぇ、御厨。付き合ってくれない?」
「え……?しょ、将来を見据えて!?」
「はぁっ!?ち、違うに決まってるでしょ!放課後、話したいことがあるの」
話しかけてきたのは阿波七海、例の学級委員。こうしておちょくるといい反応をする。
こういう冗談にマジで返してこない人は好き。どこかの姉は冗談が通じないから、尚更そう感じる。
にしても話とは。わざわざそれを俺にする理由が見えて来ず、内心首を傾げていた。
「いいけど、何で俺?」
「それも含めてその時話すから。じゃ、後でね」
尋ねるもはぐらかされてしまい、俺はその場に取り残される。
うーむ、なにやら意味深な感じ。何だろうか、ただならぬイベントの予感。
面倒な事は嫌いな俺だが、楽しい事とかワクワクする事は嫌いじゃない。コレでしょうもなかったら落胆どころではないけど。
「デートのお誘いですか?」
「かもね~」
冗談めかして言う。
「颯くんもそういうの興味あったんですねぇ」
しみじみするな、あるに決まってるだろう。
まともな神経してりゃ、順当に育った男子高校生が異性や色恋沙汰に興味を示さない方がおかしい。
キレーな人だなーとか、可愛い子だなーとか、うわおっぱいでっか!とか。
結局はそれを表に出すか出さないかの違いでしかない。
「颯くんは殺意を剥き出しにしてる感じですもんねぇ」
「それは……忌むべき魔物を見るとつい、ね」
「……いや、人間相手にもバッチバチに飛ばしてますよねぇ?」
そんな訳はない。
人間は俺の同胞で、守るべき大切な存在だ。俺が人間と認識できないような相手に対してはその限りじゃないんだろうが、救えるヤツくらいは救ってみるさ。
「嫌かもしれませんけど、そういった存在も守ってあげてください。それもまた、任務ですし」
そんな考えを読み取られたのか、エルゼが真面目腐った顔でそう言った。
「任務、ねぇ」
△▼△▼△▼△▼△
昼休みに姉さんが教室に来た。
教室はどよめいた。
あんまり意識はしていないのだが、部活の試合なんかでも助っ人とかもしていたりと、この学校ではそれなりの有名人。性格が少しキツイというのもセットで聞こえてきたが、妥当な評価を下されているようでよかった。
「あ、いたいた。颯、ちょっと」
カツカツと俺に近寄ると、腰に手を当て俺を見下ろす。
「何?もうご飯は食べたけど」
「……いいから早く」
そして俺はその素早い手際で、皆に見送られながら引き摺られていった。
「誰か助けてー」と、そんな目を向けてみたが、パッと目を逸らされた。そのままドアを通り抜けると、廊下を進む。教室が遠のいてゆく。昼休みという事もあって廊下には人が大勢いたわけだが、姉さんが通ると、全員廊下の端に寄っていく。
うちの姉さんは逆らえない相手として認識されているのだろうか。
はっ、俺の交友関係が薄いのはそのせいか!
