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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
異世界転移
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聖剣

 俺はおっさんの両腕を掴み、空を飛んで元の場所にへと戻っていった。


 道中は白目を剥いたハゲのおっさんが万歳のまま空を移動するというなんとも間抜けな姿を晒してしまったわけだが、無事こうして戻ってくることができたのだし、誰も見ていないのだからいいだろう。


「あ、ティリス。もう戻って来てたのか」


 空から山に近付いていく途中見えたのは、鍛冶師の小屋に向かって歩く少年と勇者たち。


 小屋は扉を中心に破壊されており、恐らくはこのハゲさんが攫われたときに壊されたのだろうが、見るも無残な悲劇的ビフォーアフターであった。


 どっちにしろ建て替えの時期だったのかもしれないが、ああもズタズタに破壊されているのを見ると心が痛くなる。


 そして俺はいつの間にか意識を取り戻していたおっさんと、勇者たちの背後に降り立った。


「ティリス、ハゲ攫われてたから連れて帰ってきたけど。………?」


 勇者達は俺が話しかけているのをガン無視し、少年と会話していた。


 この距離だ。流石に聞こえませんでしたなどと言うことはないと思うが……いじめか?新手のいじめなのかコレは。陰湿なのはやめて欲しいんだけど。


「おっさん、こいつら酷……おっさん?」


 振り返ってハゲに話しかけると、輝く頭とは対照的に、その眼は光を失い、虚ろになっていた。


 こちらも俺の声には反応しない。何かがおかしい。そう思ったが、取り敢えずは勇者たちの会話を聞くことにした。


「なるほど。大分無残に破壊されているみたいだね」


「そうなんです!黒くてデカい鳥みたいな魔物が!師匠は聖剣を作る大罪人だとか言って連れ去っちゃったんです!」


 真後ろにいますけど。めっちゃ目合ってるでしょさっきから。


「黒くてデカい鳥……クロコンダルかな……」


「クロコンダル?ありゃ魔の森に棲む黒鉄の烏だろ?こんなところにいるとは思えないが…」


「それに、魔物が喋ったっていうのもちょっと変」


「だね。聖剣の事を知っているということは、本当の狙いは僕たちだったのかもしれないし」


「それは……もうすでにこの大陸でも魔王軍が動いている…?」


「かもしれないね。なんにせよ、ガランさんを早く助けに行かないと」


 だから真後ろにいるんですけど。


 死んだ魚みたいな目でめっちゃ見てるよお前らの事。「ここにいるんだが」みたいな感じで。陰湿ないじめは良くないよ。


「頼むよ…!師匠が連れ去られたのは東の棄てられた村のある辺りらしいんだ!師匠を、師匠を助けて……!」


 …………何なのコイツら。


「ガランさんの事、心配なんだね」


「あぁ…!師匠は気難しくて、強情で、融通の利かない頑固おやじだけど!」


 いいのか少年、めっちゃ後ろで聞いてるけど。融通の利かない頑固おやじとか言っていいのか?


