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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
異世界転移
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幼馴染

 今から20年ほど前の事、王国北西に存在するとある村に2人の男女が生まれた。


 男はアルフレッドと、女はギルと名付けられ、家も隣同士だったことから、兄妹か、あるいは姉弟かのように育てられた。


 アルフレッドは何に対しても好奇心旺盛で、12歳にもなると早くも武器を手に取って魔物と戦うようになった。ギルもそれに巻き込まれてではあったものの、なんだかんだで一緒に戦うことを選んだ。


 そこには、自分以外に背中を預けて欲しくないという独占欲があったこともまた事実であったが。


 しかし、そんな風にして戦い始めてから磨き上げた連携力はかなりのモノであり、15になるころにはそれだけでも、それなりの生活ができるまでには仕上がっていた。


 この王国では、15になると成人として扱われることになる。


 そうなれば自分の食い扶持は自分で稼がなくてはならない訳で、その手段を早いうちから手に入れられていたというのは僥倖であった。


 そうして15歳を迎えると、アルフレッドは今後の身の振り方を決めることとなった。


 このまま村に居ても、出来ることと言えば魔物の討伐や畑作業など代り映えのしないものばかりで、それが自分の望む将来の姿かと問われれば、到底頷けないものであったのだ。


 故に彼は切り出した。


 王都に出て冒険者になる、と。


 ギルは焦った。彼女はどこかその内心で、このまま自分たちはこのまま結婚でも何でもして、この村で細々と長々と暮らしていくものだと考えていたから。


 当然反発した。しかしその目は、かつて自分を魔物狩りに連れ出したあの時と同じもので、彼女は悟った。


 これは止められない、と。


 そこからの彼の行動は早く、彼女は決断を急がなくてはならなくなってしまった。村に残るか、王都に出るか。簡単にできる判断ではなかったが、結局、彼と共に王都へ出ていき、騎士団に入ることに決めたのだった。


 同じく冒険者になるという選択もとれたが、そこで彼女は照れ隠しのように、自身の想いをひた隠すように、彼とは違った道を歩むのだと言った。それでも同じく王都を拠点にしていれば一緒にはいられるはずだと、そう考えていたから。


 そうして、たまに村にやってくる商人の馬車に護衛を務めることを条件に乗せてもらうことにすると、彼等は王都へ向かった。


 王都へ着くと、その大きな門の前で2人は幾つかの約束をした。互いに強くなることを、夢を諦めないことを、困ったときはきちんと相談することを。


 ギルは騎士団の入団試験にはトップクラスの実力で以て合格。騎士団の上層からも一目置かれる期待の新星として活躍を始めることとなる。


 一方のアルフレッドも、冒険者としてとしての活動は組合に申請するだけで簡単に始めることができたのだが、そこで頭角を現すまでには、そう大した時間もかからなかった。


 なんだかんだで、お互い負けず嫌いだったのだろう。それからも定期的に会っては互いの功績を自慢し合うような、そんな関係が続いていた。


 しかし、言わなかったこともある。


 ギルは騎士団での活動の中、騎士団内部の腐敗や人間の黒さを目の当たりにし、自身の中で正義としていたものの脆さや儚さを思い知らされることになっていた。それでも自分は自分の道を行く、それを貫き通すのが正義なのだと、愚直に強さと正しさを追い求めていった。


 アルフレッドの中では、冒険者という存在に対して抱いていたかつてのイメージは崩れ去っていた。冒険とは名ばかりの単発バイトのような生活は、かつて村で魔物を狩っていた時と何が違うのかと、かつて描いた果てしない夢は、いつの間にかくだらない現実へと姿を変えていった。


 2人共、不満ばかりだったわけではない。


 ギルは民の生活を守る仕事に誇りを持っていたし、アルフレッドもいつ死ぬか分からない中で今を生きる仲間達の姿には楽しさを感じていた。


 そして、週末には2人で顔を突き合わせて酒を飲む、そんな生活は5年ほど続いた。


 ギルは騎士団で結果を着実に積み重ねていき、実力実績共に上位の存在に。騎士団長交代のタイミングも重なり、次期騎士団長はギルになるのではといった声さえ上がっていた。本来ならあり得ない事でもあったのだが、民衆からの知名度やその強さからも、その話は現実味を帯びたものであった。


