質問
あの戦闘の後のこと。
家に帰った2人は、お互い必要なことを確認することにしていた。
ちなみに颯は姉に絞られた後である。絞られたと言うのは、物理的にも。
それはさておき、エルゼは颯に対し、魔法少年の使命や扱える魔法についてのレクチャーをすることにしていた。
「ということで、改めて自己紹介を…僕はエルゼ・フューリタンです!フューリタン星から来ました!」
部屋の中で、空中に浮いたまま、ビシッと指を差すエルゼ。
人を指差すなとは思いつつも、俺は少し声を落とすと、確認を行う。
「そう…で、大体分かってはいるけど…お前は一体何をしに来たんだ?」
「ふふふ…!よくぞ聞いてくれましたね!僕の使命、それは!この地球を救うことです!」
地球を救う。
それが特務救世士としてのエルゼに与えられた使命だと話す。
しかし上の意向もあり、現地の人間に力を与えて、自力で救わせなければならないという事情があった。
「まぁ、僕らが魔法ぶん回して解決だと、こちら側が延々と任務に縛り付けられてしまいますからね。ある程度のサポートはできますけど」
「そのせいで俺がこんな目に、か」
「ま、まぁまぁ、変身した颯くんと変身前の颯くんを結び付けられない魔法もかかってますし…ね?」
「ね?じゃないけど。そんな魔法あるんだ」
「えぇ!僕らエリートが扱える魔法、認識阻害魔法と思考誘導魔法です!…来た時に使うの忘れてたせいでホント酷い目に遭いましたよ」
サラッと爆弾発言をかましたエルゼ。
酷い目にあったとか言う話もそれはそれでヤバいが、特に前半が気になった。
「認識阻害…?」
「今の颯くんと、変身した状態の颯くんを頭の中で結び付けられなくするための……言ってしまえばジャミングみたいなものです」
「えぇ…怖…。それ悪用したらいろいろできそうだな…」
「ダメですよ。任務以外で乱用すれば、本国から何言われるか分からないので。最悪消されます」
真面目な顔をして、テーブルへと降り立った。
そこからは魔法についての話が始まったこともあり、エルゼは契約したことによって扱えるようになった魔法についての話題に切り替えた。
「あれはたまたま上手くいっただけで、本来あのような魔力暴走は本人にかなりの負荷を与えてしまうものなんです!」
怒っているわけではないものの、鬼気迫る表情…表情と言っていいのかは分からないが、その勢いのようなものに、思わず後退りした。
「だからってああいう魔法は嫌なんだけど…ダサいというかキツイし」
「えぇ…そんなぁ……でも…」
エルゼにもあの時の魔力の動きは理解しきれずにいた。
ゆっくりと落ち着いて解析のできる状況であればまた違ったとはいえ、エリートを自負する身としては、一目で理解できない状況自体が稀であること、またそんなものを無闇に使わせるわけにいかないという思いがあった。
しかし、颯としてはいちいち決め台詞だの呪文だのを唱えるのは断固として拒否したい。
が、しばらく話した末に颯が折れた。
こんなことに巻き込まれた状況ではあるが、さすがに死ぬよりはダサい魔法の方がマシで、衣装の部分ではエルゼに折れてもらっている以上、あまり我儘も言えないといったところだった。
手前勝手な都合で巻き込まれたのだから、もう少し我儘を言っても良かったはずなのだけれど。
そして次に武器の話へ。
「颯くんが出したあの槍、アレさっき調べて分かりましたが…伝説上の武器じゃないですか…」
「え?ああ、ゲイボルグね、ゲームとかによく出てくるから咄嗟に思い浮かんだんだよ」
「まぁ…それは構わないんですけど、ああいう代物は消費する魔力量が大きいのでそうポンポン使っていいものではありません。あの場では結果として適した武器だったかもしれませんが、無計画に使用すればそのあとが困ります」
「計画的になら使ってもいいの?」