 多分この人の事嫌いなんだろうな。一人前として扱ってくれないからか知らないけど、だからわざとこんな聞こえるような距離で色々言ってるのかもしれない。


 そりゃ目も虚ろになるわ。俺だってこんな真正面で堂々と悪口言われたら同じような反応すると思うもん。


「それでも!俺の事を実の子供みたいに大切にしてくれてることは、俺が一番分かってるんだ!だから、だからお願いします!」


 そう言って少年は頭を下げた。なんだ、別に嫌いじゃないんだな。じゃあ尚更何でだよ。何で無視して悪口言うんだよ。


「分かった。僕らもガランさんがいないと聖剣を手に入れられないんだ。責任持って救出してくるよ」


 だからもう助けてるんだけど。


 ねぇ、もう気が付いてるでしょ。もうそれは絶対に視界に入ってるでしょ。止めた方がいいってそれは。良くないってそういうの。


 振り返って東を見たティリスに、少年は嬉しそうな顔を上げた。


「……!ありがとう、勇者様!師匠を頼みます!…………おぉ!勇者様!師匠を助けてきてくれたんですね!」


「は?」


 思わず声が出た。いつまでこのコントを続けるのだろうと思っていたところで、少年のこのセリフだ。


 誰も一歩も動いていないのだが、どうやら勇者に依頼されたハゲ救出は達成されたということらしい。


 なんなの今のこのやり取りは。


 俺はとても気味が悪いものを見た。全身、肌が粟立つのを感じた。


 そこでようやくハゲの目にも光が戻り、そこから聖剣の製作が始まった。


 半日もあれば出来上がるとのことで、俺たちは一度山を下りようとしたのだが、1つ忘れていたことを思い出し、少年に話しかけた。


「あ、そうだ。おい、取ってきたけど。これでいいの?」


「あ、おお……これが……これが竜の爪!ありがとう!」


 それなりに重さはあったはずだが、少年に渡すと、それを軽々しく掲げて見せた。


 光に照らされた竜の爪がキラキラと輝く。


 俺の分も取っておくべきだったかな。


 ………………今からでも遅くないか。


 △▼△▼△▼△▼△


 俺は考えていた。


 何のことについて考えていたかなどは、言うまでもないだろう。


 先程ガン無視ぶっこかれた件だ。あれはどう考えてもおかしな事態だと言えたのだが、その時のことを聞いてみると──


「ねぇ、なんでさっきみんなして俺の事無視したの…?ああいうの普通に効くからやめて欲しいんだけど……」


「ん?何のことだい?」


「…………」


 ──と、そんな風に返された。あれはマジでとぼけてるとかそんなのじゃなく、俺の質問の意図が理解できていなかったのだろう。他の3人に聞いても同じような反応であった。


 どうだろう、俺は自分で他人に誇れるほど善性の人間ではないつもりだが、それはそれとして、彼らにそこまで嫌われるようなことをした覚えもない。


 なんなら料理を作ったりとかいろいろしているのだからそれなりに恩は売れているのではなかろうか。


 それにも関わらずこの仕打ち。しかも気にかかるのは、俺だけじゃないということだ。


 あのハゲ、ガラン。あれもあの場で俺と同じように無視されていた。まるで何かその空間から押し出されたかのように。当事者なのに蚊帳の外というヤツか。


 何でもいいのだが、要するに、俺達は全くと言っていい程に認識されていなかったのだ。


 あの瞬間だけ俺に認識阻害が掛かっていたとは思えないし、あの魔法はそもそも人を巻き込むことはできなかったはず。


「何で……何でだ?」


 魔力か何かで勇者達の意識を操作されたとかなら理解もできるのだが、そういった魔力の動きがあったわけでもなし、会話が一通り終わった途端に、何事もなかったかのように俺達のことを認識できるようになっていた。


「うぅぅむ」


 そうやってグルグルと同じことを考えていたころ、宿に少年がやってきた。


「出来たよ!聖剣!」


 その声に全員が立ち上がった。考え事をしていたはずの俺もだ。


 時間帯としてはもう随分と遅かったが、俺達はいてもたってもいられず、山を登り始めた。


 俺も俺で、やはりどうにも聖剣と呼ばれるだけの代物をこの目で見ておきたかったというのがある。


 どんな姿なのか、とか。


 そういえば、神剣と聖剣。この2つならどちらが上なのだろうか。


 俺は山をフワフワと登りながら考えた。名前の響き、というか文字的な所を見れば神の方が上なのだろうが、あの神剣はどこがどう神なのか分からない。神器的な感じなのかな。


「………………」


 不便だな。俺はただそう感じた。こういう時、エルゼにでも聞くことが出来れば解決したのかな。


「エルゼ、着いたよ」


「……っ!?……あ、あぁ……」


「…………?」


 ティリスから声がかかった。小屋は損壊したままだが、作業自体は出来たらしい。


「おう!来たか!」


 瓦礫の中からハゲが出てきた。これぞ初日の出。


 その右手には翠色の刀身の、黄金の光を放つ剣が握られていた。


 アレが聖剣か。聖剣ってもっと白く輝くものだとばかり思っていたのだが、どうやらそれは俺の勝手なイメージらしい。


 アレがあれば魔王たちに攻撃が届くという…そういう武器だったか。


 …………あれ?


 ならこの勇者パーティーって勇者以外は攻撃しても意味ないのか?


 いや、アリサは前衛として攻撃を防ぐという役割があるし、リリエッタは回復だとか支援魔法を掛けるという役割がある。


 しかし、マリエルはどうだ?道中はその魔法で勇者を支えることができると思うが、いざ魔王たちとの戦いとなった時、彼女は一体何をするつもりなのだろう。何が出来るのだろう。


 まぁ、その時になれば分かるか。


 ティリスはゆっくりとガランの方へ近づいていく。マリエルたちもそれに続いた。


 俺はそれをただ眺めていた。観客のように。


「これが……聖剣……!なんか、その、いい感じですね!」


 ニュアンス会話過ぎるだろ。合コンに来た女子かお前は。「○○君ってさ、いい感じだよね!」みたいな。自分の言葉に責任を持てよ、ハリボテみたいな言葉を発するんじゃない。


 俺が言えた口じゃないけど。


 ティリスは受け取った聖剣を夜空に掲げた。それに呼応し、聖剣の周りに漂っていた黄金の光がその輝きを増していき、天を穿つような一筋の光の柱を作り出した。


 皆が声を漏らしながら、その光景に見入っていた。


「おぉ……」


 俺はティリス達に近付いた。


「明日は早速ファリウスのところに行こうか」


「……そうだね!」


 ティリスは明るく頷いた。しかし、リリエッタは首をかしげていた。


 そして彼女は口を開き、言った。


「試し切りにですか?」


「違うよ!」


 妙な事のあったそんな日だったが、それでも時間は進んでいった。

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