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不測

 何で、どうしてこうなってしまったのか。


 いや、理由なんて分かってはいたが、感じた胸騒ぎを何故無視したのか。


 従っていたところで結果が変わっていたとは思えない。


 思えないが、それだけにどうすればよかったのか。


 出会いがあれば別れもある──そういう事なのだろうか。


 全てが終わり、消え去ったエルゼの姿をどこかに見たくて、俺は空を見上げた。


 △▼△▼△▼△▼△


 俺達は地球から飛び立った。


 流華先輩は魔力切れという事で、それから姉さんは魔素の生成方法を知らなかったという事で、2人は地上に置いていくことになった。


 そうなると自動的にリラやヴェルザもそこに残ることになる。


 まぁ、そうでなかったとしても全員で行くのは危険だし、誰かしらが残らなければならないというのは事実としてあったのだけれど、姉さんにはそういうことで納得してもらうことにした。


 なので、宇宙に行くことになったのは俺とエルゼと颯。それと、何故か付いて行くと言い出したエリーゼ。何故ついてくると言い出したのかは分からなかったが、サポート役がエルゼだけというのも少し心許なかったのでよしとした。


 それが決まると、エルゼはリラとヴェルザに一言二言告げてから、俺達を隕石を撃墜するためのポイントまで案内することに。


 不満げではあったが、もしもの時は任せたらしい。


 もしもの時というとそれは完全に俺の身に何かがあったという事なのだろうから、あまり縁起でもないことは言わないで欲しいのだが。


 それからは音速を超え、紫電を纏いながら真っ白な海に大穴を開け、さらに上へ上へと速度を上げながら進んでいく。


 エルゼとエリーゼが掛けてくれた特殊な結界のお陰で特に何もなく済んでいるが、ツナツナと競走した時とは比にならないほどの速度で空を飛んでいた。


 それでさえ結界の表面に炎が発生していたような状態で、生身の状態であったらと思うとゾッとする。


 そして、大気圏を全て突破することができた。その次は重力圏から離れるため、更に速度を上げていく。


 ここからは魔素を生成し続けながらの活動になることもあり、かなり集中力を持っていかれる。


「魔素を切らしたら終わりだと思え。木っ端微塵になるぞ。俺はなったことないけど」


 そんなことを颯に言われていたのだから尚更だろう。


 俺は必死に魔素を生成し続け、速度を上げ続け、それらを同時並行で行っていた。


 そのせいだろう。魔力が大分雑に消費されてしまった感があった。


 そもそも今日は朝からずっと動きっぱなしだという事もあって魔力は常に使用していたわけだが、果たして隕石を撃墜できるだけの魔力が残っているのだろうか。


 四魔将の殲滅や闇落ち時にも相当量の魔力を持っていかれたし、先ほどの戦闘でも攻撃を叩き込む為に多量の魔力を消費している。こんなことになるのなら節約すればよかったと思わなくもないが、気にしてもどうしようもないし、こうなった以上は打てる魔法で対処するしかない訳だが。


 しばらく宇宙空間を進んでいって、エルゼの合図で俺達は止まった。


 俺にとって、初めての宇宙であった。


 そこは暗闇の中で、ただただ広く冷たい空間であった。クソ寒い。


 こんな空間だというのに恐怖心が無いのは、自分自身がこういうことに慣れ過ぎたせいだろう。


 何と言ったって、異世界にまで飛ばされてるんだ。戻ろうと思えば地球に戻れる宇宙如き、最早恐るるに足らず。


 そして、息は出来てると言うか、何だろうか。息をしていないのに息が出来ているとでもいった感じか。何を言っているのだと自分でも不思議に思うが、空気を吸い込んでいる感覚はない。なのに息苦しさはないし、呼吸をしているという感覚だけがある。魔素のお陰かな。


 今の俺なら何でもできる気がする、何でもはできないけど。


 それはさておくとして。実際、宇宙空間に対する興奮はある。今でも内心「おぉ…!」の大合唱なのだが、それにしては存外落ち着いていた。


 それは何故か、声が出ないのだ。


 人が感情を表すときに使うのは、表情や言葉、身振り手振りといったものだ。その中でも最も分かり易く統一されているのが言葉なわけだが、それが使えないのだから落ち着くしかないというもの。


 餌を求める金魚のように口をパクパクさせることしかできない。


 会話も出来ない。まぁ、当たり前だ。


 あ、でも読唇術とか使えるなら別なのかな。


 その時横から声が聞こえて、俺は驚きながらそちらを見た。


「真空でも会話できるようになる魔法……って言えばわかりますかね。実際には魔力を破裂させ続けることでギスタール波を発生させて…まぁいいです。それを掛けたんですが、聞こえてますか?」


 ぶつくさと言いながら、俺に尋ねた。


「聞こえてる……おぉ……喋れる……」


 呼吸同様、やはり普段とは少し感覚が違っているが、喋ることはできた。原理とかは考えても分からないんだろうな。


 魔力ってすごいな。それだけで俺を思考停止に持ち込んでくれる。


「ここまで来ると流石に隕石らしき飛翔物の存在も感知できるようになりましたね」


 エルゼが地球とは反対方向を見て言った。


「あっちから来るの?」


「えぇ。ここからだと……そうですね、もう1時間もしない内に、地球を死の星にしてしまうのではないかと」


「時間的には結構余裕あるんだな」


 と、自分でも少し能天気に思えるような言葉を返した。


「それは僕達や颯くんだからこそ言えることであって、地球が残り1時間で滅ぶとなれば、それこそそんな顔はしていられませんよ。だから千夏さんがこの情報を外に漏らしたというのは本当に洒落になっていません。……まぁ、お陰で事態を把握することができたわけですが」


