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詰問

 帰ってきてからというもの、北海道から直帰してきた俺は姉に詰め寄られていた。


「ねぇ、どこで…何してたのかしら?」


「いやぁ…そのぉ…吹雪がやんだから…友達と雪合戦を…ね?」


 しどろもどろになりながらもなんとか言葉を返していく。


 しかし。


「そんなわけないわよね。私、帰りもあんたで暖を取って帰ろうと思ってすぐに教室に行ったのよ」


 やられた!


 そう内心悪態をつく。ここからどうすれば切り抜けられるのかを考えながら。


 吹雪が止んだとはいえ、部屋の中含めて未だに涼しい。


 だというのに、体のあちこちから汗がとめどなく流れ出ていて、自分が相当焦っていることを嫌と言うほどに自覚させられた。


「へ、へぇ…!?あ、じゃぁ…もうその時には入れ違いに…」


「あんたの友達も、いつの間にかあんたがどこかに行ったって探してたわよ」


 適当に誤魔化しといてくれよ!俺が何してたか、真はともかく傑……というよりルルは知ってたはずだろ!


 なんて、思ったところで何も始まらない。ジュースが床に零れた時、須らくは雑巾を持ってきて床を拭くことであって、ジュースに戻れと念じることではないのだ。


「あひゅっ!い、いやぁ、その、ねぇ?今日は…別のクラス──」


「に、友達なんていたかしら?」


 い、いるけど!?いますけど!?


 何でこの人の頭の中では俺が狭い交友関係しかない人間だと断じられてるんだ。失礼過ぎるだろう。


 そりゃ、そんなに多くはないけどちゃんといるし。いる……いるもん。


 というかそもそも、なんで俺の交友関係把握してんのこの人は。怖いっていうか、ここまでくるともういっそ気持ち悪いんだけど。


 そんな時、視界の端に我関せずと胡瓜を齧るエルゼの姿が見えた。


 アイツに頼んで記憶を弄ってもらおうか。認識阻害…じゃなくて、なんかもう1個あったはずだ。


「!」


 そうだ、思考誘導だ。それがあれば俺の不自然な行動も自然なものとして認識させられるはず…!


 そうと決まればとエルゼにアピールするも、全然気が付く気配がない。


 あの穀潰しめが…!どうする…?


 恐怖で思考が纏まらず、緊張で胃が痛み、呼吸が少しずつ荒くなっていくのを感じる。


 こんなことなら行く前にちゃんと考えておけばよかった。


 クソっ!


 もう既に言い訳を看破されてしまっている時点で、ココからどんなに辻褄の合ったこと言っても嘘としか思われない…!


 いや実際嘘なんだけども…!


 詰んだというやつなのだろうか。でも詰んでたとしてこっからどうすれば納得するんだろうか。


 北海道に行ってましたって言うのか、言えるはずもない。言ってどうなる。


「…………」


 うおぉぉぉ!!!そっちの面でも詰んでるぅぅぅぅ!!!


 考えろ、取り敢えず有耶無耶にすることを考えるんだ。もう納得させるのは無理だ。かといってバラすわけにもいかないし、バラしたとて「はいそうですか」なんて言うはずがない。


 なら最終奥義のアレ、やるか?我が姉直伝のアレ。


 俺が偶に姉を責めると見せてくるあの必殺技。


 ──そう、逆上を。


 この人と同じところまで落ちるのも癪だし、普通に嫌なやり方ではあるものの、この状況ではそれより他に道がない。あったとしても今の俺には思いつけない。


 そう判断した俺はタイミングを見計らい、自然な流れで逆上できるタイミングを狙う。


 そして。


「そ、そもそもさ、別によくない?俺がどこで何してたとしても。姉さんだってどっか行ってこのくらいの時間に帰ってくるなんてこと普通にあるのに」


 少し強めに、拗ねた様に言い放った。


 それとこれとは違うことくらい分かってるはずなのに、凄く嫌な言い方をしたと自分でも思う。


「そう…かもしれないけど!今日みたいな日にいきなりいなくなったら探すに決まってるでしょ!」


 それはそうだ。逆でも流石に心配する。こっちは魔法が使えるから何もないことは分かっているけれど、この人はそんなこと知らない訳だし。


 何かあったと考えるのが普通で、そう考えられないのは普通じゃない。


「……だとしても、俺の交友関係とか把握したりして俺の一挙手一投足追っかけてこられるのは嫌なんだけど」


 まただ。


 確かにこの間から異様に帰りが遅くなったりするのを咎めたりしてたけど、アレだって別に嫌がらせだったなんて思ってない。


 昔から割とそうだった。何が心配なのかはよく知らないが、そんな言葉が口から出てしまった事を少し後悔した。


 そしてそれを聞いた姉は激昂し、詰め寄ると、


「私は…ただ、一緒に帰ろうと思って…そしたらいなくなったっていうから心配だっただけで……っ、もういいっ!!」


 最後まで言い切る前に行ってしまった。


 やっておいて言うのもなんだけど、やらなければよかった。普段やられる側でしかないが、これはなかなかどうして、いざやってみると気分が悪い。


でも俺は普段姉に逆ギレされてもあんな風には……と、そこまで考えてやっと気が付いた。


「…………あぁ、違う」


 普段俺が責めるのなんて大抵、俺が買ってきて置いておいたモノを勝手に食べられてそれを問いただすくらいのもので、言ってしまえばくだらないことでしかない。


 俺だって内心、食われたら食われたで文句言って終わりで、そんなに重く考えてはいなかったんだ。


 いや、そもそもそれ前提で、食べられることも想定内で買ってるんだ。だから選ぶとき、自ずと姉の好きそうなものを選んでいたくらいだし。


 だけど、姉が最近俺にしてきた一連のアレは、きっと、いや絶対に、そういうものじゃない。


 俺に対してやけにうるさくしていたのは、そんな想定内の掛け合いのようなものではなく。


 あれは、きっと。


「──心配。ですねぇ……」


 と、エルゼがそんなことを言いながら、飄々と近づいてきた。


 元はと言えば、こいつが俺のアピールに気が付かなかったせいでああなったとも言えるのだが。


「お前ぇ……」


「事情は事情ですが、どちらにせよ僕にできることはありませんでしたよ」


 気が付いたうえで無視したのか。


「あー、絶対怒ってるよなぁ」


 いや違うな、悲しませたんだろうな。


 気が重いなんてもんじゃない、明日にでも謝らないと。


『人を叩いた夜は寝られぬ』その言葉の意味を改めて知った、そんな夜だった。




そしてその翌日、姉が家から消えた。

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