 アルフレッドも入れ替わりの激しいその世界の中で実力を伸ばしていき、単独でそれなりの魔物を狩るようになると、王都の組合でも上位の冒険者として賞賛の目を向けられるようになっていった。収入も高く羽振りもよく、新人を気にかけては甲斐甲斐しく世話をする彼は、本来受けていたであろう嫉妬とも縁のない日々を送っていた。


 そんな中、王国建国二百年を記念した催しが行われることとなった。


 それは建国祭の中で行われる御前試合と、それに出場する一握りの戦士を選び抜くための予選大会。


 王侯貴族のための催しではあったものの、その予選を勝ち抜いて王達の前に出て名前を売ることが出来ただけでも十分儲けもので、各地からその話を聞きつけて集まり始めた出場者は相当数に膨れ上がっていた。


 王国騎士団での実力者であるギルは推薦を受けての出場が決まり、アルフレッドも仲間からの話を受けて出場することを決めていた。


 そこで彼らは改めて意識した。これまで自身の実績を語って聞かせることはあっても、直接対決として衝突したことは一度も無かったということを。


 お互い強さを求めて競い合っていたが、果たしてどちらが強いのか、それ自体は分からないでいたのだ。


 彼等は予選を勝ち抜いていった。当然、次期騎士団長を有望視されるギルは騎士団の名誉にかけて敗北など誰が許しても己が許さなかったし、アルフレッドもこんなところで負けているようではまだ見ぬ未知の魔物など到底相手にできないと、限られた御前試合への席を奪い取らんと迫り来る者共を薙ぎ倒していった。


 そして王国でも指折りの実力者が一堂に会すると、そこでまた一戦、二戦、と彼らは勝ち上がっていき、最後の最後、決勝にて2人は出くわすことになった。これまでのトーナメントでかち合わなかったのは何の運命かと、お互い同じようなことを考えていた。


 しかし、王侯貴族のいる御前試合が、ただの舞踏会と同じようにして動くハズなどあろうこともなく、その裏では、やはり権力者の都合による陰謀が蠢いていたのだ。


 アルフレッドはそうではなかったが、ギルはこれまでの戦いの中である疑問を抱いていた。


 敵が弱すぎたのだ。これが予選であれば、ピンからキリまでいろんな人間が集まるのだからと自身を納得させることもできただろう。しかし、ここにきてそんな感想を抱くのはどう考えたっておかしいのだ。


 確かにギルは強い。もはや騎士団の中では自身に敵うものなど存在しないという事は分かっていたし、そこらの人間に簡単にやられるようでは王国騎士は務まらない。その自覚はあったし、負けるつもりが無かったのはその通りである。


 しかし、所詮は人間だ。その強さにだって限界はあるはずだし、決勝に近付いて行けばいくほど苦戦を強いられるだろうと見積もっていたし、それ故対人戦に備えた訓練をここ最近は重ねてきたのだ。


 だがギルは決勝に進出するまでの戦いの中で、凡そまともな戦いというものが出来ていなかった。どれを取っても圧勝だったのだ。


 それも、他の戦士の戦いは見ていたのだ。その時はどの戦士も強敵だと、誰と当たってもいいようにその動きを観察していた。


 なのに、実際に自身が相対した彼らの攻撃ははその時の動きと比べて圧倒的に遅く鈍く、戦闘中であるにも関わらず、彼女は驚きのあまり動きが止まってしまった。動きを止めてもなお、彼女が負けるようなことは無かった。


 何故、どうしてこんなことが。そう考えたが、試合に対しての休憩時間が短いことがその原因であったりするのかと、それを何とか飲み込んでいた。


 しかし、その疑惑は決勝でアルフレッドと戦い、そこで圧勝してしまった事でより深いモノへと変わってしまった。


 そんな訳は無かった。大型の魔物でさえ1人で難なく狩ってくるという彼と戦って、圧勝など出来ようはずが無かったのだ。


 しかし、結果として優勝者はギルとなり、その実績をもって彼女は正式に騎士団長へと任命された。そんな流れる様な激動の日々の中で、ギルは真相を知ろうとアルフレッドを訪ねようと試みた。が、騎士団長としての職務がそれを許さず、彼女は彼に接触もできないままの日々が続いた。


