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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
異世界転移
196/246

パラレル

「何で……何で俺が…俺なのか…?」


 分からないでいた。何故目の前の人間が俺と同じ顔をしているのか。


 いや、簡単な話だ、どうせあれだろう。別次元がどうとか、パラレルワールドがどうとか、そういうヤツ。実在するのかと言われればそんな馬鹿なとも言いたくはなるが、今この状況その全てが馬鹿げている俺がそれを言うのも、だろう。


 だがそうだとすると、気になることがある。


 何故俺とコイツは持ってる力が違うんだ。俺はこんな恰好知らない。こんな幾何学模様の魔力が服の周りに漂ってるような衣装は知らない。


 俺のアレと比べると相対的にカッコイイ──じゃなくて、コイツは何でここにいるのか、アイツの言う間に合わなかったとは何なのか。前に聞いた時はてっきり共和国の滅亡に間に合わなかったという意味での言葉かと思っていたが、このタイミングでも同じことを言うという事は、どうやら違うのだろう。


「まぁ……そうだな。はじめましてでもないけど。俺だよ、俺」


「……オレオレ詐欺みたいだな」


「凄い嫌だな……コイツを相手にするの」


「俺も嫌だよ。ていうか何?何で邪魔すんの?」


 俺は尋ねた。コイツが俺なら、何故俺のやることを邪魔したのか、より一層理解ができなかった。同じ俺なんだから味方しろとも言わないが、何も邪魔しなくてもいいではないか。


「邪魔なんかしてない。それよりも、間に合わなかったのはお前の事だ」


「……は?」


 固まった。理解できなかったからだ。


 まだ今日は終わってないし、まだ間に合うはずだ。


「お前、ここまでの道中で何人殺した?」


「は?」


「答えろ、何人殺した」


「……別に、数えてないけど」


「数百万人って数を殺してるんだよ、人間だけでも。お前が突然いなくなってたから焦って探し回って、やっと見つけたかと思ったら今度は虐殺に興じて……」


「そうなんだ」


「そうなんだって……何っでどいつもこいつもこんなのバッカリなんだぁぁぁぁあああああ!!!」


「えぇ……?な、なに……?」


 突如として叫び出した向こうの俺。


 俺は自分自身さえ理解しきれていない様な人間だと、そんなことはとうの昔に自覚していたものの、流石にこういう突然ヒステリーに陥るような人間性をしていないことは分かっている。確かに怒りはするが……違うな、そうか、怒ってるのか、コイツ。


