ベニマル
気が付いたこととは何か。魔法を計10発放ってみて、それは先程の通り全て無効化されてしまったわけだが、ロマンス怪人の時のようにマントか何かでそれをしているわけではなく、技によるものであったわけだ。
そしてベニマルの携えている長さの違った4本の刀。
その内これをしていたのは2番目に長い刀、太刀でしかなく、それ以外の腕はほとんど動いていなかったのだ。
要はあの刀さえどうにかできれば魔法を打ち消すこともできなくなるのではないか。
無論、どうやってそれをすればいいのかはやってみなければ分からないのだが、取り敢えず目標が出来ただけでも違うだろう。
と、俺は地を蹴り駆け出すと距離を詰め、片手でステッキを武器に変える。
「岩融!」
巨大な薙刀である。武蔵坊弁慶がどうたらこうたらとネットには書いてあったが、相手が長い射程の刀を使うのならこちらもそうするまで。
俺は魔力を込めたそれを斜め下から振り上げると、向こうの打刀と衝突する。
それを払うと上からの攻撃を防ぎ、お返しにと本体を狙うも、やはり防戦一方になっていく。
「扱いがなっておらぬな」
「当たり前だろ、普段こんなん使わないんだから」
「ふむ。ならば……」
と、薙刀を振り回してはベニマルと打合っていた俺は、どうにも嫌な予感がして、薙刀をステッキに戻すとその場から離脱した。
「──烈閃」
直後、俺がいたはずの場所が文字通り裂けた。
それが振り下ろされた太刀によるものだと、後から気が付く。
神速で振るわれた太刀。だが決して力任せに振り下ろされたものでないことは、地面に走る亀裂が証明していた。
「──破斬」
そして続けざまに迫る大太刀。咄嗟に顎を引き、その白羽を眼前に横切らせると、後方回転を繰り返して距離を離す。
この敵、どうやら物理的な距離をあまり気にしている様子がない。
事実、気が付いたときには次の攻撃がすぐ間近にあるというのが常であり、悔しいことに回避が手一杯であった。
距離を詰めれば太刀に短刀が、距離を離せば大太刀がそれぞれ攻撃を仕掛けてくる。
扱い難そうとか思ってたさっきまでの自分を殴りたい。いや、多分あの魔族が使い慣れているだけなのだろうけど。
などと考えていると、ベニマルは大太刀の先を地面に突き刺した。
「──追衝、爆獄刃」
「……ん?」
何が起こったのか分からず、刀の突き刺さった地面を見る。
地面が罅割れ、それが蛇が地を這うようにして己の足元に向かって伸びてきているのを、目を凝らしてみてようやく気が付く。
そしてそれは俺の真下に到達すると、直上して爆ぜた。
「んな────ッ!」
「颯くんっ!」
アスファルトが黒いことで困ることになるとは人生で初めてだと、吹き飛びながらそう思った。
「っ、そんなんありかよ!」
「ありだ。出来ることを封じる事に何の意味がある。それは相手への侮辱、許されざる行為」
「……!」
そう言われて、俺はハッとした。
「確かに、出来るのにやらないのは……ダメだよな」
いやまぁ、考えてはいたのだ。
魔法は太刀によって打ち消される。
だが腕には可動域があるもので、間近まで迫れば、というかゼロ距離で魔法を放てば打ち消すこともできないのではないだろうか、と。
当然問題もある。ベニマルに近付けば攻撃が飛んでくるわけで、地面をあそこまで綺麗に切り裂くあの攻撃を喰らう覚悟で行かなければ、それは出来ないのだ。
それ故に選択肢から自然と外してしまっていたのだが、やってみないことには何も判断できやしない。
やらないうちから諦めるのは違うと、そういうことだろう。
俺は空へと飛び上がると、ベニマルの胴体目掛けて急降下する。自爆覚悟の一撃にはなるが、相手も無傷とはいかないだろう。
「輝く数多の星々よ」
呪文を唱え始め、タイミングを計る。
「来い、強き者よ」
こちらを見据えていたベニマルの動きが変わる。大太刀が、太刀が、打ち刀が、短刀が、全てが振り上げられた。
「集え!」
「──十字衝」