 アルフレッド自身、控室から決勝に向かうまでに起きた自身の不調に気が付いていなかったわけではない。しかしそれ以上に、今まで競い合っていたギルに何もさせてもらえずに敗北したという事実が、彼を深い闇へと誘った。


 相手が彼女でさえなければ、自身が何者かによってその敗北を押し付けられたのだと認識し、それに抗議することは出来ずとも、腐ることは無かったのかもしれない。


 彼等は悉く不運であったのだ。


 それからしばらくして、騎士団長としての職務に追われることにも慣れてきたギルの耳にとある事件が舞い込んできた。


 それは王都での連続殺人事件。腕の立つ冒険者や傭兵、狩人や裏組織の人間など、いずれも荒事を生業とする人間が狙われたもので、本来であれば騎士団長にまで上がってくるような事件でもなかったはずなのだが、とうとう事件解決に乗り出した騎士団からも犠牲者が出始めたとのことで、ギルの耳にまで届いた次第であった。


 特徴は真っ黒な鎧にこれまた黒いロングソード。その身のこなしは騎士団長にも匹敵するのではないかと、その報告にはあった。


 彼女は、己が抱いた嫌な予感を振り払いながら捜査を進めた。


 そしてとある夜、彼女はアルフレッドと、考え得る限り最悪の形で再会した。


 連続殺人犯の正体はアルフレッドだったのだ。彼は悪魔に魂を売り払い、彼女の声すらもはや届いているようには思えなかった。


 そしてそのまま、2人は御前試合以来に衝突した。


 結果はギルの大敗であった。しかし彼は彼女を殺すことはなく、大怪我を追った彼女を見て歯噛みするようにして、結局そのまま王都から去って行った。意識の朦朧とする中、彼女が懸命に伸ばした手は、地面に向けて落ちていった。


 その後、ギルは戦闘の音を聞きつけてやってきた他の騎士に発見されると、アルフレッドの事は伏せ、連続殺人犯を撃退したと報告した。アレはきっと本人の意志ではないはずだと、そう考えての事であった。


 騎士団はその報告を受け、王都の民に対し、賊の撃滅を宣言した。そこに騎士団長の名前を大々的に使うことで、騎士団の名声をより高めようという思いもあったのだろう。ギルは自身の中にあった正義さえ歪んでいくような気がして、覚悟を決めることにした。


 アルフレッドを取り戻すと。


 彼女は置手紙1つで騎士団長の座を降りた。当然、そんなことは認められないだろう。


 しかし今の地位にいては自由に動くことなど儘ならない。アルフレッドは王都の外へと逃げてしまっていて、それを探しに行くのなら当然、王都に縛られ続ける騎士団長の席など邪魔でしかなかったのだ。


 そうして彼の知り合いなどに話を聞いていきながら手掛かりを集めていくうちに、彼女は王都に来たあの日から、あまり彼の事を知れていなかったことを知った。彼がこの5年の間に何を考え、何を目指していたのか、彼の話だけでは分からなかったことがこれでもかと出てきた。


 ギルはアルフレッドが辿ってきた道をなぞるようにして彼の足取りを追っていき、半年が経ったある夜。王都から東に進んだところにある霞の平原にて、再び彼と出会った。


 やはり声は届かない。しかし、前と違って攻撃は届いた。


 以前の雪辱を果たすため、唯一無二の存在を取り戻すため、彼女は攻撃を叩き込んでいった。その攻撃には思いを乗せて。


 両者一歩も引かず、月光の下剣を振るい続けた。


 しかし己の不利を悟ったか、アルフレッドは彼女を吹き飛ばすと獣のような勢いで逃亡した。


 平原を転げまわったギルは、ここで逃がせば今度こそお終いだと、既にはるか遠くに逃げてしまった黒い鎧を追いかけた。


「どこに行った、アルッ!!────っ!!」


 しばらく探し回った彼女が見つけたのは、アルフレッドと、それ以上の実力を持つであろう1人の少年の姿であった。

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