 若干引いていると、勝手に落ち着いて、ポツポツと、ゆっくり話し始めた。


「俺さぁ……頑張ってるんだよ……」


「……んぁ?何言ってんの?」


「こうやって別の次元の俺に会いに行けるわけだからさ……他の世界線の自分の所に行っては、そいつを助けるみたいなことをしばらくやってたんだよ」


「助ける…?……いや、お前自分の世界はどうしたんだよ」


「…………」


 向こうの俺は黙ってしまった。


 凄く悲しそうな顔をして、長く細く息を吐いた。


「あの…」


 俺が何かと待っていると、エリーゼから声がかかった。


「貴方もフューリタンから力を貰い受けているのですよね?」


「…………あ」


 いなかった。いるはずの精霊が。


「姿が見えないだけならまだ分かりますが、気配すらつかめません。その者は今どこにいるのですか?まさか貴方1人で別の場所に向かわせるとは思えませんし…」


「……殺した」


「殺......した?」


 愕然とした。精神生命体であるフューリタンを殺したというのだから、当然であった。


 それはエリーゼの方も同じであったようで、何かを恐れるように震えていた。


「殺したっていうかアレだろ?受肉した肉体を消滅させたとかそういうことだよな?」


「……あぁ、そうか、お前は知らないんだな。あるんだよ、フューリタンを殺す方法が」


 俺は目を見開いた。


「……っ!だ、誰を殺したというんですか!」


 エリーゼは憔悴しきったような顔で叫んだ。


 知り合いだったらと思うと、そんな顔をするのも理解できる。


「カガニア。カガニア・フューリタン。俺のもとに配属されたのはそいつだった」


「あれ……?エルゼじゃない……?」


「聞いたことのない名前ですね……」


 どうやら、世界が違えば配属されるフューリタンは異なるらしい。


 それはフューリタン星というものが複数の次元に接続されているからだと、エリーゼは語った。


 そういえばエルゼも似たようなことは言っていたような、いないような。


「あぁ、だからお前、エルゼなんて名乗ってたのか」


「この世界には合うかなって……。いや、漆黒の魔人とか名乗ってるお前に言われることは何もないんだけど」


「名乗ってない。宇宙を漂ってたら次元の扉に吸い込まれて、しばらくこの世界をうろちょろしてた俺の事をそう呼んだ奴がいたってだけ」


「次元の扉...…何それカッコイイ」


「何もよくない。吸い込まれたときはマジで焦ったんだぞ」


 むっとしたように言う。


「……で?なんでフューリタン殺したの?」


 俺は話を戻した。自分と会話していると独り言を言っているようで、しっかりしないとどんどん話がそれていきそうだった。


「……お前の世界線でも姉さんが悪魔に乗っ取られたことはあっただろ?」


 それから、向こうの俺はこれまでにあったことを話し始めた。


 どうやら、コイツも途中までは概ね俺と同じような生活を送っていたらしいのだ──配属されたフューリタンこそ、俺とは違っていたものの。


 だが、姉さんが悪魔憑きになったあの日、向こうの俺は姉さんを助けることができなかったらしい。


 それはそうだ。俺が姉さんを助けることができたのはエルゼがそれまでの常識を破ってくれたからで、そこにエルゼがいなかったのなら同じように進むはずがない。


 終ぞ助けることも敵わずに、向こうの俺は姉さんを殺し、怒りのままに暴れまわったのだそうだ。


 で、気が付いたときには全てが終わっていたと。


 そう、全てが、何もかもが、終わっていたらしい。


「知ってもいいことないからフューリタンの殺し方なんか教えたりはしないけど、まぁ、そういうこと」


 そのフューリタンは姉さんを救えなかったどころか、早々に諦めていたという節があり、向こうの俺は真っ先にそいつを殺したそうだ。


 俺も多分、同じ状況なら同じことをしていたのだろうな。


 それからは誰もいなくなった地球を離れようと、あるいはこんな運命を作り出したフューリタン星にカチコミでもかけようと、頑張って宇宙に出られるように魔力などの扱い方の勉強を、誰もいなくなった世界で独り、始めたのだと言う。


 そして1年ほど掛けて宇宙空間での活動を可能にすると、ただあてもなく宇宙を漂い始めたそう。


 いつかフューリタン星も見つかるかな、くらいのテンションで。


「どんな感じだった?」


「つまんなかった。最初の頃は「おぉ…」ってなることも多かったんだけどな」


 そして体感で3年ほど経ったある日、謎のゲートに引き込まれ、この世界に来たのだそう。


 最初はブラックホールにでも引き込まれたのかと焦ったそうだが、放り出された先が、今俺がいるこの世界で、それからは暇潰しに各地を放浪していたものの、しばらくしてこの世界から出られないことが判明、そのための調査に乗り出したそう。


「どうやって出たの?」


「そりゃまぁ、この世界の宇宙に飛んで行って…...って、それに気が付くまでに3年くらい掛かったんだけどな。漆黒の魔人とかいう名前も、俺がこの世界の住人ともう少しちゃんとコミュニケーションとってれば、そんな呼ばれ方はしてなかったんだろうな」