「そんなにか……あぁ、でもそうか。錯乱したり自棄になったりすれば大変か」


「もう明日が無いと知った人間が必ずしも良心に従って生きられるわけではないでしょうし、残りの時間でやりたいことをすると言うのも、また生物の本能ですよ。理解はしきれなくとも、理屈には納得がいきます」


「まぁ、俺も同じ状況ならそうしてたか。1時間で何ができるんだって話だけど」


「1時間もあれば結構いろいろできますけど……まぁそれはいいんです。少し時間もありますし、最終確認だけ済ませてさっさと終わらせてしまいましょう!」


「最終確認?」


「はい、使う魔法やどの向きに撃つかなど、そう言う調整です。僕とエリーゼでそれは行いますから、颯くんは台本を出して待っていてください」


 そう言うやエリーゼと向き合って思念を飛ばしあい始めたエルゼを見て、俺は小さい鞄の中からそれなりの台本を取り出した。


 今更ではあるのだが、これ台本って呼んでいいのだろうか。


 どっちかっていうと教科書とかそういう名称の方が……いや、いいや。


 俺がそれを久々に捲っていると、横から覗き込むようにされて、そちらを見た。


「…………」


「…………」


 何だろう。向こうはすごい身振り手振りで懸命に、俺に対して何かを伝えようとしてくれているのだけど……何も聞こえない。何も伝わらない。何も分からない。


 ザ、不毛。


 多分台本関係で言いたいことでもあるのだろうけど、聞こえないのだからどう反応したものか分からない。


 それを見かねたのか、エリーゼが俺達同士でも会話ができるようにと魔法を掛けた。


「あ、やっと喋れた……」


「おぉ……やっと声が聞こえた」


「で、どれ使うの?」


「どれって……あぁ、これ?」


 俺は台本を少し上に上げた。試しに手を離すと、その場に漂った。


「おぉ……」


 宇宙っぽさに、俺は感嘆の声を上げる。


「おぉじゃなくて。魔法使うんでしょ?どれにすんの?」


「さぁ……エルゼがまた何か言うだろうし……」


 俺は首を少し傾げて、ペラペラと、最後のページを開いた。


 そして、少し思い出した。


 初めてエルゼに出会ったあの日、俺が使おうとして途中でそれを止めた魔法を。


 後ろの方に行くにつれて魔法の規模や威力は高くなると聞いていたので、試す機会が無くて使ったことのない魔法と言うのも、幾つかは存在はしているのだ。


 異世界で試して来ればよかったかなとも今更ながらに思ったが、本当に今更である。


 で、この魔法は本当に最後の最後に記されていて、その威力や破壊力が凄まじいものであることは分かっている。


 あの日の俺はそれを最後に使おうとしていたわけだが、まだ魔法の危険さをあまり身に染みて認識できていなかったという事もあり、なんとも軽率なものであった。


 ただ、これをこれまで使わなかったのは危険なこと以外に、単純に使いたくないという思いがあった。


 終わっているのだ、呪文の中身が。


 今の俺は長ったらしい呪文を唱えずとも魔法が使えるのだが、しかし、それは1度でも使ったことがあり、尚且つそのイメージを頭の中で固められているものに限られている。


 見たことのない、使ったことのない魔法は使えないし、どんな魔法だったか忘れていた場合も同じだ。


 だから俺はいつも同じような魔法ばかり使っている。


 スターライト・レイがその例だ。レイだけに。


 …………


 などと考えていると、エルゼ達は会話を終えたのか、俺達の方を向いた。


 そして概要を説明した。いや、アレを説明したと言っていいのだろうか。


「最大火力をあっちにドーン!でお願いします!」ってなだけだったし。


「じゃあ……やるか────!…………?」


 そうして魔法の準備をし始めた時、俺は気が付いて声を漏らした。


「あっ……」


「ど、どうしました?」


「どうしよ……やべぇ、もう魔力足んない」


 流石に限界であった。


 呪文を唱えようと体内の魔力を巡らせたのだが、この魔法を放つのに必要な魔力が足りていない。


 ちゃんと使ったことがない弊害がこんなところに来て現れるというのも悪い冗談のようだが、これが現実。不測──否、不足の事態というやつだ。


 いや、撃つこと自体は多分可能なのだ。ただ、生命維持の為の魔素を生成する魔力と、帰還する為の魔力を残さなければならないことを考えると、確実に足りていない。


 どれくらい必要なのかは感覚で理解している。そのうえで余裕を持って魔力を温存するとなると──


 ──ダメだ、撃てない。撃てば死ぬ。


 こんなとこで死にたくない、スペースデブリ颯にはなりたくない。


「どうしよ……」


「どうしようって、お前……」


「どうしようもないですね。兄様、やはり颯はダメです、考え無しにもほどがあります」


「エリーゼ……あまりそういうことは……」


 一斉に集まる視線。冷えた空間ではあったが、それが余計に冷たく感じられた。


 いや、分かってはいるのだ。こんな場面で言う事でないことくらい。


 だからその、ゴミを見るような眼を止めてくれはしないだろうか。


 特にエリーゼ。どこか俺の事をエルゼにとって相応しくないとか考えているのはなんとなく分かるが、その目は割とガチな────


「確かに颯くんは考え無しですし行動が短絡的だったりしますし、見切り発車もいいところですけど……」


 そんな視線から目を逸らすと、エルゼが口を開き、


「でも、やるときはやります。それに、手が無いわけではありません」


 エルゼは俺をディスりながらも、エリーゼを宥めた。


「手があるって…兄様、それは……?」


 そして、不満を隠そうともしないエリーゼからのその質問に対して、


「……仕方がありません。僕の存在を魔力に還元し、颯くんに譲渡します」


 そう答えたのだった。

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