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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
異世界転移
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襲撃

 俺がいないうちに村が報復を受けたらどうしようかとも考えたのだが、そもそも盗賊の拠点とあの村──違うな、あの村はザット村で、さっきの村はディス村か。


 面倒臭い名前してるな。


 それはさておき、この2つの村は本来2日程の距離がそこにはあるわけで、それなりに近いともいえるのだろうが、それなりに遠い。


 少なくとも、さっきの出来事が盗賊団の本部に伝わるまでには時間がかかる。誰が伝えるのかという話でもあるのだが、ああいう集団には必ず連絡役がいるはずだ。何かあったとき用の報告をする者がいない、なんてことはないのだろう。


 俺がこうやって寝る前の運動みたいな感覚で盗賊団を壊滅させに行けるのも、ひとえにこういう存在だからに他ならない。念のための策を打っていない訳ではないが、さっさと終わらせるに越したことはない。


 俺は夜の平原を、人が踏んだことでできた畦道をなぞりながら、静音を心がけて進んでいく。


 1つ心配事があるとすれば、俺が果たして盗賊かそうでない人かをちゃんと判別付けられるか、なんだよな。疑わしきは罰せよ的な感じで殺して回った場合、全滅は不可避だろう。


 いかにもな感じであれば分かり易くていいんだけど、たまたまそいつが盗賊に気に入られて一緒にお酒飲んでましたとかだと、俺はその時点で仲間かどうかが分からなくなる。


 まぁ、1人2人なら別にいいかなとか考えないワケじゃないんだけど……不幸な事故はなるべく減らすべきだと思うし。


 もし盗賊がシレッと助けられる側に回っていた場合に関しては周りの奴らが勝手に袋叩きにしてくれると思うのだけど、盗賊の側に紛れ込んでいた場合、裏切者として吊るし上げられる可能性もなくはないというか。


 いや、それは俺の考えてやることでもないのか。


 俺が考えるべきは、さっきの村や他の村に囚われていた人が帰っていくときに、その中に盗賊が紛れ込まないように徹底することだけで、そこから先はそいつらに任せれば、それでいいのか。