 で、その時思いついたのだと言う。こういうゲートを探していけば、別の世界線の、まだ平和な地球だって残ってるんじゃないか、と。


 そこに行って、平和な世界の自分と入れ替わってやろうとしたんだそう。


 確かに異世界があるのだから、パラレルワールドくらい、無くてはおかしいというものか。


「お前の世界含め、見つけられたのは4個。だけど、まだ無事に残ってるのはお前の所だけ」


「他は……?」


「だいたい終わってる」


 1つ目は、何とかして姉さんを助けるも、俺が流華先輩に殺されて終わり。助けたと言っても、俺の世界のように都合よく助けられたわけではなかったそうだが、取り敢えず俺が姉さんを殺すような世界にはならなかったらしい。


 だがそんな努力も虚しく、その世界は結局、怒り狂った姉さんが終わらせたという。


 2つ目は、流華先輩と戦闘になった際、俺がそのまま先輩を殺してしまい、その後に流華先輩がいないことで生じる問題に押しつぶされて死亡。


 その世界は姉さん関係なく滅んだらしい。


 3つ目は、そもそも俺のもとにフューリタンが来るのが遅れ、そのままヴォルスロークに殺されて終了。


 4つ目が今俺の居る世界。ここもここでギリギリの状態で、それでも何とか保っているというレベルらしい。


 どの世界も辿る運命こそ違うようだったが、俺や流華先輩が適任者として選ばれたことなどは変わらなかったらしい。


「その3つ目の世界の俺に成り代わればよかったんじゃないの?」


「辿り着いた時にはもう死んでたし、火葬まで済まされてたから。それに、気が付いたんだよ」


「気が付いた?」


「1つの世界を救うのに、少なくとも俺が2人は必要だって」


「はぁ……でも、他にも仲間はいるわけでしょ?傑とかもそうじゃない?何か別なことしてるっぽいけど」


 あいつ、文化祭以降はとある人と協力して……というかスカウトされて化物退治をやっているらしく、夏休みの途中、夜半に外出した姉さんがたまたま出くわしていたのだとか。


 カーチェイスをしていたとのことで、何とも愉快な夏休みを送っているようだ。


 ルルとは未だ契約していないと言っていたが、今はどうなんだろうか。契約しているのなら、あいつだって戦力には数えられるはずだ。それに、素が素なのだからかなり頼りになるのではないかと思う。


 それはいいとしても、流華先輩も俺と同じく力を与えられた人なわけで、俺が2人必要というのは、正直よくわからない。


「それでもだ」


 しかし、目の前のそいつは鋭い声で、そう言った。


「……?」


「現に、お前が初めて力を手に入れたあの日も、俺はあの場にいたんだぞ」


「え?」


「あの時お前が体外に放出した魔力を敵の頭上に誘導して、それをそのまま敵に叩き落としたのは俺なんだよ。ちょっと狙い外したけど」


「アレ俺がやったんじゃないの?」


「出来るわけないだろ、初日であんな芸当」


「まぁ……そっか」


「バレないようにお前に合わせはしたんだけどな。アイツ、エルゼ……だっけ?バレそうになって焦ったけど」


 既に俺は助けられていたらしい。


 もし、あのまま俺が魔力の使い方も知らない状態でぶん回していれば、それこそ大怪我どころではなかったというのはエルゼからも聞いていた通りだし、確かに2人必要だというのも分かるのかもしれない。


 でも別の世界線の自分がいることが世界を救う条件だなんて、それは流石に無理ゲーが過ぎないだろうか。


 今目の前にいる向こうの俺は自分の世界が滅んだからこうして放浪していただけで、本来ならどの自分だって自分の世界を護ろうとするに決まってるし、そもそも俺の場合はあんまり前向きにやってないし。


