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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
異世界転移
176/246

幕間 宰相と部下 参

「今度は何だ」


「グラトニア共和国が滅亡しました…」


「…………」


「…………」


「そうか……」


「え、それだけですか?」


「それだけとは?」


「いえ、その……もうちょっとリアクションとかないのかなって……思いまして……」


「あっただろうな。だが、どのような反応をするのが正解なのか、儂にはもう分からん」


 そんなため息交じりの宰相に、部下の男は一瞬崩れた姿勢を正し、報告を始めた。


「……では、改めて報告いたします。先日王都からも観測できました巨大魔法の連続行使でしたが、その影響によりグラトニア共和国が滅亡、派遣しました調査隊によりますと──」


 山が崩れ落ち、消し飛ばされ、川が荒らされ、その水が枯らされた。森は木々が圧し折られ、草木は燃やされ、鉱山は溶かされ、各地では地が裂け、大穴がいくつも開いていた。


 街は無残に破壊され、人はおろか魔物や野生動物すらその影がなかったとのこと。


 その日は巨大な光線が伸び、雷が豪雨の様に降り注ぎ、辺り一面が燃え盛り、天からは炎を纏った礫が降り注いだという。


 滅亡、という言葉で表すにはまた少し違った状況である。


 これが天罰でもなければ何だというのか、宰相は頭を抱えた。


「これは──エルゼとやらによる仕業なのか?」


「それが……分かりません。勇者一行を離れ赤竜を討伐したところまでは報告しました通りですが、それ以降、どこでどのように行動していたのかを掴めておらず……ただ、グラトニア共和国では謎の飛翔体が魔法を放っていたというのが目撃証言にありました」


「……これだけでは分からんな」


「ですが、赤竜を倒したというのなら、これくらいの事は出来てしまうのでは?」


「そんな存在がこの大陸にいるというのに、お主は気楽よの」


「死ぬとなれば抗うだけ無駄ですからね。何をしたら国を滅ぼされるのか分かりませんが、そうならないように努めるのが我々の仕事でもあるわけです。精々頑張りましょう」


「我々の責任で明日を生きる者がいるというのは、心労も大きいな」


「ですね…」


 彼等は今日も淡々と、暗澹たる思いで仕事に励む。


 △▼△▼△▼△▼△


「おい。国軍総司令官は捕らえられたのか!」


「すみません、今朝突入させた頃には既に逃げ出していたようでして…つい先ほど王都北部にその姿を確認したとのことで、兵を向かわせております。その際にこれまでの不正の証拠が次々────」


 別日。彼らは険しい顔を突き合わせていた。


 騎士団内部での不穏な気配は、ついにその姿を現すことになった。


 騎士団の一派が他国や魔族と通じて謀反を企てていたという情報が、グラトニア共和国との国境付近を治めるザッコ伯爵領から齎された。


「なぜ今の今まで何一つ情報が来なかったのだ!!」


「それが、こちらの送り込んでいた人間が軒並み排除されており、向こうの情報がこちらに届かないよう情報統制されていたようで…!」


「クソっ……ええい!今はどうなっている!」


「えぇ……ザッコ伯爵領における重要拠点となっておりました鉱山を占拠していた四魔将の1人は、鉱山の崩壊とともにその姿をくらませたようです」


「よ、四魔将だと…!?魔王軍の重鎮も重鎮ではないか…!」


「都合よく手を組んでいたということでしょうか。そのせいでザッコ伯爵家も騎士団が大胆に動いていることにまで目が向いていなかったとのことです」


「ぬぅ……なんと忌々しい…!民を守らねばならぬはずの騎士団がクーデターと…ふざけおってからに…!」


「お、落ち着いてください…!」


「落ち着いていられるか!…………ん、待て、鉱山の崩壊といったか?」


「え、あ、はい。鉱山がバラバラに崩れ、そこには人2人分ほどの高さの大穴が開いていたそうです」


 宰相は少し考え、尋ねた。


「……のぅ、お主。その魔族を撃退したのは誰だと思う?」


「えぇと…………まぁ、その当人ですが。どうやらここ数日はザッコ伯爵家の令嬢を領地まで護衛するために、東の街道を移動していたらしいというのが判明しております」


「ではあれか?グラトニア共和国が滅んだというのは、令嬢を護衛し送り届けた先で魔族を討伐し、その際にクーデターの計画を掴んだその結果だと?」


「…………恐らくは」


 宰相はやはり頭を抱えたが、それとは別に考え付いたこともあり、少しばかりその顔から険しさが抜けた。


「……これまで水吞伯爵などと蔑まれておるのを見てきて、何とか出来ぬものかと考えてはおったが、これはいい機会になるやもしれんの」


「と、言いますと?」


「此度のことが露呈したのは紛れもなくかの伯爵家からの情報提供があったからだ。その功績を認め、陞爵でもさせようという話よ」


「ですが、それは……」


「考えてもみよ。これは只の推察でしかないが、かの少年、エルゼと伯爵家は懇意にしておる可能性がある。そんな彼らに対し、今回王国は到底言い逃れのできぬほどの大失態を犯しておるのだ。対応を誤れば、次のグラトニア共和国はこの王国になるぞ」


「……なるほど。ですが他の貴族へはどうしましょうか。騒ぎだす者も出てくるかと思われますが」


「そんなものは黙らせろ。ザッコ伯爵家はこの王国貴族の良心ともいえる存在だ。貧しくても決して民に重税を課すような真似をせず、その打開策を懸命に模索することができる、高潔で、貴族の本来あるべき姿だ。そんな者達を失えば、そういう貴族もいるのだという事を民に示せねば、この国は終わる」


 宰相は長く、細く息を吐いた。


「かつてこの大陸に現れた漆黒の魔人もそれはそれは恐れられたものであったが、今回のはその1つ2つ上を行くな。全く、この年になって時間を忘れるほど忙しくなるとも思わなかったわ」


 宰相は天井を見上げる。最近はよく見る天井だ。仕事中に天井を見る機会が増えたというのは彼自身笑ってしまいそうになるような事実であった。


「その……漆黒の魔人も、エルゼという少年も、そのどちらも人族の味方ではない……のでしょうか」


 部下は心配そうに尋ねた。今回の一件だけを見れば彼は王国の味方と言えたのかもしれない。


 しかし、一国を滅ぼすような存在を都合よくみることなど出来はしない。


「さぁな。人も魔も、魔人にとってどれだけの価値を示せるかでその未来は決する。というだけの話だろう」


 宰相はそう答え、クーデター未遂の後始末を進めていく。


 行方知れずの騎士団長が男を連れて帰ってくるのは、これから少し後の事であった。

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