 少し進んでいくと、まだかなり先ではあるが、明かりらしきものが見えてきた。


 辺りが月明かりくらいにしか頼るものが無い程に真っ暗なこともあり、その赤々とした光はやけに目立って見える。


 もう少し進むと、人の騒ぎ声のようなものが聞こえた来た。何時だと思ってるんだ。


 俺は少し速度を上げ、騒いでいた連中の丁度ど真ん中目掛けて、辺り一帯を破壊しながら突っ込んでいった。


 すると、騒ぎ声の色が変わった。当然だ。


 各々が武器を構え、警戒態勢に入る。この距離に入られている時点で警戒も無駄だとは思うが、それでもそうしてしまうのが人間という生物か。


 俺は渡されていた手配書を取り出すと、周りで俺を取り囲んでいた連中と見比べていく。


「……こいつらじゃなさそうだな」


「て、テメェ!何者だっ!」


 たまらず1人が吠えた。


「手配書の奴は生かして……それ以外は皆殺しにして……ま、今夜中に終わるかな」


「み、皆殺しだと?おめぇ、ここがどういう場所か分かってねぇみてぇだなっ!」


 そう言って飛び掛かってきた勇気ある盗賊第一号は、その瞬間に首から下が消え去った。


「手配書の似顔絵結構雑だしな。分かるまではとりあえず置いておかないと」


 俺は一応再度確認をし、記されている特徴と合致しないかを確かめた。


 最初に突貫してきたところを見るに、どうやら気にする必要もない木っ端みたいだが、それでもという可能性はある。


「なっ……このガキっ!何しやがる!」


「ねぇ。この手配書にある奴どこにいるか知らない?お前じゃないよね?」


「どういう状況か分かってんのか!」


「どこにいるのかって聞いてるんだけど」


 そうして問答していると、俺の足元に影が見えた。そちらを見ると、かなり大柄な男が歩いてきていた。


 巨大な鉈の様な武器を担いだ、右半身に火傷の跡が目立つ大男。


「おいおい、こりゃいってぇどういう騒ぎだ?」


「あっ!ギリンの兄貴!」


 ギリンと呼ばれたこの男は、俺と、足元に流れた血を見て、大体どういう状況下は察したらしい。


 それから、配下の男どもに俺が賞金首を狙いに来た刺客だと告げられると、大声で笑った。


「おい坊主、腕に自信があるのか知らねぇがよ。ここはテメェみてぇのが1人で来てどうにかなるような場所じゃァねぇんだ」


 右目の下の切り傷、右半身の全体的な火傷痕。そして手配書の似顔絵と名前。コイツはまず1人目を見つけられたと見て間違いなさそうだ。


「今俺様は酒が入って気分がいい。今すぐ俺様の視界から消えな、特別に見逃してやる」


「へぇ……視界から消えればいいの?」


「あぁ。やり合うっつうのも楽しそうだがよ、今は酒の席だ。水差すんじゃねぇ」


「酔い覚ましにはやっぱり水が一番だと思うけど」


 ステッキを剣に変化させると、顔目掛けて真横に薙ぐ。


 横一文字に赤い線が入り、目から血が噴き出た。


「ぁぁあああっ……がぁっ!クソっ…て、テメェ…!」


「視界から消えてやったけど。……いや、これはどっちかって言うと視界を消したの方が正しいのか」


「ふ、ふざけてんじゃねぇぞ!テメェら!やっちまえ!」


 その声で迫り来る下っ端共を見た。


「──お前らは視界からじゃなくこの世界から消してやるからなァッ!」


「死ねやぁぁぁぁああああ!!!」


 そうしていくつもの首が飛び、血が噴き出て舞い散った。


 暗闇の中、幾つもの首が椿の花弁の様に落ちていくのを見ると、いまだ明かりがついたままの建物を目指して歩いて行った。


「こんにちは~──こんばんは、か。どっちでもいいや」


 向こうも当然こちらの存在は認知していたらしく、盗賊らしからぬ防御陣営が構築されていた。


 手配書と見比べながら見ていくが、前に出てくるような奴はさっきのが特殊だっただけだと、俺は前に進んでいく。


 200人規模だって言ってたけど、多分増えてるな。


 盗賊団とは言え、この人員まで膨れ上がるとそれで1つの企業のようになっていくわけだが、頭目はこれをどのように纏めているのだろうか。法とか秩序のない荒くれの集団を、それを従わせるカリスマなり力があるということだよな。


 負けることもないだろうが、決して油断はするまい。


「だからとりあえず……」


 俺は櫓を見上げた。さっきからちょこちょこ矢を放ってくるのはあそこか。


「スターライト・レイ」


 ジュンッと、それなりの高さのあった櫓は消失した。上に2人ほどいたが、手配書の特徴とは違っていたし、まぁいいだろう。


「お尋ね者を探してるんだけど」


 こちらから姿を確認できた何人かに呼びかけてみたが、返事はなかった。


 仕方ない、自分で探さないといけないらしい。


 そう思っていると、それなりに大きな岩が落ちてきた。


 投石器か何かで放ったのだろうか。それを砕くと、欠片を門に投げつけていき、穴を開けていった。


「おぉ……」


 野球選手のようなフォームで投げ放ったその岩が、門番のようにしてこちらを見ていた男の頭と入れ替わった。


「新しい顔よって、元気は0倍固定だけど」


 俺は穴だらけになった門から中に侵入した。千鳥足であったが、それでも盗賊たちは武器を構えていた。


 不意打ちを掛けようと飛び出してくるものから首を落としていく。


 本人確認ができないと報奨金が出ないとのことで、間違っても顔だけは消し飛ばすわけにいかない。そう考えると、さっき目を潰したのは間違いだったかな。


 本人確認くらいはできるだろうけど、何せあの似顔絵、似顔絵とか言うくせして全然似てないからな。


 日本でも、似顔絵で捜査をしたりするっていう話でその現物のようなものを見たことがあるけれど、それはまだ幾分か似ているように思えたし、そこから監視カメラの情報などと照らし合わせるわけだから、それ自体は特長さえ掴めていれば、大まかでいいのだろう。