「でだ。話を最初に戻すが、お前はもう手遅れだ」


「……何でそうな──え、まさか、俺の世界滅んだの…?」


 血の気の引いていくような心地がして、俺は問いかけた。


「いや、違う。同族殺しをし過ぎたって話だ」


 その否定で、幾分か落ち着けた。


「人間を?」


「俺もそうだったが、同族や、特に親族を殺したときに溜まる精神への負荷は、それこそただのストレスの比じゃないんだよ」


 後ろめたいことを話すような、そんな口調で続けた。


「お前はもう人を殺すことに対して、「理由さえあれば殺してもいいや」って、そんなレベルにまで堕ちてるんだよ」


「理由さえあればって……あぁ……」


 思い当たる節が、無いわけではなかった。


「それこそ魔族や悪魔憑きを殺すのにだって負荷はかかる。それは配属されたフューリタンが定期的に診てやるだけで取り除けるみたいだが、お前はここ1ヶ月フューリタンから離れて殺しまくっただろ?あの時だって、俺が来た時にはほとんど終わってただろ」


「でも……あれは放置して日本に帰る邪魔でもされたら面倒だし、そうなったらどうせ滅ぼすんだからいいかなって……」


 向こうの俺は頭を抱えた。


「はぁ…………ともかく、今のお前を向こうの世界に返すわけにはいかない」


「……嫌だ」


「このまま向こうに戻ったら、それこそ暴走しかねないんだぞ」


「そんなの、今暴走してないんだったら大丈夫でしょ」


「だーかーらー!…………もう、どう説明すればいいんだ…!」


 曰く。


 俺は今、目的が果たされていないという状況下にあることで、辛うじて狂気の中で正気を保って居られているのだと言う。


 それこそなんのこっちゃという話であるが、もしこれで向こうに帰って達成感を得てしまえば、これまで日本に帰るという目的のためと称して無意識化で抑え込んでいたものが一挙に解放されかねないと、そう説明された。


 やはり分からない。俺が一体何を抑え込んでいるというのか。


 強いて言うなら俺をこの世界に飛ばしたであろうあの2人に対しての怒りとかか。


 だが、あの2人はもう生きてなどいないだろう。


 そうなると俺は行き場を失った怒りを抱えて──でもそれは、適当に魔族でも見つけて発散すればいいのではないのか?


「その怒りだけじゃないって言ってんだよ。これまで殺してきた人間の怨念がお前の精神に纏わりついてるような状態なんだよ。これが全部消えるまで暴れ続けるのか?魔族だってそんな都合よく供給されては来ないんだぞ」


「…………それでも、俺は帰りたい」


「なぁ、話聞いてた?」


 目の前にいる俺から、魔力が発せられたのを感じた。


 俺も同じようにして、しばらくして互いに止めた。


 俺の方が優勢で、向こうの俺はこのままぶつかっても勝てないと察したのだろう。


 そうでなければ、最初にあったあの日に止めてただろうし。考えればそうだ、俺は危険だと思ったから逃げたわけだが、コイツからすれば、止められるのなら止めなければならなかったワケで、それをしなかったのはやはり、力量差の問題なのだろう。


「なぁ、どうしても、戻るのか?」


 問いかけるように、引き留めようというように、そんな声が聞こえてきた。


「俺もう1ヶ月以上失踪してるんだぞ。そろそろ帰らないとマズいだろ。それに、ここまで頑張って戻れませんなんてあんまりだろ」


「だが、もし向こうで暴れるようなことになれば、それこそお前が討伐される側に回るだけだ」


 向こうの俺は、淡々と、そう言い放った。


「暴れずに抑え込めばそれでいいんだろ?」


「簡単に言うけどな、それが出来なかったから俺は自分の世界を滅ぼしたんだよ。姉も親も友人も、全部まとめて殺し尽くしたんだよ」


 向こうは目尻に涙を浮かべて叫んだ。


「だから、もう二度とああはならないようにって……、そうやって今までやってきたのに、お前がそれを否定するなよ!ちょっと日本に帰るのが遅れるかもしれないからみたいな理由で、簡単に人を殺すなよ!

