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魔法少年を解放しろ!

 足りないものは何か、それを探すようにして、俺は近所の公園に来ていた。


 全てが始まった、あの公園であった。


 あれ以降、魔族や魔物は出てきていない。あれ以降とは言ってもまだ二日しか経っていないし、二日くらいなら出てこないこともこれまで何度かあったわけだが。それでも、日常の一コマがそのまま削り取られたような感覚であった。


 俺は空を見上げた。それは涙を溢さないようにする為ではない、断じて。


 あの日の事を思い返していたのだ。


 あの日は確か、ヴォルスロークに殴り殺されそうになっていた俺を、青い光を纏って叫びながら落下してきたエルゼが助けたんだったか。


「あぁ。そうそう、ちょうどあんな感じの光が──」


 晴れ渡る空にキラリと1つの輝きを見つけて、俺は口の端が少しつり上がるのを感じた。


「――あ?」


 その光がだんだんと大きくなっているような気がして、俺は目を凝らした。


「どりゃあああああああああああっ!」


 それが何なのかは、すぐに分かった。


「え……エルゼッ!?」


 墜落するように着陸した1匹の精霊に、俺は大声を上げた。


「え、えぇ…?」


「いやぁ、少しばかり時間がかかりましたが、無事帰還できました……って、颯くん?どうしたんですか?」


「え、エルゼ……なんだよな?」


「はい。エルゼですけど。本当にどうしたんですか?」


「死んだんじゃ……ないの?」


「し、死んでませんよ!なんてこと言うんですか縁起でもない!」


「え!?でもだって、消滅するって…」


「え、はい。それはそうですが……?──言ったじゃないですか。僕の存在、つまりはこの肉体を魔力に還元して颯くんに譲渡すると。僕達精霊は受肉した肉体を失うとこの世界との関りを失うわけですから、先日魔力を譲渡した際、一度本国にへと強制的に引き戻されていたんですよ」


「……じゃあ死んでない?」


「アレで死ぬほど軟じゃありませんよ。精神生命体は」


「なら何か?エリーゼがやけに神妙な感じだったのとかは関係ない……?」


「エリーゼですか?……あぁ、そういえば悲しそうにしてましたね。まぁ、あの子は僕がいないとすぐに泣いてましたから。あ、もしかして颯くんもそんな感じだったんですかぁ?」


「はっ……はぁァァァ!?」


 それからしばらく、久しぶりの取っ組み合いをした。


 △▼△▼△▼△▼△


「まぁ、そう言うわけで、本国に戻るついでに任務終了の報告を上げてきたんです」


「任務……終了?」


「はい。地球での任務が終了したと、そう報告したんです」


「え、マジか……」


 俺はこの魔法少年なる存在から解放されるのだろうか。そう思い、なんとも言えない気分になった。


 だが、だとするとよく分からない。


 何故エルゼは再びここに戻ってきたのだろうか。


 任務が終わったのならわざわざ戻ってくる必要はないのではないか──まぁ、俺に何の報告もなしに勝手に終わらせやがったら許さないけど。


「その肉体はあれか?受肉し直したのか?」


「え?あぁ、はい!分かりますか?ここら辺が少しスタイリッシュになった最新型ボディです!食事のしやすい人型もいいかななんて思ったんですけど、やっぱり見慣れたこの姿の方がいいかなって思って、これにしてきたんです。胃袋の容量も35%増量です!」


 身体の一部を指差しながら得意げに語るエルゼに、俺は少し呆気にとられた。


 任務が終わったという報告をして、何でこいつは食事の事を考えているのかと。


「な、なぁ、何で受肉し直したんだ?」


 だからか、そんなことを尋ねた。


「え?こっちに来るためですけど」


「いや、そうじゃなくて、任務は終わったんじゃないの?」


「……あぁ、それがですね?聞いてくださいよ、僕が上に任務終了の報告をしたら、勝手に終わらすなって怒鳴られて叩き出されたんですよ!」


「ん……?」


 何故だろうか、もうそれなりに涼しい季節の筈なのに、体から嫌な汗が流れるのが肌感覚で分かった。


 そして、その汗の意味するものが何かは、すぐに解った。


「まさか……」


「はい!任務続行です!これからもよろしくお願いしますね、颯くん!」


 満面の笑みで、エルゼは手を伸ばした。


 その言葉に、俺は目を瞑り、大きく息を吸い込んで、叫んだ。


魔法少年(オレ)を……解放しろっ!!」


 これからも、魔界から来る脅威との戦いは続くのだろう。


 変な奴に、物騒な奴に、しょうもない奴に、どうしようもない奴。


 そういうヤツらに俺はこれからも辟易しながらも、なんだかんだで相対していくことになるのだろう。


 でも俺は少し、ほんの少しだけ、それが楽しみなことのように思えていた。


「……いや、多分勘違いだな」


 そんなこんなで、俺の今日は、明日も続いていくのだった。

おしまい。

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