 だがこの世界ではこの似顔絵が唯一の手掛かりだというのに、その似顔絵の方があまり機能していない。


 頭の形とか髪型みたいなのはこれでもいいのだが、細かい特徴は結構大雑把で、メモみたいなものに頼りきりだ。


 だから最初俺は困った。文字読めないし。あの老婆が文字を読める人じゃなかったら詰んでいたかもしれない。


 首がボトボトと落ちていく中を歩いていくと、いかにもな男たちを見つけた。


 そのうちの3人は手配書の人相そのままであり、俺はほくそ笑んだ。やっぱり固まってるもんなんだな。


 他にも有象無象はいるみたいだが、別段問題になりそうなのは見当たらなかった。


 ただ、ふと思った。


 囚われている人とか連れ去られた労働力がいるという話だったハズだが、それはどこにいるのかと。


「あとで探せばいいか」


 訊いても正直には答えないだろう。それがこういう連中だ。


 それにここはこういう世界だ。向こうとは違って、尋問したくらいでは何かを吐くこともないだろうし、自分で探すしかないのだろう。


 連中は剣を構えた。ボス連中はそれなりにやれそうだが、周りにいるのはダメだな。


「テメェ!どこの者だ!シャキル団の手練れか!?」


 シャキル団?よく分からないが、敵対勢力的なモノなのだろうか。


「違う」


「だったら何者だ!」


「あれ、聞いてないの?賞金首を狩りに来たんだけど。あとついでに皆殺しに来た」


「ハッ…!やれるもんかよ!」


 俺は驚愕した。


 連中の攻撃をすべて無効化したうえでここまで来ているのに、未だに何も理解できていないのだろうか。流石に頭が弱すぎやしないだろうか。


 そう思ったが、ただ、力のあるものに従っているような人間なんて大概はそんなものかと、思い直して納得した。そういう意味で、あれは場合によっては自分がなり損ねた未来なのかもしれないと思うと、あまり笑えない。


「優れた魔法使いだか何だか知らねぇがな!これだけの数に勝てるわけがねぇんだよッ!」


 ぞろぞろと出てくるのは筋骨隆々の男共。アメリカの刑務所とかはだいたいこんな感じのイメージがある。


 数としては……いっぱい。多分50人以上はいるのだと思う。この広いとも言えない建物内に。


 俺は周囲を見回し、顔を見ていく。


 違う、違う、違う、違う。全員違った。


 それを確認すると、回るように、踊るようにして剣を薙ぎ、そいつらの身体を上下に両断した。


 次々に崩れ落ちていき、建物内が真っ赤に染まっていく。残ったのは手配書の3人のみ。


「ひぃっ……!」


 俺はビチャビチャと足音を立てながら進んでいく。


「ねぇ、ボスは?囚われてる人は?宝は?どこ?」


 俺は未だ、この盗賊団の首魁を見つけられていなかった。


 逃げたというのであれば周囲一帯を飛び回ればいいだけなのだが、隠れられただとか、地下に、どこかへ通じる隠し通路があったりすると厄介なこと極まりない。期待などしているわけではないが、それでも吐いてくれるなら教えてもらった方が早い。


 だから俺は、彼らが物言わぬ屍になる前に尋ねた。


「お、教えたら助けてくれるんだよな?」


 そう返された。俺は答えた。


「協力してくれるっていうなら……」


 そう言いかけて、彼らはすぐにある一点を指差した。ただの壁のようにも見えたが、どうやら隠し部屋があるようだ──しかし、人の話は最後まで聞くべきだな。


「苦痛なく殺してあげる」


 右にいた男の意識を刈り取り、首を飛ばした。手配書の名前は確か……ラックだったか。名前に反して運がない。


「た、助けてくれるんじゃねぇのかよ!騙しやがったな!」


 そう叫んで切りかかってきたのは左の男。こいつの名前は……あぁ、そうだ、ロ-ヴィルだったか。明日には忘れてそうな名前だな。


「言い終わる前に勝手に吐いたのはそっちでしょ」


 俺は言った。しかし、殺さないなんて言ってない。


「裏切者には死を!」


 男の身体が斜めにずれた。狙いを少しミスったな。首以外のパーツはいらないんだけど。


「この野郎!」


 最後に残った真ん中の男が斬りかかってくる。


 コイツはジルベスタとか言ったか。盗賊らしからぬ名前だ。


 俺はその剣を避けなかった。指の腹でその剣の軌道を少しだけずらすと、剣は勢いよく床を叩きつけ、木の床に突き刺さった。


 すかさず俺は腹を蹴り上げる。骨の折れる感覚がした。肋骨が内蔵にでも刺さったのか、男は呼吸を荒くしながら血を吐いた。


 放っておいても死ぬだろうしと、ボスを探しに奥の壁を打ち抜き、隠し部屋を露わにした。


「風の通りをよくする。これでエアコン代も節約できるわけだ」


 ま、この世界にはそんなものはないのだろうけど。


 俺は元隠し部屋に踏み入った。

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