平然とするな!仕方ないみたいな態度をとるな!悪びれろ!申し訳なさそうにしろ!そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ──俺が、俺が皆を殺したのも、仕方ないなんて言葉で簡単に片付けられちまうだろうがッ!」


 言い切って、肩で息をした。


「流石に70億以上も殺して仕方ないなんてことはないと思うけど」


「数の問題じゃないんだよ、そういう話をしてるんじゃないんだよ……!なぁ、もう自分がおかしくなってることくらい分かってるんだろ?お前ならそこで一回止まるだろ、止まってただろ、止まれたハズだろ」


 向こうの俺はこちらに近付きながらそう言って、俺の肩を掴んだ。


「でももう止まらなくなってるだろ、止められなくなってるだろ。魔族も悪魔憑きも人間も同じだって、そこにあったはずの差だとか違いだとか、全部見ないフリして正当化してるだろ」


「……、例えお前の言う通りだったとしても、俺はお前のように世界を滅ぼしたりはしないよ」


 俺はその手を振り払った。そしてエリーゼに声を掛け、ゲートを開く準備を再開させた。


「なぁ、頼むから──」


「俺は2回も同じ失敗をしたりはしない。実績はないけど」


 俺はその声を遮って言った。


「冗談言ってる場合じゃ……」


 冗談じゃない。やっと帰還の兆しが見えたと思ったのにこの世界に留め置かれるなど、冗談じゃない。


「実績はないけど、自信はある。それに、失敗の原因が分かってるのなら同じ轍は踏まない。俺はお前と違って馬鹿じゃないから」


「…………頭のレベルは一緒だろ」


 確かに向こうの言うことに思い当たる節が無いわけではない。だが、この世界自体、俺の本来の生活とは何の関係もない世界なわけで、そんな世界の住人などハッキリ言ってどうでもよかったのだ。当然、ティリスら然り、カエラ然り、カトリーナ然り、その全てがそうというワケではなかったのだろうが、俺のああいった行動を、それを可能にしていた大きな理由というのはやはりそこにあるワケで、しかし、元の世界に戻ればそうもいかないだろう。


 俺とは関係のない世界の住人相手だから、向こうに戻るのに必要なことをしたまでで、俺だって日本を滅ぼすワケでもなければ、世界を滅ぼすワケでも、地球を滅ぼすワケでもないのだから、そう言う思考回路だってそのままにしておくワケにもいかないのだ。


 俺は自分の生活に目に見えて影響の出るようなことをするつもりはない。だとすればやはり、目の前のコイツの言うそれだって、結局は身内の死に耐えられなかったコイツの暴走でしかないと、俺は考えた──人を殺す事自体が悪かどうかを考えないようにしながら、俺はそう考えたのだった。


 そして、玉座へと上がるための階段に、靄のようなものが浮かべられた。


「はぁ…はぁ……これで、何とか繋げられました…」


 エリーゼは疲労困憊と言った様子で、ぜぇぜぇと息を荒らげていた。


「これで日本に帰れるの?」


「まぁ…一応そうだとは思いますけど…30分持つかどうかなので、早いところ入ってもらえますか?」


「……じゃ、俺行くわ」


「どうなっても知らないぞ」


「知らないってことはないでしょ。どうせどっかから見守ってくれるんだろうし」


「………本当に嫌な奴だな」


「そりゃまぁ、俺はお前だから」


「……なら俺は、お前の後始末を付けたらすぐに向かう。それまでに暴走してやがったら、その時はお前を殺してやるからな」


「……まぁ、無いと思うけど、頼んだ」


 俺は一歩ずつゲートに近付いていき、最後に訊いた。


「なぁ、俺の後始末って何?」


「勇者達、向こうの大陸に送ってやらないと可哀想だろ」


「なるほど」


 俺は再び歩き、ゲートの前でスマホを開いた。


 日付は10月4日、今日は流華先輩の誕生日だ──とは言っても、この時計が狂っていなければだが、今は大体お昼過ぎか。


 それならまだ、余裕で間に合うな。


 俺の身体は、静かに靄の中に溶けていった。

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