4方向からの攻撃、このまま突き進めば。
しかしこれは好都合、何ならお釣りが出る。
俺は目前まで迫ると、一気に加速。振り下ろされた刀の内側に潜り込み、ステッキの先を鎧に接触させる。
「スターライト・レイ!」
「……ほぉ!」
間髪入れずに一気に放った。大穴が開き、虫の外骨格のような鎧が砕け、その下に黒い地肌が見えた。
「ついでに!」
ステッキを薙刀へと変化させると、魔法を打ち消していた太刀を持つ腕を切り裂いた。
腕が一本消失し、なんともアンバランスな身体になったベニマル。その機械のような声が、どこか楽しそうに掛った。
「それが狙いだったか。やるではないか」
俺は真下から仕掛けられた蹴りを回避すべく、体を横に流し、そのまま転がるように逃げた。
それを追うように、ベニマルは大太刀を地面に突き刺す。
「──追衝、爆獄刃」
「それはさっき見た!」
俺は再び空へと飛び上がりそれを回避、魔法を放って鎧を砕いていく。
「──天墜」
しかし空へ逃げるのをいつまでも許すベニマルではなく、向こうも向こうで天高く跳ね上がり、その打ち刀を振り下ろす。
「残念」
俺は自身の真上に跳び上がってきたその鎧目掛けて魔法を放ち、その反動で再び距離を離す。
「──破斬」
魔法さえ打ち消されなければこちらの方が一方的に有利だと、俺は近付かれないようにだけ気を付けながら攻撃を加え続ける。
「───烈閃」
向こうが一歩進めば全力で逃げる。魔法を放って全力で逃げる。
「────致撃」
そしてそんな光景が繰り返され、鎧が崩れ去るごとにどうしてか鈍くなっていく。
「──────……放迅」
身軽になっているはずなのに、それがどうしようもなくその最期を示すように、その動きが緩慢なものへと変化していく。
「卑怯なんて言うなよ。出来ることをするのが戦いなんだから」
俺はステッキを構え、呼吸を整える。鎧はそのほとんどが消え去っており、黒い地肌ばかりが見えていた。
「舐め、るな。敗者に許されるのは、勝者への称賛のみ。負け惜しみなど、情けない真似はせぬ」
ノイズの混じったような途切れ途切れの声は、信念は死んでも貫くと、そう言った。
この状況でそれが言える目の前の敵を、正直に凄いと思った。
「しか、し。戦いはまだ、終わってなどいない……!」
真っ直ぐと、戦いの始まる前よりも生き生きとした目が俺を見つめていた。
両者の距離が零になる。
刀は天を衝き、地を割る。
魔法は大気を揺るがし、腕を削ぐ。
短刀は構えられ、放たれる。
回避するまでもなく、それは俺を避けた。
「────お見事ッ!」
残った腕は真横に広げられ、清々しいまでに叫んだ。
最期くらいはと、俺は薙刀を振り上げ、両断した。
「……なんだったんだコイツ」
消滅していくのを見届けると、俺は変身を解き、呟いた。
「さぁ……?取り敢えず戦いを求めてここまで来たという事でしょうかね。死に方としては本望だったのでしょう」
「なんか……無駄な戦いだったな。鬱憤晴らしにはなったけど」
「ま、まぁ……こういう敵もいるという事ですよ。それに、平和は護られました。それでいいじゃないですか」
「でもさっき言ってたことはいいの?魔物と魔族が混ざったような存在だとか何とか」
「あぁ、はい。それも一応解析してみたんですが特に何も掴めませんでした。強いて挙げるなら、あのベニマルという魔族はその構造に欠陥を抱えていたという事くらいですかねぇ…」
「欠陥?」
「何かしらがあって、カブティドスという魔物とその身体を融合させたのかとは思うんですが、それにしてはカブティドスの欠点がそのままになっていると言いますか。ほら、こういうのって欠点をなくすために行われるじゃないですか。なのでちょっと違和感があったって感じです」
「ふぅん……」
「一応調べてもみますが……多分無駄に終わると思いますねぇ」
そう言われてしまえば言えることも無く、俺は帰り道の途中であったことを思い返し、急いで家へと帰るのだった。