クソっ、とんだ伏兵が身内にいたもんだ。
「痛っ!」
そんな事を考えていたら頭を叩かれた。
「またくだらないこと考えてるでしょ」
「大事なことだよ」
「そう?じゃあ言ってみなさいよ。相談なら乗ってあげるから」
「それは無理」
「なんでよ」
「怒られるから」
「それをくだらないって言ってんのよ」
くだらなくなんかない、大事なこと。
俺の交友関係が薄っぺらいのが、果たして俺のせいなのか俺のせいじゃないのかっていう大事なことだし。
会話する相手くらい普通にいるけど、そういう相手はやはり友達感がない。授業とかで組むことになったら話すこともある。でも雑談ができるような共通の話題はない。うん、これ友達じゃないわ、顔見知りだ。
会話しながら目的の場所へと向かう。
「あともう逃げないから引き摺るのやめてほし──グエッ」
△▼△▼△▼△▼△
連れてこられたのは屋上、どうやら話があるらしい。
こんなに短時間に2人の話を受け付けることになるとは。
俺ってばそんなに頼りがいのある男なんだろうか。
確かに?頼りがいのある男の人だねって、抱かれたいって、そうよく言われる男でありたいっていう願望だけなら人一倍強いのかもしれないけど。
……俺は一体何を考えてるんだろうか。今日テンションがおかしいな、ハイってやつかもしれない。
ここのところ、というよりエルゼと出会ってから疲労をため込みすぎな感じがする。一度どこかでしっかりと休まなければ、身体より先に精神が限界を迎えてしまいかねない。
「で?話って何?」
「魔物よ。あー、魔族だっけ?どっちでもいいけど」
「学校に出たの?」
「そう言う事じゃないけど。ただ、私の学年にそれに関係する人間がいるみたい」
それを補足するように黒靄の悪魔、ヴェルザがどこからか現れ、話し始めた。姉さんの主語の足りなさはここ数日で把握したのだろう、呆れたような口ぶりであった。
「微かに気配を掴めただけだが…小僧、お前と同族の者がいる」
「同族…?」
一応聞いてみたが、フューリタンの気配が一瞬したというだけだとか。
こちら側の味方ではあるんだろうけど、なんか嫌な感じだな。
だってそれは……
「本当ですか!?だとすれば適任者も…ではなぜこちらに接触しないのでしょう…」
そうだ。向こうだってこちらの存在について何か知っていてもおかしくないハズで、接触してきてもいいのではないのか。何故エルゼが察知できないような隠れ方をするのか、それが分からない以上はどうにも味方だと思えないのだ。
「姉さんは誰がそうだと思ってるの?」
「誰って言われても、私はそんな気配分からなかったし…まぁでも、私の友達にはいないわね」
「へぇ、姉さん友達──痛っ!」
スパンッ──と、子気味のいい音が屋上に響き、俺は頭を押さえた。
叩いただけにしか思えなかったが、今のは俺じゃなかったら首持っていかれていたのではないだろうか。なんとも恐ろしい攻撃をさも平然と向けてくるものである。俺は弟だぞ!
「失礼でしょ、あんたより多いわよ」
普段の学校での姉さんを俺は知らないが、俺への態度と同じなら友達がいるわけないと思ったのもまた事実なわけで、これは姉さんの自業自得なのではなかろうか。
そう言いたいのを堪え、目を逸らす。
にしても。姉さんの友達にはいない、か。これは俺に調べろという意味だろう、そんな目をしていた。
「んな面倒なことそっちでやって──いっっったっ!!」
口は禍の元、下手なことは言うべきじゃない。
「でもさ、そんなことならメールとか、帰ってからでもよかったんじゃないの?なんでわざわざ──」
「用はそれだけじゃないわよ。というかさっきのは本題のついでよ」
「ついで?」
「そ、本題は…」
話を聞いた後、教室までの廊下を歩きながら考えていた。
「吸血鬼騒ぎか…結局家で話せばよかったよな…」
「ま、まぁまぁ。魔界の吸血鬼の特性がこちらで広く知られているものと同じとは限りませんから、それも考えて早めに伝えておきたかったのでしょう」
「何、昼間に出てくる吸血鬼とか?……それはちょっとセンスねぇよな」
姉さんからの話はこうだった。
最近吸血鬼が出るって噂だから気を付けろ。
これだけ。以上。ザッツオール。マジで雑。
これならわざわざ教室に乗り込んで引き摺って退場していくあのイベント、どう考えてもいらなくない?教室内での俺のイメージが悪くなっただけだったよね、アレ。
一時は性格変わって丸くなったのかな?って、悪魔と一緒に今までのあの横暴さとかも落ちていったのかな?って思ってたけど……
エルゼの言った通りだな、悪魔が混じったことで悪化してる。
そして予鈴の何分か前、教室に入ると一部から可哀そうなものを見る目を向けられた。
解せぬ。