「まぁ…本当ならあの本の中から使ってもらえた方がいいんですが…颯くんの主張はさっき聞いたばかりですし、仕方ありません」
と、こんな感じで颯とエルゼについての話し合いは進んでいった。
会話の中で、このエルゼなる精霊がどんな存在かというのは大方検討がついた。
「こんなものでしょうかね…じゃあ颯くん!どうぞ!」
謎に宙返りをして見せると、声の調子を上げて言った。
「え?なにが?」
「今話した事以外での疑問とかも色々あると思うので!さぁ!さぁ!」
「あ、あぁ、うん…」
こいつのテンションに俺は果たしてついていけるのかな、とすでに不安でいっぱいになる。
話し合いがあらかた纏まると、今度はエルゼの質問コーナーが始まった。
確かに分からないことだらけではある。全てに対して説明を求め始めたらそれこそキリがない。
ハムスターの様な生き物が人語を操ることも意味不明だし、何故いきなり地球が危機に陥ったのかも分からないままだ。
今まで考えないようにしていた、いや、考える余裕さえなかったような様々な疑問が、一挙に押し寄せ混乱した。
その中から聞いておくべきことを整理すると、1つずつ質問を始めていく。
「フューリタン星って何?聞いたことないんだけど」
「文字通り、我々フューリタンが住まう惑星です!遠い遠い宇宙にあって、様々な次元と繋がっているんです!この太陽系の近くにあって近くにない、そういう惑星です」
「何で地球を助けるの?」
「地球だけではありませんよ。他にも様々な世界を救ってきた実績があります!精霊としての力を使い、救える者を救う。これがフューリタンの中でも栄誉ある存在、特務救世士の使命なんです!」
「じゃあ、あの化物たちは?アレは何なの?」
「連中は魔界と呼ばれる次元に発生した存在です。あの巨体のような荒くれ者は通常、魔物と呼ばれています。そして、それを使役していたあの女のような存在を魔族と呼びます。奴らは基本魔界で暴れまわっているだけです。ただ、魔族は人間と同じく知恵が回るので、ああやって支配した世界を自分の思い通りに作り替えようとしたりするんです」
自分の思い通りの世界。それはメイド服で溢れた世界のことだろう。全くもって悍ましいたらありゃしないと言うものだ。
「そもそも魔法って何?魔力ってどこから湧いてくるの?どこで作ってんの?」
「魔法は魔力を力や現象に変換したもので、術式を介する魔術とは少し違います。魔力は空気中にも微量に存在しますが、基本的には体力と似たようなもので、使えば減りますし休めば回復していくものです。使えば使うほど魔力の総量も増えますから、戦っていくうちに魔力不足からは解放されると思い…ん?……まぁ、そういうことです」
途中何かに気が付いたエルゼだったが、気のせいかと首を振る。
「今はこんなものですか?」
「ん~…あ、いや、まだあるわ。なんで魔法少年なの?」
「…………あぁ…いや、そのぉ、僕魔法少女ってものに憧れがあって…それだけです」
エルゼは派遣前、地球の情報を集めていく中で影響を受けたものがあった。
それが魔法少女物のアニメ作品や漫画等々。
精霊が人間に与える力はある程度精霊の側で制御できるため、それこそ颯が納得してくれるような力を与えることもできたのだが、エルゼは自身の趣味を優先したのだ。
「魔法…少女…?じゃあ少女にすればよかったんじゃないの?」
「状況が状況だったので、もうこの際別に少年でもいいかなと思って、はい!」
当然、それだけの理由で渡せるような力でもないのだが、偶然にも颯が適任者足りえる素質を持っていたからこそ、あの状況がエルゼの背を押す形になった。
しかし、その事実を聞いたことで、キレそうになるのを何とかこらえた颯だった。
「あ、最後にもう一個聞いていい?」
「はい!何でしょう!」
「お前って殺せないの?」
「なんてこと聞くんですか…」